7月12日に開催されたRISE無観客大会『RISEonABEMA』。メインイベントでは那須川天心が今年の初戦を行ない、公募から選ばれた笠原友希を1ラウンド1分30秒でKOしている。
笠原はシュートボクシングのフェザー級1位。将来の可能性を秘めた19歳で、応募してきた選手の中で最も強い選手として白羽の矢が立った。それでも、両者の差はおそろしいほどだった。
何より驚かされたのは、那須川が成長していたことだ。「ブランク明けの心配はなかった」という言葉通りのキレのある動き。「よりしなやかに動いて強弱をしっかりつける」ことを意識していたという。
2度ダウンを奪った右フックは、長身でサウスポーの笠原を倒すために磨いてきた技だった。倒し方の幅を広げるという意味でも、フックのレベルアップは重要だったそうだ。しかし練習してきた技を試合で出すというのは、決して簡単なことではない。
「練習したことが出たというか、出るまで練習したんで。そりゃ出るよなと」
那須川は試合後、そう語っている。「また必殺技が増えた」のは、あくまで練習の成果なのだ。というより、成果が出るまでやりこむのが彼にとっての練習なのだ。
そんな那須川の非凡さを感じ取った笠原もまた非凡だったと言えるだろう。リング上で拳を交えた実感として、笠原は那須川の強さと凄味をこう語っている。
「努力の違いを感じました。天才なのに努力してる、努力してるからあそこまでいけるんだなって。僕はまだまだ及ばないですね」
90秒間ひたすら圧倒されて、しかしこのコメントが残せるのだから笠原のファイターとしてのセンスもただごとではない。那須川もそのポテンシャルを称えていた。それだけでなく勇気も。
「笠原選手は今後、伸びると思います。正直、怖い部分もあったと思うんですよ。メイウェザーとやるかやらないかって言われてやるほうを選ぶ。そういうことですよね」
自分がどうなってしまうのか分からない恐さ。それを乗り越えてリングに上がってきた笠原の心情を、那須川は理解していた。こうした部分があるから、那須川天心の強さは奥深い。単に“天才”では済ますことができないからこそ、那須川は魅力的だ。そう再確認できる試合だった。
文/橋本宗洋
写真/RISE