(渋谷のクラブで爆破マッチに挑んだ伊藤。海外のファンにも大評判となった)
“渋谷路上爆破”とはなんとも物騒なワードであるが、実際に起きたことなのだから仕方ない。
6月19日、DDTは「シャトーアメーバ」で路上プロレスを開催。人気選手が入り乱れての闘い、その舞台は最終的に渋谷のクラブ・HARLEMへと持ち込まれた。最終決戦に勝ち進んだのは竹下幸之介&勝俣瞬馬&飯野雄貴の「ALL OUT」。迎え撃ったのは大仁田厚&伊藤麻希&クリス・ブルックスの異色トリオだ。
電流爆破マッチとして行なわれたこの試合、大仁田がHARLEMの入口で勝俣を爆破バットのフルスイングでKO。その一方、伊藤とクリスの「NEO伊藤リスペクト軍団」は敵チームのリーダーである竹下をストップさせていた。
バトルをHARLEMの非常階段に移すと、伊藤が爆破バットを持ち出して振りかぶる。バットを竹下に奪われたものの、今度はクリスが身を挺して伊藤を守り、爆破を受け止めた。とはいえ狭い非常階段だけに、ほぼ“3人同時爆破”状態。揃ってノックアウト状態となり、結果として竹下の戦線離脱が大仁田組の勝利を引き寄せる結果に。
東京女子プロレスで活躍する伊藤は爆破マッチ初体験。“邪道”大仁田と絡むのも初めてだった。試合が決まった時に「死にたくないという気持ちはもちろんあった」と伊藤。しかし同時に「爆破は受けたほうが英雄になる部分もある。そういう意味で最初から覚悟はあったかな」。
仮に竹下に爆破バットを浴びせたとしても、自分も爆破のダメージを負う。そこまで覚悟した上で、あえて非常階段での爆破を仕掛けたそうだ。伊藤らしいスタンスとしか言いようがない。“初爆破”の経験を、伊藤はこう語っている。
「あれは今まで経験したことがない音だったし、熱や光も凄かった。心臓が一瞬止まりましたよ。まず音、熱、光の衝撃があって、そこから痛みがきた。ああいうのは初めてでしたね」
伊藤が凄まじいのは、ここで「でも死にはしなかったんで」と言葉を続けることだ。とてつもない経験だったが、それで嫌になったというわけではない。
「伊藤は普通のプロレスも好きだけど、爆破もまたやりたい。引き出しが増えるというか、確実に自分の糧になるので」
東京女子プロレスの7.4両国KFCホール大会では、らくと組んでタッグ王座に挑戦する。
「最初はヘタクソとかマイクだけとかさんざん言われた」が、今は団体上位陣の一角をなす存在だ。6.20新木場大会の前哨戦でも、らくと新たな合体攻撃を披露。動きや体つきを見るだけで、練習と研究の熱心さを感じ取ることができる。そういう時に“邪道”に触れたわけだ。
「組むことになった時は、大仁田厚を伊藤リスペクト軍団に入れようと思って。やっぱり伊藤がリーダーでいたいんで、今回はまず様子見かなと。でも一緒に試合をしてみたら、むしろ大仁田厚をぶっ潰したいと思っちゃった。組むより闘うほうが面白いなって。電流爆破を大仁田厚に仕掛けたい。一回はやりたいですね」
爆破マッチで大仁田と闘いたい。そう思った理由はいくつかある。
「大仁田が試合すると、ニュースもまず“大仁田が”っていう見出しになるでしょ。それが悔しいっていうか、いつまでもその世代が注目されるのは気に入らない」
もう一つの理由は、自分が目指すのも大仁田のような「標的にされる選手」だからだ。
「伊藤は、相手が“やって得する”選手になりたい。試合したら得するから“やりたい”って言われるのがプロレスだと思う。大仁田厚はそういう存在だから、味わっておきたいなと。やっぱり闘いがいというか潰しがいありますよ。知名度は伊藤の100倍あるんだから。やったらプラスしかない。その上で、大仁田を食えるかどうか」
実力は“まだまだ”の状態から強気で感情むき出しのマイクと強烈な個性で人気を獲得した伊藤。今は実力がついてきたが、といって普通の“トップ選手”になるつもりもない。東京女子のベルトを狙いながら「大仁田厚を爆破したい」という野望を新たに抱くのが伊藤麻希なのだ。
「自分にしかできないプロレスをやるだけ。それが好きなファンだけついてくればいいし」
福岡でアイドルになってから9年。“電流爆破”“邪道”の要素も加わって、伊藤の誰も想像できなかった人生、誰にも似ていないキャリアは続いていく。
文/橋本宗洋