那須川天心、白鳥大珠をはじめRISEは若いチャンピオンが牽引している。その1人が女子王者の寺山日葵だ。
19歳、大学生の寺山は那須川、白鳥と同じTEAM TEPPEN所属。7月18日の後楽園ホール大会では、NJKFミネルヴァ王者のsasoriと対戦した。
漆黒の衣装に身を包み、キャッチフレーズは“女蹴さそり”、入場曲も梶芽衣子の『怨み節』と作り込みの激しいsasoriは、リングに上がればアグレッシブファイター。ひたすら前進してパンチを振るう。
対する寺山は距離を活かしたスタイルで応戦した。射程距離の長い蹴りで突き放し、相手が接近してくるとカウンターでヒザ。サソリ相手の“逆・毒針”だ。
3ラウンドにはsasoriがパンチで猛攻、本戦の判定はドローとなり、試合は延長にもつれ込む。セコンドについた那須川の声も、ラウンドが進むにつれて熱を帯びていった。
その声に触発されたのか、寺山は延長ラウンドで再び勢いを取り戻す。蹴りに加え強烈な右ストレートもヒット。苦しんだ試合だったが、なんとか振り切って勝利をものにしている。
「女王らしい試合ができなかった」という寺山だが、まだ若いだけにきつい闘いの中で失速しながらも盛り返し、白星を残した経験は大きい。延長戦では、いわば“第2エンジン”が点火した形で、それは寺山が持つ底力の証明だと言えるだろう。本戦が終わった時点で「正直、もう帰りたかった(苦笑)」というが、そこで心が折れなかった。
インタビュースペースでは、目に涙を浮かべていた。
「悔しい気持ちしかないです。もっと一方的に勝ちたかったのに」
前の週に行なわれた那須川の試合も影響していたようだ。1ラウンド90秒での圧倒的なKO勝利である。
「天心にあんな試合を見せられて、自分がこれでは…」
翌週には、それぞれの弟の試合もある。バトンをつなげるという意味でも、いい形での勝利がほしかったのだ。
とはいえ、である。勝っても悔しくて泣くのは強くなるための大事な条件とも言える。那須川天心の試合内容に負けられないと思う、その志もいい。今回は本人にとっては悔しい試合、しかし見る者には寺山日葵という選手の可能性を感じさせるものだった。
文/橋本宗洋
写真/RISE