「転んでもタダでは起きないDDT」を象徴するような大会だった。
DDTは今年6月7日に、さいたまスーパーアリーナでのビッグイベントを開催するはずだった。しかしコロナ禍で大会は見送りに。そこで団体が発表したのは、6月6日&7日の無観客ビッグマッチ2daysだった。
初日は新潟にある実家の金型工場・坂井精機の社長に就任したばかりのマッスル坂井/スーパー・ササダンゴ・マシンが、その工場を舞台に「新潟女子プロレス・プレ旗揚げ戦」をプロデュース。団体のハッシュタグ「#njpw」も一部で騒然となった。
竹下幸之介はヨシヒコと深夜のビル屋上で決戦(という映像作品仕立ての一戦)。竹下が左目をえぐられ、それを自力で戻すというホラーな展開は、ヨシヒコの爆発という衝撃的な結末を迎えた。これが初日のメインなのだからさすがDDTである。
そこから2日目の後半でセミファイナルのKO-Dタッグ選手権、メインのKO-D無差別級選手権と勝負性の強い試合に。この振り幅もDDTらしさだ。
KO-D無差別級チャンピオンはZERO1の田中将斗。47歳にして全盛期を更新し続けるベテランだ。挑戦者はDDT新世代トップの一角である遠藤哲哉。昨年のリーグ戦「D王グランプリ」決勝では田中が勝利しており、遠藤にとってはリベンジマッチだった。
「3度目の正直はない。2度目で勝つ」と宣言した遠藤は序盤からサスケスペシャル。さらに場外でテーブルを持ち出し、田中が得意とするハードコアバトルを仕掛けていく。
が、この攻防で上回ったのはやはり田中。遠藤をテーブルに叩きつけると、リング内では徹底した足攻めで試合を支配する。必殺技スライディングDをヒザの正面からぶち込む場面も。
(6人タッグ王座も持つ遠藤。ベルト独占も狙う)
窮地の遠藤は捨て身の反撃に出る。田中のテーブルクラッシュダイブをヒザで迎撃したのだ。自分のダメージと引き換えに流れを止めた遠藤は、リング内でのスーパーフライもカウント1で返し、エルボーを互角に撃ち合う。
そうしてジワジワと盛り返し、トーチャーラックボムにパッケージ式カナディアン・デストロイヤーと大技でたたみかけると、最後はシューティングスタープレスを2連発。ダメ押しとも言える2発目は、田中という強敵を倒すための「意地と本能」だったと遠藤は言う。
完璧な3カウントを奪い、2度目の戴冠を果たした遠藤。敗れた田中も「今日は彼のほうが強かった。それ以外のこと(敗因)はない」と認めていた。また田中は前回の対戦との違いとして「リングで対峙した時に、体つきからしっかり準備してきたことが分かった」と語っている。
遠藤は緊急事態宣言中もコンディション作りに余念がなく、Web上でのボディビルコンテストに出場。入賞を果たしている。とはいえトレーニングはあくまで「プロレスありき」。体重は5-6kg落ちたそうだが、それも含めて常に「打倒・田中将斗」を意識してきた。その“キレキレ”な体が、田中の猛攻に対する耐久力、フィニッシュに至る瞬発力を生んだと言えるだろう。フィジカルの説得力という意味でも、遠藤はチャンピオンにふさわしい。
本来であれば、さいたまスーパーアリーナで実現していたはずのこの試合。無観客となったものの、遠藤は王者として、さいたまスーパーアリーナが次に開催されるまでベルトを守ることをテーマに掲げた。
これはもともと田中が目標としていたこと。前王者へのリスペクトもあり、遠藤はその志を引き継いだのだ。
「他団体の田中選手がそこまでこのベルトのことを考えてたのに、俺が守り続けなかったらプロレスラー失格」
さいたまスーパーアリーナでの開催はまだ未定。しかし遠藤はチャンピオンとしての、そしてDDTとしての指針を示したのだ。物語はまだまだ続く。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング