アメリカで議論が続く人種差別問題が思わぬところまで波及している。
CNNによると、アメリカの長寿アニメ『ザ・シンプソンズ』が、白人以外のキャラクターの声に白人俳優を起用しないと決定。また、AppleTV+の『セントラル・パーク』では、黒人と白人の両親を持つ子ども役を演じてきたクリステン・ベルの降板をプロデューサーが発表するなど、白人の声優が異なる人種の声を担当することへの変化が出始めている。
アメリカのアニメ業界で何が起きているのか。映画ジャーナリストの斎藤博昭氏に聞いた。
「実写映画もアニメもここ10年くらい、“いろんな人種を出そう”とか“セクシャリティーも多様性に富ませよう”とか、意識的にバラエティーに富んだ登場人物にさせているところはある。問題が起こる前に自分たちから改善しようという意識が、この人種問題の一連の流れから発生している」(斎藤氏)
そもそもなぜ、作品に登場するキャラクターの人種に合わせた声優にすべきだという考えが広まっているのか。Netflixの人気アニメ『ボージャック・ホースマン』で、ベトナム系アメリカ人「ダイアン」を演じたアリソン・ブリーは、Instagramでこう振り返っている。
「今さらですが、ダイアンの声を担当しなければよかったです。特定の人種のキャラクターは、その人種の人の声が当てられるべきだと、今は理解できますから。ベトナム系アメリカ人社会の人たちの貴重なチャンスを奪ってしまったことを、心から謝りたいです」
斎藤氏は、声優に対する日本とアメリカの意識の違いについて次のように話す。
「日本人からすると、そこまでこだわるなんてバカみたいというのはすごく多い。逆にアメリカ人の場合、“このアニメのキャラクターに誰の声を当てているか”という日本人の声優文化みたいなものはなく、ベトナム人のキャラクターだったら、スターが(声を)あてなくてもベトナム人の俳優もいっぱいいるので、“じゃあそっちの方がいいんじゃない”といった感覚があると思う。キャラクターに合った声ではなく、それよりももっと“誰でもいい”という感覚で、コンプライアンスが正しい方が良いのではないかという考えが一般的なのではないか」(斎藤氏)
では、登場するキャラクターの人種に声優も合わせるという流れは、日本の作品にも影響するのだろうか。
「日本という世界観をそのままアメリカで映画化する場合は、やはり日系人とかアジア系のキャストを絶対に使わなければいけないという縛りは出てくると思う。ただ、日本のアニメの吹き替え版をやる時は、全部を日系人のキャストでできるかというと絶対に無理だと思う。ここまで過剰な反応があるということは、そういう問題も今後出てくる可能性はある」(斎藤氏)
■赤松健氏「この方針で規制していくと昔の作品が見られなくなってしまう」
アニメのキャラクターと声優の人種を揃えようとする動きについて、『ラブひな』などが代表作の漫画家で日本漫画家協会常務理事の赤松健氏は次のように話す。
「日本から見ると過激な反応に見えるが、海外には海外の事情があるので、安易な批判は避けてしばらく様子を見たいと思っている。ただ、個々の能力ではなくて人種で選ぶという手法自体は、これまで歩んできた人類の歴史に逆行しているようにも見えてしまう」(赤松氏)
では、もし赤松氏自身の作品が海外で吹き替えられるとなった場合、この問題はどのように捉えるのか。「日本では人種によってアニメの声優を変えることはないが、海外版ではその時に合わせて、向こうの自由にしてもらう方針でやっている」とした上で、過去の作品とこれからの作品づくりについて自身の考えを話す。
「海外で、過去の作品が削除や撤去されつつあることがすごく気になる。日本では、昔の手塚マンガにも結構差別表現があったりするが、そういうものは断り書きを入れて昔のまま公開する手法が一般的になっている。差別表現があるからといってどんどん規制していくと、昔の作品が見られなくなってしまう。ただし、今後作られるものについては、表現の自由が担保されている中で、我々クリエイター側が独自に配慮を行う形をとれば全く問題ない。この両面でうまくバランスを取っていけたらと思っている」(赤松氏)
さらに、赤松氏は日本のアニメのキャラクターが白人をモデルに描かれているように見えるという指摘に言及。「我々クリエイター側は意識して白人として描いているということはない。考えてみれば例えばセーラームーン(の主人公の月野うさぎ)は金髪だが、まあこれも漫画的表現に過ぎない。そもそも前世が月の世界の人という設定。そういったファンタジーの世界で、ダークエルフ族なども批判の対象になり得るなど、これからいろいろな問題が起こってくると思う」と懸念を示した。
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