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 きのう午後、南北融和の象徴として2018年に北朝鮮の開城工業団地に開所された「南北共同連絡事務所」が北朝鮮によって爆破された。去年3月に北朝鮮側の全職員が撤退しており、今年1月からは新型コロナウイルスの影響で閉鎖中だったが、金正恩委員長の妹・金与正氏が13日に「遠からず跡形もなく崩れる悲惨な光景を見ることになる」と語っていたことが現実になった格好だ。

 17日、北朝鮮の朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、開城の南北共同連絡事務所を爆破した様子を写真入りで伝え、韓国の脱北者が金正恩委員長を批判するビラを撒いたことに対する報復措置であることを強調。その上で、韓国政府の対応により次の報復措置の強さと時期を決めると警告している。

 さらに北朝鮮は9日に南北間のすべての連絡ルートを遮断したほか、韓国との軍事境界線にある非武装地帯に軍を進める計画があるとも警告している。

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 今回の爆破について、北朝鮮の動向や朝鮮半島情勢に詳しい聖学院大学教授の宮本悟氏は「日本ではあまり注目されていなかったが、実は3月にも韓国のことをものすごく批判していたので、強い行動に出る可能性はあった。逆に、今までよく我慢していたというくらいの状態だった。そして今になった理由は、先月23日に党の中央軍事委員会が開催され、総参謀部が前面に立って韓国、アメリカに対する対決姿勢を出すという決定がなされたからだ。だから“脱北者が云々”というのは口実に過ぎない」と説明する。

 「北朝鮮軍に韓国や日本を占領する軍事力はないので、本格的な戦争をすることはできないが、実は人民に気を遣う国でもあるので、韓国側の行動に対する怒りを示すため、このような強い態度に出なければいけない状況に置かれているのだと思う。今回は駆け引きによって譲歩を引き出したいというものではないと思う」。

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 また、今回の爆破について金与世氏の存在がクローズアップされていることに対しては、「軍を率いる権限はないし、党中央軍事委員会にも参加していない。そして、3月に“第一副部長”に任命されたという報道があったが、これがどの部の第一副部長なのか、実は今でも分かっていない。ただ、これはほぼ間違いなく対南工作の部門だと考えられる。つまり韓国に対して強いメッセージを送る権限はあるわけだ。軍が韓国に対する強い態度に出ると決まったことを、メッセージとして伝えているに過ぎないと思う」との見方を示した。

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 一方、“メッセージ”を送られた側の韓国大統領府は「強い遺憾」を表明、「北朝鮮が状況をさらに悪化させた場合、強力に対応することを厳重に警告する」とコメント。また、韓国国防省は「北朝鮮が軍事的挑発行為を敢行するなら、韓国軍はこれに強力に対応する」としている。

 宮本氏は「官僚組織や軍隊としては定められた手順に沿って対応するとしているが、大統領府、特に文大統領自身はもともと南北交流を選挙公約に掲げて当選しているし、北朝鮮に対しラブコールを送り続けてきたので、“自分はずっと愛し続けているのに、なぜそんなにつれなくするのか”という気持ちにはなっているだろう。しかし北朝鮮からすれば、これはほとんど“ストーカー行為”のような、気味が悪いものだった。今の軍の対決姿勢を変えさせることができるとすれば、それは文在寅政権でも金正恩委員長でもなく、アメリカになる」と話し、そのアメリカに関しても「今年は大統領選があるので、アメリカが年内に変えさせるということも難しいだろう。また、北朝鮮側はトランプ大統領と金正恩委員長の個人的な関係は良好だと何度も言っているし、それは事実なのだろう。だからこそトランプ大統領や文在寅大統領の悪口は妹や外務大臣の口を通して言っているということだ。やはり次のアメリカの政権がどのように関係を調整するかにかかってくると思う」と予測した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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