DDTが“自粛明け”初となる後楽園ホール大会を、7月23日に開催した。
メインイベントはKO-D無差別級タイトルマッチ。王者・遠藤哲哉に上野勇希が挑戦している。遠藤はデビュー8年の28歳。上野は24歳、10月でデビュー4年になる。大事な大会のメインを20代、新世代の2人が務めた意味は大きい。特に若手ブランド「DNA」出身の上野は、タッグ王座を防衛することで目覚ましい成長を見せている。遠藤は2度目の戴冠で、自分独自の王者像を作りたいところだ。
このところ、遠藤と上野は6人タッグ、タッグ、シングルとベルトをかけて対戦する機会が多く、このマッチアップはDDTの新たな“目玉”となった感がある。どちらも空中殺法を得意とする“ハイフライヤー”タイプ。切り返しの攻防も含め、鮮やかで観客の予想を超える闘いを繰り広げてきた。
この試合でも、上野がトップロープ越しに飛びつきながらの断崖式フランケンシュタイナーという超荒技を繰り出してみせた。ドロップキックの高さだけでも“ゼニが取れる”選手の上野だが、今はアイディアとそれを実行する身体能力が際立っている。
対する遠藤は、飛ぶだけでなくグラウンドでの「ゆりかもめ」、勝負どころで放った新たな投げ技とオールラウンドな攻撃。フィニッシュできる技の多彩さで上回っていた。最後は最大の必殺技であるシューティングスタープレス。遠藤自身も「THE BEST」という言葉とともに動画をツイートするほどの一発で、高さ、フォームの美しさとも完璧と言えるものだった。
王者らしい実力を示した遠藤は、試合後に激しい自己主張も。次の防衛戦はKING OF DDTトーナメント優勝者との対戦になる予定だが、遠藤は「自分が優勝して挑戦者を指名する」という。その相手は世界レベルのスターであるケニー・オメガだ。
「必ず優勝して、ケニー・オメガをDDTのリングに呼んでやる。俺はアイツに一夜明け会見で言われたこと、忘れてねえからな。一字一句忘れてねえ。俺は根に持つタイプなんだ」
(フィニッシュは完璧なシューティングスター)
DDTから新日本プロレスで出世し、現在はアメリカで旗揚げしたAEWの副社長も務めるケニー。昨年11月、久々に古巣・DDTの両国国技館大会に出場したが、その一夜明け会見での発言が物議を醸した。DDTの現在、そして未来を担う遠藤と竹下幸之介をこれでもかと否定したのだ。
「竹下や遠藤には“興味深い”くらいしか言うことはない。身体的な変化はあったけどハートが感じられなかった。DDTファンの心すら掴んでいない。竹下は大きくなったし、遠藤はボディビルダーみたいな体型だ。でもリング上では何も変わってない。彼らはIWGPが獲れるのか? 東京の外に出てどれだけ認知度があるんだ?」
これ以降、ケニーはDDTには参戦していない。今後も、コロナ禍の行方も含めどうなるか分からない。だが“このまま黙っていられるか”という思いは遠藤の中にずっとあったのだ。田中将斗からベルトを奪った際、肉体改造について聞かれると「あくまでプロレス用の体」と答えていたのは、ケニーの発言が念頭にあったのかもしれない。
このマイクとコメントで、遠藤はDDTのチャンピオンとしてのはっきりとした自己主張をしてみせた。トーナメントにも“誰が優勝するか”にとどまらない軸ができた。
「団体を背負ってるんだというのを感じました。中だけじゃない、外に目を向けてる」
遠藤をそう評価したのは“大社長”高木三四郎。遠藤はかつて「タイトルマッチは挑戦者が主人公」と語ったが、チャンピオンながら“受け身”をやめたことで存在感は一気に高まった。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング