未解決殺人事件やひき逃げ事件に苦しむ被害者遺族たち…それでも時効が必要な理由とは?
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 ビデオに映る幸せそうな母子の姿。しかしこの7カ月後、母親の高羽奈美子さん(当時32歳)は、命を突然奪われてしまう。勤務先にいた夫の悟さんが同じアパートの住人から連絡を受け駆けつけると、奈美子さんが何者かに首を刃物で刺されて亡くなっていた。

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 「廊下に膝から下が出ている感じで、うつ伏せで、顔が右方向に向けて倒れていて、首の下から胸あたりは血の海というか、血だまりになっていた」。2歳だった長男・航平くんは、奈美子さんの遺体のすぐそばでベビーチェアに座り、おもちゃで遊んでいたという。

■2010年の法改正で時効が撤廃…「犯人を捕まえることが最終目標」

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 事件から21年、不動産業者らの協力もあり、悟さんは今も同じ物件を借り続けている。「玄関のたたきの部分には、犯人の血が残っている」。現場を保存することで、犯人逮捕の望みをつなげようとしているのだ。

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 この血痕のDNA型鑑定などから、犯人はB型の女だと判明しており、当日には手に怪我をした40~50代とみられる女も付近で目撃されているが、捜査は難航。今も犯人逮捕には至っていない。「悔しいだろう、犯人が憎いだろうと言ってもらえるが、それ以前の問題。なんで妻が殺されたのか。その理由が全く分からない」。

 悟さんに立ちはだかったのが、殺人事件の時効、15年だった。被害者遺族らで作る『宙の会』メンバーとして時効制度の撤廃を目指し活動。残り4年半となった2010年に刑事訴訟法の改正案が成立、殺人や強盗殺人など凶悪犯罪の時効が撤廃された。

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 「私たちは時効を迎えても仕方ないが、これから起きる未解決事件については時効をなくして欲しいと切に願って活動してきた。私たちの事件についても遡及して適用されるとは微塵も思っていなかったので、ある意味、びっくりした。一生懸命活動したご褒美かなと受け取った。今では警察に特命班ができて、ものにすごく一生懸命やってくれていると感じる。すごくありがたい。犯人を捕まえることが最終目標なので、勝ったとは思わないが、引き分けには持ち込めたかなと思っている」。


■ひき逃げや傷害致死などについては、今も時効が

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 ただ、2010年の法改正で時効が撤廃されたのは凶悪犯罪のみ。ひき逃げや傷害致死などについては、今も時効が残る。

 「とにかく自首してください。私たちも、胸がつかえて、言葉になりません」。熊本県天草市の山切征利さんは、今から9年前、市職員だった一人息子の山切大輔さん(当時27歳)をひき逃げ事故で亡くした。「白っぽい車が現場から立ち去った」との目撃情報があり、天草署はこれまで延べ6500人を動員して捜査にあたったが、犯人は今も捕まっていない。

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 今も現場周辺で情報提供を呼びかける征利さんたち遺族に、自動車運転過失致死傷罪の公訴時効である10年という刻限が迫る。母・野江子さんは「あなたはこのまま一生を過ごしますか?1日も早く出頭してきてもらい、人間として罪の償いをしてください」と訴えた。

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 前出の高羽悟さんは、「ひき逃げ事件は未解決事件の遺族と同じ立場で、犯人が捕まらない、どうしてそういうことになったかも全く分からないまま、月日を過ごさなければいけない。今すぐには捕まらないかもしれないが、DNAから復元ができる時代。これから技術が発達するので、より細かい情報が得られる可能性がある」と話し、ひき逃げなどでも時効を撤廃したほうがよいとの考えを示す。

 「人というのは愚かな生き物なので、時効が撤廃されても殺人事件が劇的に減るということはないと思う。時効が撤廃されたからといって、私たちが期待したほど、犯罪の抑止力にはなっていないというのは残念な結果。ただ、私の事件の場合、犯人は40~50歳くらいだったと見られているので、せめて犯人が生きていると考えられる間は捜査してほしい。30~40年くらいは捜査してもらって、それでも分からなければ私も諦める」。

■時効が存在する理由とは?

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 犯罪行為から一定期間が経過すると、起訴することが許されなくなる制度、時効。それは、誰のため、何のためにあるのだろうか。

 実は、刑事訴訟法には、公訴時効を定めた根拠は記されていない。改正に反対した日本弁護士連合会(日弁連)意見書を見ると、「長時間が過ぎ、裁判でアリバイ立証などが困難に」「犯人にも事実上の社会関係が成立している(家庭や仕事など)」「全事件に長期的な捜査本部、捜査員の配置は無理」「時効で真犯人が名乗り出なくなり、冤罪が救済されない」「時効を迎えた被害者救済に特別な補償制度も検討すべき」といった考え方が提示されている。

 同じく時効廃止に反対に意見を示した鈴木亜英弁護士は、公訴時効の存在理由を(1)時の経過により犯罪の社会的な影響が低下、処罰の必要性が減少する、(2)時の経過により証拠が散逸し、その結果冤罪を誘発する可能性がある、(3)長期にわたり処罰されないという事実状態の尊重が必要、(4)捜査費用の無限の増大、の4つの点を挙げる。

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 「もちろん遺族感情を軽く考えてはいない。被害者からみれば、時効によって気持ちが晴れないままに終わるという悔しさもよく分かる。それでも時効制度の維持が必要だと考えているのは、メリット、大きなプラスがあるからだ。もし時効がもしなかったとしたら、どうなるのか考えた時に、すごく大事なことが失われていくように思うつまり被害の立場に立った人と加害の立場に立った人、両方にとってこの制度が存在していることが社会の一員として安心感を持つことに繋がる」。

 また、科学技術が発達することで捜査の可能性が広がるという意見に対しても、「DNA検査の精度が上がってきていることで誤りが減り、捜査の迅速化が図られていると思う。例えばアメリカでは改めてDNA検査をしたところ、260人くらいが無罪になったという事例もある。そう考えると、冤罪の可能性が下がるということは考えられる。一方、時効の成立後に、どう見ても真犯人だという人物が現れるケースはこれまでにもあったので、DNAだけの責任にしてしまうのは不正確なことになるのではないかと思う」と話していた。

 時効制度、あなたはどう考えるだろうか。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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