現在のDDTマットで最も勢いがあり、成長しているのは上野勇希と吉村直巳の同い年タッグ「ノーチラス」だろう。ともに大阪出身、デビューも同じ2016年。ライバル関係だったパワーファイターの吉村とハイフライヤーの上野は、タッグを組むと予想以上のコンビネーションを発揮した。
一直線な闘いぶり、一本気な吉村に対して、上野は爽やかなビジュアルながら常に何かしら企んでいそうな雰囲気を醸し出す。昨年、長州力がDDTに参戦し「このリングに上がったのがしんどかった」、「俺が今までやってきたものと一緒というのは納得できない」と見下すコメントを残した際、チームを組んだ上野は「長州さんから学びつつ、僕は僕が好きになったDDTで面白いものを見せていきたい」語っている。“アスリート系”であると同時にDDTらしさへのこだわり、プライドも強く持っている選手だ。
ノーチラスは今年1月3日の後楽園ホール大会でKO-Dタッグ王座を奪取。相手は遥かに格上の佐々木大輔&高尾蒼馬だった。単にベルトを巻いたというだけでなく、防衛9回と長期政権を築いていた王者チームを下したことに大きな価値があった。
6月7日の無観客ビッグマッチでは4度目の防衛戦。対戦相手はCIMA率いる「#STRONGHEARTS」のT-Hawkとエル・リンダマンである。他団体でも、といより世界的に活躍するユニットであり、テクニックやインサイドワークでは王者チームより上。むしろ上野と吉村が挑む側だった。
ただ、若い王者チームにとっての防衛戦は毎回が“挑戦する立場”だ。この試合でも上野が捕まる展開が続いたが、そこで見せる粘りとひたむきさがノーチラスの魅力の一つ。しだいに上野のスピードと吉村のパワーが噛み合っていき、#STRONGHEARTSの合体攻撃も阻止。
そして上野が、リンダマンに鮮烈なフィニッシュを決めた。DDTの形で相手の首を固めつつ、飛び上がって前方に一回転。相手は後ろに宙返りしながら頭からマットに突き刺さる。
ファンからは「新技か?」、「あの技は何だ!?」といったSNSの書き込みも。それだけ斬新で強烈な一撃だったのだ。技を食らったリンダマンも「見たことねえ技やりやがって。首から突き刺さったぞ!」。
上野によると、この技はかつて対戦したHUBの「WR」。リスペクトする選手のレア技を掘り起こしたらしい。このあたりも上野ならではのセンスか。
「凄い相手でしたけど、勝ったんで僕たちのほうが凄いんじゃないかと……ウソです、調子乗りました」(上野)
冗談めかしつつ、この防衛でノーチラスがまた1段階成長し、自信をつけたのは間違いない。次は観客の前でのWR披露が待たれる。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング