7月3日、DDT新宿FACE大会のメインイベントは、団体史上初の女子シングルマッチだった。「赤井沙希 おきばりやす七番勝負」の最終戦。対戦相手は“女子プロレス界の横綱”里村明衣子である。
里村は女子のトップというだけでなく、DDTでKO-D6人タッグ、KO-D無差別級のベルトを獲得。男女の枠を超えた実力を示した。DDT唯一の所属女子選手である赤井は「自分もベルトを狙っていいんだ」と里村の活躍に触発されたという。
坂口征夫、樋口和貞と6人タッグ王座を掴んで迎えた、思い入れのある相手との大事な一戦。しかし里村も気合いが入りまくっていた。コロナ禍でリングから離れていた里村は、これが3ヶ月ぶりの試合。「プロとして気の緩み、体の緩みは見せちゃいけない」と、この3ヶ月で9kgの減量も敢行した。
自身の動きを「最高でした」と語ったように、里村は常に試合の主導権を握り続けた。序盤のハンマーロックからギブアップを奪えそうな迫力。赤井の反撃は蹴り一発で寸断されてしまう。
(相手を認めたからこそ、里村の激しい攻撃も目立った)
それでも赤井は必殺技ケツァル・コアトルを決めるなど食い下がる。健闘を支えたのは、DDTにおける男子選手との闘いで培われたタフさだろう。得意のビッグブーツを何度も叩き込むなど、思い切りのよさも光った。最後は里村がスコーピオ・ライジングで勝利したが、これは最上級のフィニッシュ。赤井の頑張りがそれを出させたのだ。
七番勝負の結果は3勝4敗と負け越し。しかし「この経験を強さに変えなくちゃいけない」と、赤井は気持ちを新たにしたようだ。「七番勝負で闘った相手はみんな1人で来て、1人で帰っていきました。だから私も1人で帰ります。もっと強くなります」と、セコンドの肩を借りずに引き上げていった。
里村に対しては「みんなが里村選手の背中を見ているけど、見ているだけじゃプロレス界に入った意味がない」。この七番勝負、赤井がプロレスラーとしてさらに大きな決意を抱くきっかけになったと言えるだろう。むしろここからがスタート。七番勝負を経て赤井沙希というレスラーがどう変化するのかに注目したい。
試合後の里村も「凄くしぶとくなっていた。芯の強さが(前と)まったく違う」と赤井の実力を高く評価していた。だが里村自身「こういう時期だからこそ覚悟がある。弱ってらんねえなって」。この試合は赤井のためだけのものではなく、里村にとっても大きな意味があった。久々のリングでもまったく隙のない里村に必死で挑んだからこそ、“メインイベンター・赤井沙希”は輝いたのだ。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング