単なる乗り物としてではなく、居住スペースとして利用するケースが増えている自動車。自由な生き方を求めた新しいライフスタイルとして車中生活を選ぶ人もいれば、生活困窮などの理由で、車中生活を余儀なくされる人もいる。二極化する車中生活の光と影に迫った。
・【映像】コロナ禍で変わるクルマの価値観 車中生活の"光と影"
■妻の病気を機に脱サラ、日本中を旅するバンライファーに
車を生活拠点として仕事や旅行を楽しむ生き方。それが「バンライフ」(VANLIFE)だ。
“バンライファー”のがっちゃんとむっちゃんの夫婦は、約1年半前から中古で購入したキャンピングカーでバンライフ中だ(現在はコロナの影響で地方への旅は自粛中)。脱サラし、車中生活を選んだ理由について、がっちゃんは「本当は僕が定年してから日本一周しようと思っていた。ところがむっちゃんに病気が見つかってしまって」と明かす。
車内はワークスペースとしてもフル活用、インターネットにも接続できるため、2人はYouTuber・ライターとしても活動、旅の様子を発信している。また、キッチン、シャワー、トイレも完備しているため、非常に快適なのだという。
月の支出は燃料費が9万円、高速通信費等が1.5万円、食費が3.5万円、外食費が0.5万円、通信費が1万円、停泊費が1.5万円、入浴費が0.5万円、保険等が2.5万円で合計約20万円だ。ガソリン代が約半分を占めているが逆に言えばこの金額で生活しながら、日本中を旅することができてしまうのだ。
むっちゃんは「自由に好き勝手に動けるのが10年くらいだよとお医者さんに釘を刺されてしまって、会社でのキャリアを手放してもがっちゃんと2人で生きていきたいなと思ったのが一番だ。会社勤めをしている時はモノを見た時に『キレイ』とか『おいしい』とか当たり前のことが欠如していた。今は毎日の小さな幸せを『幸せ』と感じられる」と話していた。
■車と建物の境界が溶け、“可動産”に!?
全国の車中泊スポットを検索できる「カーステイ」や車中泊仕様のカーシェアサービス「バンシェア」を運営するCarstay株式会社の宮下晃樹代表取締役は「日本でもリタイアされた方が娯楽としてキャンピングカーを持っていらっしゃったが、最近では20代、30代の方がヤフオクやメルカリでバンを買い、DIYする様子をYouTubeにアップするなどしているし、“動くオフィス”“動く家”として使っている人もいれば、“動くホテル”として週末だけ旅に出かける人もいる」と話す。
一方、課題としては、駐車のできるスペースが少ないことや、トイレの付いていないキャンピングカーも多いことだという。国土交通省では道の駅での車中泊に関して、交通事故防止のため施設での「仮眠」はOKだが、「宿泊」については言及していない。ただ、「駐車場でのBBQ」「洗面所での炊事」「電源を勝手に使う」「長時間アイドリング(騒音・環境問題)」など一部マナー違反も指摘されている。
宮下氏は「5Gの技術が進歩し、電気自動車、自動運転車が増えていけば、より快適に過ごせる車が出てくる。そうすれば建物・不動産との境目が溶け、“可動産”のようになっていくのではないか。そうすれば、街そのものの概念も変わっていく」と話した。
■“自分がまいた種だから”と支援を断るケースも
他方、生活の困窮や人間関係のもつれなど、やむを得ない事情で車中生活を余儀なくされる人たちもいる。NPO法人「POPOLO」の鈴木和樹事務局長は、「気軽に隣の市や隣の県に移動できてしまうので、どれくらいの車中生活者がいるのか、正直分からないのが実情だ」と話す。
「保証会社と過去にトラブルがあって、不動産契約ができないなどの理由で車中泊をせざるを得ない人たちがいるが、旅行者と見分けるのが難しい。また、日払いの仕事などになりがちではあるが、車があることで地方では生活が成り立っているという人も多く、稼ぎがあるため日によってはネットカフェに泊まったり、ホテルに泊まったりする。こうした理由から、実態の把握が難しい。また、行政が夜回りをするということはほとんどないし、僕たちが声をかける中でも、年間十数件ぐらいしか支援に繋がらない」。
そこで鈴木氏らは定期的に夜回り活動を行い、声を掛ける地道な活動を10年以上続けている。しかし、“そっとしておいてほしい”として、支援を断る人も少なくないのだという。
「“自分がまいた種だから”とか、“自分が頑張らなかったからだ”とか、過去を悔いている方も多い。3日、4日ご飯を食べていないという人に出会ったことがあるが、食べ物を渡しながら関係を深めていったら、ようやく“じゃあ、あんちゃんのところで世話になるよ”みたいな感じになってくれる。あるいは“支援を受けたら?”と何度も声をかけるうちに関係ができてきて、役所に相談に行ってくれるケースもあるが、“うちでやれることはない”と言われて追い返されてしまい、不信感を抱いてしまうこともある。うちの施設は無料で入れるので来てくれる人もいるが、生活保護は“人に迷惑はかけたくない”として嫌がる人は多い。僕も生活保護の家で生まれ育ったので、その気持ちは分かる」。
平成27年に始まった「生活困窮者自立支援制度」に基づく一時生活支援事業では、住居のない人に衣食住を提供する支援事業がある。しかし、これは地方自治体が行う「任意事業」であり、実施率は全国で31%に留まっているのが現実だ。(出典:平成30年度生活困窮者自立支援制度の実施状況調査)。「全国の自治体に相談窓口は用意されているが、残念ながら多くの人に制度そのものが知られていない。また、ある自治体が一時生活支援事業を作ると、自治体が“そっちに送り込めばいいや”として作ってくれないということもある」(鈴木氏)。
■“このままここで死んじゃえば、誰か私のこと見つけてくれるのかな”
鈴木氏たちの支援を受け、車中生活を脱したAさん(50代)は、夫との離婚後に息子と暮らし始めるも、交際相手との関係がうまく行かなくなり、家を出ることになったという。「スーパーの駐車場などで過ごした。足を伸ばせない、暑い、寒い、息苦しい。不安感も襲ってくる。富士山の方に向かって走ってみて、“このままここで死んじゃえば、誰か私のこと見つけてくれるのかな”とか、そういうことばかり考えてとにかく辛かった。気軽に相談できる窓口が市役所以外にもあったらいいのに」。
鈴木氏は「今も街のどこかで彼女と同じように苦しい思いをしている人がいる。しかし、僕らはそれらを把握しきれていない。気軽に“助けて”と言えるような社会になったらいいと思う」と訴えていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)






