毎年1000人ペースで増える「医療的ケア児」、保育園入園のハードルに苦悩する親たち
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 息を吸ったり、ごはんを食べたりするときに助けが必要な子どもたちがいる。人工呼吸器や胃ろうを使って暮らす「医療的ケア児」だ。全国に約2万人いて、その数は毎年1000人ペースで増え続けている。しかし、保育園に入るのは簡単なことではない。

 今春から滋賀県内の保育園に通うため準備を進めてきた親子や、医療的ケア児を受け入れる保育園を通じて、「共生社会」を考える。(朝日放送テレビ制作 テレメンタリー保育園に行きたいな-医療的ケア児と共に生きる-』より)

■「新生児医療が進歩し、助けられなかったお子さんが助かるようになってきた」

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 きょうだいと元気に遊ぶ東明衣夏(ひがし・めいか)ちゃん(3)。一見、普通に過ごしているようだが、睡眠時や何かに集中したり、逆にボーッとしていたりすると呼吸を忘れてしまう先天性の難病「中枢性低換気症候群」を抱えている。「明らかに動かなくなったなっていうときや、自分で揺れているときは危険やなって。ボーッとしてたら、“めいちゃん、息して!”みたいな。目が離せなくて怖いです」(母・佳織さん)。

 気管を切開し、人工呼吸器を使って暮らす明衣夏ちゃん。痰が詰まると生命に関わるため、1日に何度も痰の吸引をしなければならない。主治医の熊田知浩さんによる月に2度の往診では、空気を通す管「カニューレ」の交換などを行っている。

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 明衣夏ちゃんのような医療的ケア児が増えている理由について、熊田医師はこう説明する。「新生児医療が進歩した結果、それまでは助けられなかったお子さんたちも助かるようになってきた。そうした中で、気管切開し、呼吸器をつけないといけないとか、ごはんが食べられず注入栄養でないといけないというお子さんが増えてきたんだと思います」。

 明衣夏ちゃんの状態が安定してきたのを機に、母・佳織さんは仕事に復帰したいと思うようになった。ただ、明衣夏ちゃんが保育園に入るのは簡単なことではない。医療的ケア児のが就園するには、園に看護師がいることなどの条件をクリアしなければならないからだ。申請の結果が届くはずの12月を過ぎ、佳織さんの不安は募る。

■新型コロナウイルス感染症の不安も

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 年が明けた2月、佳織さんの元に「契約決定通知書」が届いた。受け入れてくれたのは、一家が暮らす近江八幡市で唯一、医療的ケア児が通える公立保育園だった。

 少しずつ、登園に向けた準備も始まった。2月上旬、熊田医師立ち会いのもと、気管に入れたカニューレを何分くらいなら外していられるのかを確認した。「抜けてままほったらかしにしていると、気管切開の穴がどんどん縮んでいくんです。園で抜けてしまい、すぐに入らないというときのために、何分くらいなら大丈夫なのかを確認しておけば。いざ救急車呼ばなきゃいけないというときにも落ち着いて対応ができる」(熊田医師)。

 20分後、無事にカニューレを入れ直すことができ、慌てずに対応する時間がありそうだとわかった。佳織さんも「大丈夫」と安心した様子を見せた。

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 足が外股になり、長く歩くと疲れやすい明衣夏ちゃんのために、足の変形を防ぐ靴の中敷きも作ることにした。県立小児保健医療センターの二見徹病院長の診断を受けて、足形を取った。完成した中敷きを足に当て、歩く様子を見た技師は「まっすぐになってますね。お母さん良いやん」と声をかけていた。

 3月上旬には、明衣夏ちゃんを担当してきた訪問看護師たちが、保育園にケアのポイントなどを説明する場が設けられていた。見た目では息苦しさがわからないため、「集中して動きが止まる」「ゆらゆら体を揺らす」などの“危険サイン”の見極め方や、「酸素のモニターをつけて数値を確認する」「呼吸を促す」といった対処法が伝えられた。佳織さんは「一緒に生活してもらったら、そんなに大変じゃないんやということがわかってもらえると思うんですけど…」と説明した。

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 入園直前のこの時期になって、新たな不安も生まれつつあった。新型コロナウイルス感染症だ。「園で流行りだしたらどうしようって。子どもの情報が一切ないので、そこがすごく怖くて」(佳織さん)。しかしほどなくして、佳織さんから写真が届いた。そこには、無事に入園式に参加した明衣夏ちゃんの様子が収められていた。緊急事態宣言が出るまで、元気に通ったという。

■「あなた一人のために看護師は使えない」

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 「障害者手帳を持っている人は申し込めないんです、って言われて、泣いて帰ったの覚えてます」(宮本さやかさん)。

 滋賀県守山市に住む双子のきょうだい、宮本花(かりん)ちゃんと統凛(とうり)くん(4)。出産予定日より3カ月早く生まれた2人。統凛くんに大きな障害は残らなかったが、花凛ちゃんは脳や肺に出血があったため、生後3日目に手術を受け、1歳で気管を切開。人工呼吸器を使いながら暮らしている。

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 産婦人科の看護師として働いていた母・さやかさんは、経済的な理由もあり、2人が1歳になる頃には保育園に預け、職場に復帰しようと考えていた。ところが、自宅や職場がある自治体の保育園に落ち続け、託児所のある病院に転職しようと県内各地の病院に問い合わせてみるも、受け入れてもらえなかったという。

 「保育園に看護師がいないから受け入れられないって。ひどいところになると、“あなた一人のために看護師は使えないですし、それだったら働いてもらわなくてもいい”と。医療的ケアがあるから入れない。イコール差別じゃないかと、市役所にも何度か言いにいきました」。

■「ちっちゃい時から一緒にいてるっていうことが大事やな」

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 そんな時、花凛ちゃんが通う病院の看護師から、医療的ケア児も通える保育園が守山市にできるとの話を聞き、さやかさんは迷わず申し込んだ。

 市や町を越えて医療的ケア児が通えるよう地域枠を設けた「企業主導型保育園」として2018年にオープンした「オリーブ守山保育園」だ。立ち上げたのは看護師で「びわこナーシング」代表を務める角野めぐみさん。

 「預け先がない」という母親たちの声が背中を押した。「呼吸器をつけている子も、私たち看護師にはそんなに大変ではない。保育園でそこがネックになるんやったら、看護師が主体の保育園ができれば良いかなと思った」。

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 現在、医療的ケアの必要な子ども5人を含めた24人が通い、医療的ケアの必要がある子と、そうでない子が多くの時間を一緒に過ごす。痰の吸引やミルクの注入は看護師が行い、食事やお昼寝などの生活や発達面は保育士がみる。「“共生社会”って言われる中で、ちっちゃい時から一緒にいてるっていうことが大事やなっていう思いがあって。だから医療的ケアの子の保育園ではなくって、普通の子も当たり前に一緒に過ごす保育園が目的ですね」(角野さん)。

 当初は保育士と看護師の間に戸惑いもあったというが、今では連携し、互いに知識を学びながら子どもたちを見守る。「カニューレが抜けたこともあるし、想定外のことはいつでも起こる可能性はある。そこで焦ってわーってなると、子どもたちにも不安を与えてしまうのでな、保育士さんに協力してもらって、子どもたちをなだめてもらいながら、看護師が医療的ケアをしたり」(看護師・角野志乃さん)。

 保育士の谷岡柚希さんも「すぐそばに看護師さんがいてくれはるので、わからないこともすぐに聞けるし、悩むこともないですね」と話した。

■保育園での受け入れは全国で450人ほど

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 複数の医療的ケア児を預かる園は全国的にもごくわずか。厚生労働省では、2017年度から医療的ケアが必要な子を預かるために看護師を雇ったり、保育士が研修に参加したりする費用の助成を始めた。ただ、医療的ケア児が年に1000人というペースで増える中、保育園での受け入れは全国でまだ450人ほどだ(2018年度実績)。

 オリーブ守山保育園によると、医療的ケア児ほど遠方から通っている場合が多いという。重田祐庵(しげた・ゆあん)くん(2)もその1人だ。先天的な遺伝子の病気で発達の遅れやてんかんがあり、鼻から胃に通した管で薬や栄養を摂っている。

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 母・祐美さんは自宅近くの職場に復帰しようとていたが、住んでいる自治体には医療的ケア児受け入れてくれる公立保育園は1カ所しかなかった。入園が難しいことはわかりつつも申請したが、「案の定“保留”という形できたんですけど、落ちたということなので」。

 結局、自宅から車で5分ほどの公立保育園に入ることができず、オリーブ守山保育園に片道3~40分かけて通園している。「負担はありますね。市内やったら…って、やっぱり考えてしまいますね」(祐美さん)。職場復帰を諦め、オリーブ守山保育園の近くにある企業に転職することにした。

 祐庵君の父・祐磨さんは「子どもが障害を持っているというだけで働きに出るのを諦めなければいけないというのは、せなあかん道を決められているというか、選択肢を持てへんっていうか。ちょっとつらいですね」と胸の内を明かした。

■「ちょっとの刺激ですごく変わった」

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 数々のハードルを乗り越え、保育園に通い始めた子どもたち。嬉しいこともたくさんあった。

 「表情もすごく変わったかなと思いますね。揺れ遊びの時によく笑うから、これが好きなのかなとか、そういう気づきもあるし。こういう子なんやから、余計に一緒にいてあげる方が良いんじゃないかと思われることもあると思うんですけど、外に出ることで私も笑顔になれるし、親が笑顔で過ごせることが、子どもにとっても良いだろうし」(祐庵君の母・祐美さん)。

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 4月下旬、保育園に通い始めた明衣夏ちゃんと母・佳織さんにZoomでお話を聞いた。「じゃじゃーん。自分で歩いて登園しました。あの靴、履いて行ってます。隣のお友達がトイレ成功したら、この子も成功していたので、ちょっとの刺激で明衣夏自身もすごく変われるなって思いました。病気があるからできない、じゃなくて、同じ環境で一緒にできることはしよう、そういう流れが社会全体に広まればありがたいなと思います」(佳織さん)。

 医療的ケアの必要な子どもたちが最初に触れる社会・保育園。子どもも親も安心して通える場の整備は、始まったばかりだ。(朝日放送テレビ制作 テレメンタリー『保育園に行きたいな-医療的ケア児と共に生きる-』より)

保育園に行きたいな-医療的ケア児と共に生きる-
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