公益通報者保護法の改正案が成立 会社と8年間争った男性が語る内部通報、そして報復人事
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 8日、公益通報者保護法の改正案が可決・成立した。

 組織の不正をマスコミなど外部に通報する「内部告発」、組織の不正を社内のコンプライアンス室など内部部署に通報する「内部通報」した人を保護するための法律として2006年に施行されたものの、実際には十分ではないという意見が根強く、改正案には退職後1年以内の人や役員も保護の対象としたほか、特定されないよう担当者に罰則付きの守秘義務を課すことなどが盛り込まれた。

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 「10年近く内部通報訴訟を戦いました。この法律によって苦しんでいる方々がたくさんいる」。法案成立の5日前、国会で参考人としてそう訴えたオリンパス社員の濱田正晴氏も、内部通報をした結果、社内で不当な取り扱いを受けた一人だ。10日の『ABEMA Prime』では、濱田氏、そして代理人を務めた中村雅人弁護士とともに、公益通報者保護制度について考えた。

■内部通報が社内にばれ、同僚とも会話ができず…

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 濱田氏は2007年6月、所属部署の上司が取引企業の企業秘密を得るために社員の引き抜きを主導していたことを社内のコンプライアンス室に通報した。業界にも悪評が立っており、「私だけではなく、複数の社員が知っていた。社内においても重要顧客との関係は極めて重要なので、私の部下も含めて懸念していた」。

 その日のうちにコンプライアンス室長との面談が行われ、「対応する」と約束され、翌月には「道義的な問題があり(今後の)採用は控える」とのメールも受け取ったという。

 ところが、このメールは引き抜きを主導した部長本人や人事部長にCCで送信されていた。当時、オリンパスのコンプライアンスカードには「相談や申告の事実と内容は秘密の厳守が保証され通報者が不利益な処遇を受けることは一切ありません」と書いてあった。「情報は守られると思っていたし、こんなことになるとは全く想像していなかったので愕然とした。コンプライアンス室長には“どうしてくれるのか”と言った。彼は必死で謝っていた」。

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 長らくニューヨーク支社でカメラや映像機器の営業を担当し、日本人で初めて米国トップの成績を叩き出し表彰されるほどの優秀な営業マンだった濱田氏。しかし8月には未経験の研究調査分野への異動を命じられる。「無意味な仕事を延々とやらされた。会議にも呼ばれず、仲間はずれというか、“組織的隔離”だった」。

 さらに仕事用の携帯電話は没収され、他部署・取引先との接触禁止がされたため同僚も会話ができなくなった。最高で118を記録していた人事評価は2007年3月には116、2007年10月には95、2008年3月には58、2009年9月には44.4と低下、嫌がらせとも思える「濱田君教育計画」という言葉まで目にしたという。「ある同僚がメールをこっそり見せてくれたが、私に内緒で、人事評価は“努力不足”とすることなどが徹底されていたようだ」。

■最高裁まで丸8年がかりの裁判

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 そして濱田氏は2010年1月、会社や上司を相手取り裁判を行うことを決意。施行されてまもない公益通報者保護法に基づき、配置転換命令の無効や慰謝料を求めたが、東京地裁は請求を棄却。「ひたすら謝っていたコンプライアンス室長が、裁判では“本人の承諾を取ったので全く問題ない”という主張をした。私が情報の漏洩を承諾しているはずはないが、その立証が裁判では極めて困難だった」。

 控訴審から濱田氏の代理人を務めた中村雅人弁護士は「一般的に会社側はたくさんの資料を持っているが、通報した側はそうではないので、非常に大きなハンディを背負って裁判をすることになる。会社側は通報した側が間違っているという争い方をしてくるし、法律も通報者を守るような内容にはなっていなかった。濱田さんの裁判でも、通報したことで不利益を受けたという、その因果関係を証明することに大変エネルギーを使った。1審でもかなり証拠は出ていたが、私たちはさらにきめ細かく時系列で事実を並べ、隙間を埋めていった」と振り返る。

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 結果、東京高裁では逆転勝訴を勝ち取り、最高裁で判決が確定。人事部は子会社への転籍や出向を提案したというが、濱田氏はそのまま残ることを希望。新設の品質教育チームにリーダーとして赴任した。しかし不当な扱いはその後も続いたため、2012年、再びオリンパスを提訴(2016年2月和解)。それでも、なぜ上司や人事部長にもメールが送られたのか、社内の誰がどのように関わっていたのかについては今もって不明だという。

 「提訴から和解まで8年かかったが、元の職場、営業職に戻れたかといえば、戻れていない。やはり最高裁で勝とうが、配転の無効の確認というところまでで、元の職場へ戻すことを求めるということはできない。もちろん、会社としても、元の部署に戻すということはなかなか難しいとも思う。今は人事部門で海外赴任者の主査をやっていて、大変満足している」。

 また、「裁判で“濱田は正しい。会社のために愛社精神を貫いている”という趣旨の陳述書を書いて裁判所に提出してくれた、侍のような2人がいた。隔離されていた時期も、一緒に食事をしてくれたのがこの2人だった。そのことで二次的な嫌がらせを受けているということを本人たちから聞いた。残念ながら2人とも今はいないが、彼らの存在は大変大きかった」と明かし、「私の裁判、粉飾決算という不祥事を経験したことで経営と社員が一体となって会社をより一層高めていこうという気運が出てきた。雰囲気も私の裁判時に比べて良くなっていると実感している。愛社精神があるから、会社を辞めようとは思わない。全く嫌いにならないし、今でも大好きだ」と話した。

■今回の法改正は「大きな第一歩」

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 今回の改正公益通報者保護法について濱田氏は「会社は特別休暇にして私を国会に送りだしてくれた。その意味では、やはり愛社精神を貫いて良かったと思っている。その上で、私やコンプライアンス室や経営者を巻き込む裁判の原因となった、コンプライアンス窓口担当者の無断漏洩にも刑事罰がついた意義は大きいと思うし、大きな第一歩と見ている」と評価する。

 中村弁護士は「韓国の法律では、通報してから2年以内に不利益を被った場合、通報に起因するものかどうか因果関係を推定してくれる。そういうような規定は今回の改正では実現しなかった。また、濱田さんに不利益処置をした会社や担当者は最高裁で判決が出ても従わなかったが、そこにペナルティがなかったことも問題だと考えている。少なくとも行政措置が必要だと思うが、そこも実現できなかった。濱田さんのケースからみれば、いわば“1勝2敗”というのが私の評価だ」とした。

 また、アメリカの自動車安全公益通報者法では、政府が徴収する100万ドル以上の罰金の10~30%を内部通報者に報奨金として与えることになっており、タカタ社製エアバッグの欠陥を当局に告発した元社員2人には、報奨金として113万ドル(約1億2380万円)が支払われている。「アメリカで報奨金制度が導入されてから不正の告発が増え、結果として国家に罰金が大変な利益をもたらしている。とてもうまくいっているので、日本でも導入すべきだと考えている」(中村弁護士)。

■夏野氏「日本企業の意識も高まっている」

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 今週月曜日には、山口県田布施町の職員が固定資産税の徴収ミスを町の議員に告発した結果、2年間で3度の部署移動を命じられ、現在は4月に新設された部署で町の発行物の編集業務を1人で行っていることが報じられている。職員は内部告発への報復だと訴えている。

 弁護士会で公益通報の相談に携わっている中村弁護士は「裁判までいくのはごくごく一部で、多くの通報の中の氷山の一角だ。水面下では様々な会社でも似たようなことが起きていると思うし、何年経っても是正できていない会社がいっぱいある。それが日本の現状だと思う」と話す。

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 ドワンゴ社長で、数多くの企業の社外取締役も務める夏野剛・慶應大学特別招聘教授は「裁判になれば企業ブランド価値を毀損するわけだし、通告してくれた人を守らなければいけない話なので、2013年くらいから日本企業のコンプライアンス意識は劇的に変化していて、内部通報についても取締役会にまで上がってくる。パワハラ、セクハラ、接待・交際費の使い方がおかしいなどの通報が上がってくるが、実はそうではなかったケースもある。通報制度を使って誰かを貶めることもできるので、上場企業は多くの人員を抱え、多額のコストをかけて対応している。難しい問題だ」と話す。

 制度アナリストの宇佐美典也氏は「2件ほど内部告発、内部通報の支援をしたことがあるが、いずれも社内で干されてしまっている。やはり日本企業は株の持ち合い構造などがあるので監視が緩く、経営陣の不正に対しても“利益を分配してくれればいいじゃん”とか、“お互い経営陣を守り合おうよ”みたいな文化がある。そういう根本的なところも直していかないといけないと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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