れいわ新選組の公認候補として、去年の参議院選挙に出馬した大西つねき氏(56)の発言が物議を醸している。
・【映像】命の選別をするのは医者?自分?政治家?コロナ時代に考える “意思表示カード”発案者出演
問題視されているのは今月3日に配信された動画での発言で、医療・介護費の問題を念頭に「高齢者をもうちょっとでも長生きさせるために、子どもたちか若者たちの時間を使うのかということは真剣に議論する必要があると思う」とした上で、「こういう話、多分政治家は怖くてできないと思う。“命の選別をするのか”などと言われるだろう。生命、選別しないと駄目だと思う。もう、はっきり言うが、何でかというと、その選択が政治だ。その選択をするのであれば、もちろん高齢の方から逝ってもらうしかない」との見方を示したのだ。
批判を受け、大西氏は7日に動画を削除、発言を撤回し、謝罪した。また、れいわ新選組の山本太郎代表は「立党の精神と反するもので看過することはできない」としつつも、「除名するという判断はこちらにとっても簡単なことではあるが、それでは根本的な解決にならない」として、専門家による“生命の尊重に関するレクチャー”を公開の形で行うとしている。
■ヨーロッパのコロナの現場で迫られた“究極の判断“、日本ではどうなる?
“若者か、高齢者か”という大西氏の発言で思い起こされるのが、新型コロナウイルスの感染拡大によって医療体制が逼迫した欧州での議論だ。イタリアやスペインなどでは、数に限りのある人工呼吸器を誰に優先して使うのか、という極限の判断が迫られた結果、高齢者よりも若い世代を優先したケースもあった。フランスの医師は、治療する立場として「集中治療室に入れる患者を選ばなければならない。その決断に強いストレスを感じる」と心境を明かしている。
いわゆる“団塊の世代“が後期高齢者に達し始める日本において、こうした問題に直面する可能性はないのだろうか。コロナ“第二波”、そして医療崩壊の危機に瀕死したとき、究極の判断をするのは誰なのだろうか。
医療関係者、研究者、弁護士らで作る「生命・医療倫理研究会」では、「人工呼吸器などが不足し、医療資源の配分が不可避な状況では公正で透明性のあるプロセス(明確なルール作り)が重要」「実際に医療現場で配分する際のフローチャートを提示→判断基準は『救命の可能性』『本人の意思』」「公的なガイドラインの作成を要望」と提言している。
そんな中、「コロナに感染した場合、高度治療を若者に譲る」という「集中治療を譲る意志カード」、通称「譲(ゆずる)カード」を提案しているのが、大阪大学人間科学研究科未来共創センター招へい教授の石蔵文信医師だ。「欲しいという方も多く、非難されることの方が少なかったので、ちょっと驚いた」と話す。
■石蔵医師「生き方・死に方は自分ではっきりさせたほうがいい」
ネットでも公開されており、日付と署名を記入して使用する「譲カード」には、「新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器や人工肺などの高度治療医療を受けている時に機器が不足した場合には、私は若い人に高度医療を譲ります」と記されている。
大西氏の発言について石蔵医師は「社会保障費をどう配分するか、という話が大事だが、それを命にまで繋げてしまったので、このようなことになってしまったのだと思う。命の選択は他人がすべきではない。それが原則だと思う」と指摘。その上で、自身のカードについて次のように説明する。
「僕のカードは、他人に命を選択されるというものではなく、自分で選択をするというものだ。マスコミが先に言ってくれないので誤解が生じてしまっているが、私は2月に癌の全身転移が分かり、余命いくばくもない。 そこで医師として、“自分を生かしていくのはあまり良くないだろう、若者に譲りたい”と考えた。人工呼吸器を使うということは、すでに意識がない状態だ。何もしなければ、誰かが命を選択する可能性が出てくる。そのことの方が怖いし、その前に表明しておいた方が良いだろう、ということだ。救急医の経験もあるが、医者というのは全員を助けなければならない。それでも人工呼吸器が足りなくなった時にどうするのか、すごく悩むことになると思うその基準は政治にも決められないだろう」。
さらに石蔵医師は「これを作ったもうもう一つの理由は、みんなもうちょっと自分の生き方・死に方についてはっきりさせた方が良いと思ったからだ」と話す。「僕の場合は家族も医者ばかりなので、カードについて“そうだね”とあっさりOKしてくれた。孫は3歳と5歳なので分かっていないと思うが、やはり“死んでほしくない”と言われれば嬉しいだろう。これが“人生会議”だ。日頃から議論をしておくことが大事であって、言えない、という社会はおかしい」。
■反対の塩村議員「こんなカードが一般的になる社会は恐ろしい」
一方、「志願させるのですか。今度は高齢者を。反対です。こんなカードが一般的になる社会は恐ろしい」とツイートするなど、「譲カード」に異を唱えているのが、立憲民主党の塩村あやか参議院議員だ。
大西氏の発言について塩村議員は「命を救うのが政治の使命なのに、そこに区切りを作り、一部を切り捨てるとも取れるような発言をするのは良くない。若者が少なく、高齢者が多いということを前提にしているのだと思うが、それならどうすれば若者が増えるのか、そして世代間の格差や分断をどう乗り超えていけばいいのか、ということを考えなければならないはずだ。その意味で大西氏の話には、どうすれば命の選別をしなくて済むのか、という、政治が先にやらなくてはならない部分が抜け落ちてしまっていると感じた」と指摘する。
また、塩村議員は「本当に最終的な場面で、ある種のトリアージということはあるのかもしれない。しかし、それを判断するのは政治ではなく、本人だ」とするが、石蔵氏のカードに反対するのは、“志願”が“強制”に繋がってしまうことへの懸念があるからだという。
「私は石蔵さんのカードが出てくる以前から、自分の最期について家族でしっかりと話し合うことが重要だということを言ってきたし、石蔵さんの話にも共感する。そのような判断は否定されるものではないし、むしろ尊重されるべきだとも思う。ただ、これまでの日本社会を考えると、高齢者が“治療を辞退します”というのが美談のようになってしまい、本心ではないのに“世の中の流れがそうだから、自分もそうした方が良いのではないか”、そして、“そうするべきだ”となってしまうのではないかと思った。私の親族には特攻を志願した人がいたが、家族が泣きながら理由を尋ねると、やはり事実上の強制になってしまっていた、という話を聞いた。やはりこのカードが一般的になるような社会になるのは反対だし、社会保障とか世代間の分断に繋がっていくのは良くないと思う」。
こうした塩村議員の主張に、石蔵医師は「僕の判断を“すばらしい”と言うこと自体がまずい。僕は英雄視しないでくれと言っている」とコメントしていた。
■ひろゆき氏「政治家はこのような発言をしてはいけないのか?」
両氏の意見を受け、ライターの速水健朗氏は「日本社会では自己決定についても同調圧力に流されてしまう、という塩村さんの懸念には納得できる。一方、“政治家はこういう発言をしてはいけない”とタブー視しするのも、ちょっと行き過ぎだと思う」と話す。
「例えばスウェーデンでは80歳以上には集中治療室を使わせない、という選択をした結果、新型コロナウイルスの死者が高齢者に偏る結果になってしまった。成熟した市民社会であることが前提になるのかもしれないが、それでも社会の合意の下、このようなことを政策に移すのが政治家の役割だ」。
2ちゃんねる創設者のひろゆき(西村博之)氏は「僕は大西氏の発言には反対だが、どんなに間違った意見だったとしても、政治家に“そういうことを言うな”と言って発言すること自体をやめさせてしまうのは良くないと思う。議論しなければ、良いか悪いかも決められない」と指摘。
他方で「決めるのは本人か医者か政治かのいずれかしかない。お医者さんに決めさせろという人もいるかもしれないが、お医者さんは決めたくない。それなら本人か政治家かが決めることになるが、石蔵さんのカードもダメ、政治家も決めるべきじゃないと言うのは、問題を先送りしているだけで何も解決しようとしていないのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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