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(5月30日のTVマッチで早期タイトルマッチ実現をアピールした雪妃とすず)

 女子プロレス団体アイスリボンは、埼玉県蕨市にある道場で、ほぼ毎週「道場マッチ」を開催している。道場を試合会場として使う形だから観客は最大でも100人ほど。しかし距離の近さは大きな魅力だし、選手たちはこの舞台で着実に試合経験を積むことができる。

 コロナ禍で観客を入れての“興行”ができなくなると、無観客試合の生配信をスタートした。ファンの心がプロレスから離れてしまわないように、という考えからだった。道場があるから会場を借りなくても試合ができる。配信機材もある。やれるんだからやろう、と決めた。

 この無観客道場マッチ配信では、新人の石川奈青がデビュー。またインターネット配信試合限定のベルト「IW19」を復活させ、新王者決定トーナメントを開催している。単に試合をするのではなく、今だからできることを考えた企画でファンにアピールしたわけだ。このIW19王座決定トーナメントがドラマを生んだ。アイスリボン最年長、娘のいぶきもレスラーデビューしている星ハム子が“民意”を掴んだのだ。

 トーナメントは19分一本勝負、時間切れの場合はネットを使った視聴者投票で勝敗を決める特別ルール。「人気ないし、投票では勝てると思ってなかった」というハム子だが、その奮闘が評価されて1回戦で藤本つかさ、準決勝でつくしとタッグチャンピオンに連続で投票勝利。決勝戦では、シングル王者の雪妃真矢をタイムアップまで1分を切ったところで下した。予想を覆し続けての戴冠だった。

 そして緊急事態宣言が解除されると、6月6日から“有観客”興行が再開。“密”を避けての限定50枚のチケットはすぐに完売した。無観客試合でファンの支持を得たハム子は、観客とのコール&レスポンスに思わず涙をこぼした。

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(IW19王者となったハム子。娘・いぶきとの対戦もアイスリボン名物)

「こういう緊急事態に、最初にカットされてしまうのが娯楽業界だと身に染みて感じました」

 そう語ったのは藤本だ。だが東北出身の彼女は、鬱屈した日々にこそ娯楽やスポーツが必要なことを知っていた。

「無観客試合という形で発信をして、プロレスに救われた人がいました。それは私です」

 その1週間後、6月13日の横浜ラジアントホール大会では、雪妃の持つICE×∞王座の防衛戦が決まった。挑戦者は急成長中の鈴季すず。もともと、2人は5.4横浜文化体育館大会で闘うはずだったが、大会そのものが延期になってしまった。

 横浜文体はあらためて8月に開催される予定だが、雪妃vsすずもそこまで延ばすと、その分だけタイトル戦線が動きを止めてしまうことにもなる。そこで、自粛明けで初めて道場以外での試合となる6.13横浜ラジアントホールが本人たちの希望で選ばれたのだ。

 アイスリボンは無観客試合でもタイトルマッチを行ない、なおかつ有観客興行を再開してすぐに“頂上決戦”が組まれることになった。

 これは“自粛明けのスタートダッシュが速い”ということではない。試合を続けてきた=走り続けてきたからこそのスピード感だろう。実際、6.6道場マッチでの選手たちの動きはよかった。ブランクがないのだから当然と言えば当然だ。

 有観客興行最初のメインではタッグで対戦した雪妃とすず。何度も前哨戦を重ねており、攻防の熱も高まっている。「いま闘えば凄いタイトルマッチになる」。そういう予感を誰もが抱く状態だ。そしてこの試合から、また新たに横浜文体へのストーリーが始まる。

文/橋本宗洋

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