本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート、2015年サンダンス映画祭USドキュメンタリー部門 撮影賞/監督賞を受賞し、映画「ハート・ロッカー」監督のキャスリン・ビグローが製作総指揮を務めたドキュメンタリー『カルテル・ランド』。公開を記念し、5月7日(土)に、トークイベントが実施された。

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麻薬カルテルの縄張り争いや政府との武力紛争を指す「メキシコ麻薬戦争」は、これまでに12万人以上もの死者を出し、今もなお悪化の一途を辿っている。本作は、そんなメキシコ麻薬戦争の最前線で自ら麻薬カルテルに立ち向かう人々の姿を追い、正義と悪の境界が消滅していくさまを映した衝撃のドキュメンタリー作品だ。

『カルテル・ランド』に衝撃を受け、人気バラエティ番組「クレイジージャーニー」にて、映画の舞台になったメキシコ・ミチョアカン州に潜入取材を敢行した犯罪ジャーナリストの丸山ゴンザレス氏が、<メキシコ麻薬戦争>の今を語った。

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TBSの人気バラエティ番組“クレイジージャーニー”で『カルテル・ランド』の舞台となったメキシコ・ミチョアカン州に取材を敢行した丸山。『カルテル・ランド』を初めて観た時の印象を聞かれると、「最初は衝撃しかなかった。自分でもずっと、こういう潜入取材がやりたいと思っていた。だから、“やられた!”というのが最初の正直な感想」と、犯罪ジャーナリストとして『カルテル・ランド』へ覚えた羨望の気持ちを明かした。

そうして『カルテル・ランド』に触発された丸山は、“クレイジージャーニー”にて実際に現地へ取材を実現させる。『カルテル・ランド』が撮影されてからおよそ2年後のミチョアカン州を訪れた丸山は、政府、軍、麻薬カルテル、自警団、それぞれの“正義”が拮抗し、複雑に絡み合うメキシコの現状を肌で感じたという。

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『カルテル・ランド』では、自警団を結成した医師のホセ・マヌエル・ミレレスが、残忍な麻薬カルテル“テンプル騎士団”を追い出し、その後勢力を伸ばした自警団が腐敗し、悪に侵食されていく様が描かれる。「麻薬カルテルが後退したことで、かえって秩序のバランスが崩れた」と語る丸山は、「現地の人は、生活を安定させてくれるなら、それが政府でも、自警団でも、麻薬カルテルでも構わないと思っている。自警団が正義なのかと言うと、決してそうではない」と言い、さらに、「ミレレスは天性のカリスマがあり、今でも彼を認めている人は多いが、彼が逮捕され、いなくなったことで重石が取れたように自警団が自由に動くようになってしまった。“クレイジージャーニー”で取材を申し込んだところ拒否された(ミチョアカンの都市)アパティンガンの自警団は、麻薬カルテルを討伐する闘いには参加しておらず、いきなり“自称・自警団”として現れ、銃で武装して街をうろつき始めた。ミレレスとは何の関係もない」と自警団の物騒な実態を明かし、「“自警団”というくくり自体、今は意味を成していない。映画で描かれた自警団は、今は空中分解している」と語った。

さらに、映画では駆逐されたとされる麻薬カルテルも決して壊滅させられたわけではなく、「秘密結社のように水面下にもぐり、地域に根ざした暮らしをしている」と言う。「取材中に、(メキシコで民間信仰の対象となっている死の聖母)“サンタ・ムエルテ”の売店を訪れた時、怖い外見の人がいるなと思っていたら、コーディネーターに“あいつ、カルテルのやつだよ”と言われた。こういう風に、カルテルの人間は身を潜めながら、逮捕されずに町中にいる」のだそうだ。

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続いて丸山は“クレイジージャーニー”ではオンエアされなかった“ヤバイ裏話”も披露。『カルテル・ランド』の序盤、ミレレスが自警団のメンバーを募るため街頭でスピーチをするシーンがある。そこで、聴衆の中にカルテルのメンバーが紛れ込んでいるのだという。しかし、何と彼は“クレイジージャーニー”の取材を拒否したアパティンガンの自警団のメンバーでもあった。丸山が会ったその三日後に彼は殺され、その時には麻薬カルテル“テンプル騎士団”のメンバーとして報じられたという。

『カルテル・ランド』のマシュー・ハイネマン監督についても、「監督は質素な生活を好む人。水を入れた水筒を持ち歩き、チーズを挟んだパンを食べるのが好き。取材で半日とか、長時間待つのにも耐えられる人だった。スペイン語ができないのに地元の農家の人に溶け込んで、今でも遊びにいくらしい」と、現地の人から聞いた裏話を紹介した。

現地のカルテルの人間は『カルテル・ランド』に対して激怒しなかったのか?と質問されると、「コーディネーターから、“あいつらは、映画の文脈がわからないから大丈夫”と告げられた」と言い、「カルテルのメンバーに実際に聞くと、“観たけどつまらないから15分でやめたよ”“「ブレイキング・バッド」が最高!”“『ボーダーライン』もおもしろい”と言われた」と述べると、会場は笑いに包まれた。

最後に、「映画を観たらミレレスを正義と思うかもしれないが、そもそも正義とは何なのか?ということ。“正義”は耳あたりのいい言葉だけど、それぞれの集団にそれぞれの正義がある。“これが正義だ”と掲げられても、それは彼らにとっての正義で、相手にとっての正義ではないかもしれない。正義とは何か、ということを『カルテル・ランド』を観て考えさせられた。

そもそも、広大な国土を持つメキシコでは、自分たちの手の届く範囲がとりあえず平和ならいいと多くの人が考えている。国家や政治について色々と言うこともあるけれど、人々の望みは、日々の生活を穏やかに暮らしたいということ。自分の会社や農園に課せられたみかじめ料が払えない、といった問題から自警団は結成される。直接自分のところまでダメージが来たときに、人は立ち上がる。この映画が示したのは、国としてのシステムが機能しないとこういうことが起こるよ、ということ。これは決してメキシコだけの話ではない。日本人としても遠い話ではないんじゃないか」と客席に呼びかけ、トークを締めくくった。

映画『カルテル・ランド』はシアター・イメージフォーラムにて大ヒット上映中(順次全国公開)

(C) 2015 A&E Television Networks, LLC

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