「自殺ではなく“自死”を」自死遺族の思いと報道の在り方 問われるメディアのモラル
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 俳優の三浦春馬さん(30)が18日、東京・港区の自宅マンションで意識不明の状態で見つかり、その後死亡が確認された。現場からは三浦さんの悩みや死生観などが書かれたノートが見つかっており、自殺とみられている。

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 三浦さんの死が報じられた18日、厚生労働省の自殺対策推進センターから報道に関する注意点についての資料が各メディアに届いた。資料の中では「WHO『自殺報道ガイドライン』を踏まえた報道を徹する」という指針が示されている。

 WHOのガイドラインとは、自殺の連鎖を防ぐための報道の在り方を示したもの。自殺の手段について明確に表現しないことや、センセーショナルな見出しを使わないなど、模倣自殺を防ぐための指針が示されている。

 近年、メディア側はこうしたガイドラインを参考にしながら、特に注意を払いながら報じるようになったが、本当にこのやり方で著名人の死について伝えつつ、模倣自殺を防げているのか、手探り状態の報道が続いている。

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 そんな中、全国自死遺族連絡会の田中幸子代表理事は「自殺」という言葉自体を見直すべきではないかと指摘する。

「30年以上前から自死遺族支援を考えている人たちがいて、その人たちの中では自殺という言葉ではなく、自死という言葉が使われている。人間が死んだあとの言葉は、みんな事故死や病死、自然死、災害死など、全部(言葉が)『死』なんですよね。やはり『殺す』という言葉はすごく衝撃的なイメージがあって、私たちがいう自殺は『君が悪い』とか『自分を殺したんだから自分・個人の責任なんじゃないか』っていうことで、社会的な問題ではなく、個人の責任にしてしまう風潮がずっと続いたのではないかと思っています」

 また、田中理事は、他にも見直すべき自死に関する報道があるとして「夏休み明けに子供たちの自死を防ぐために、9月1日に自殺予防週間をキャンペーンみたいな形で大々的にそこだけ一週間、一カ月やればいいという話ではない。日常生活の我々の、働き方だったり、学校の問題だったり、介護の問題だったり、日々の生活の中に(自死の可能性が)常にあるということを意識するために、派手なキャンペーンではなく、粛々とやるべきだと思う」と語る。

「自死という死に方を特別扱いしてほしくない。違うという意見もあるでしょうけど、病気と同じような形というか。多くは様々な社会的要因によって追い詰められた死であって、決して『死にたい人』が死ぬわけではないんですよね。だから変に腫れ物に触るようにしてほしくないし、事実を事実として伝えてほしい」

 自身も息子を亡くした自死遺族である田中理事。1人ひとりのささいな普段の言動が「逃げ道をなくした人の力になるかもしれない」と訴える。

「自分の身近な人にやさしい言葉をかけてあげたり、いつも思ってるよーとか。常に声をかけてあげてほしい。日本人って『愛してるよ』や『心配してるよ』とか(言葉をかけることが)苦手な気がしている。私も後悔していて、息子に『愛してるよ』とか『大切なんだよ』とか、心ではいっぱいあったけど言葉としては伝えられていなかった。ぜひ言葉で伝えてほしい」

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■「自殺報道ガイドライン」も絶対ではない 神庭記者が懸念するメディアの思考停止


 ニュースメディア「BuzzFeed Japan」の神庭亮介記者は、WHOの自殺報道のガイドラインについて「徹底されているとは言い難いが、記事の末尾に相談窓口を記載するなど、徐々に浸透しつつある」とコメント。さらに「現場で考え続けていくことが必要」と主張する。

「全国自死遺族連絡会の田中理事から『自死を特別扱いしてほしくない』という発言があった。一方でWHOの自殺報道ガイドラインには『自殺をよくある普通のこととみなす言葉を使わないこと』という記載がある。この2つは矛盾する部分があるかもしれないが、そうした食い違いも含めて、我々報道の人間は考え続けないといけない。『抗議が来ないように、とにかくWHOのガイドラインさえ従っておけばいいんだ』とガイドラインに寄り掛かり、免罪符にして、思考停止してしまうのはよくない」

 また、神庭記者は「WHOの自殺報道ガイドラインも絶対的なものではない」と指摘する。

「模倣を防ぐため、メディアがWHOのガイドラインを守ろうとする努力はとても大切だ。だが、誤った理解に基づいて『自殺=悪』『自殺報道は避けるべき』とタブー視し、腫れものに触るような風潮になってしまうと、逆に自死遺族の方への偏見を招きかねない。WHOの文書にも『自殺について語ることは良くない考えであり、自殺を助長する』といった考え方について『迷信』だと書かれている。メディアの人間は『本当にこれでいいのだろうか?』と自問自答し、考え続けながら、知見をアップデートしていく必要があるのではないか」

 遺族をさらに苦しめてしまう可能性もある自死報道。報道の在り方について、マスメディアに関わる記者一人一人のモラルが問われている。
ABEMAヒルズABEMAより)

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