原爆投下から75年 広島の歴史をオンラインで 日米アーティストが挑む“新しい継承”の形「アートの立場から見つめ直すべき」
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 広島の原爆投下からきょうで75年。平和への歩みを進める一方、歴史を継承する被爆者の高齢化が叫ばれている。“コロナ禍”と”高齢化”の二重苦の中、彼らの思いをどう語り継いでいくのか。広島の歴史を繋ぐため、タッグを組んだ2人のアーティストをABEMAABEMAヒルズ』は取材した。

【映像】サイトで見る「広島平和記念資料館」の館内

 8月6日午前8時15分、原爆投下から75年目を迎えた広島。新型コロナウイルスにより、大幅に規模を縮小する形ながら平和への祈りを込めた黙とうが捧げられた。

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 平和への歩みを進める一方、新たに問題となっているのが、新型コロナウイルスによる歴史の継承活動への影響だ。共同通信が全国の被爆者を対象に行った調査によると、78%の人が現在、「被爆体験を伝える活動をしていない」「回数を減らした」と回答したという。高齢化による体力の衰えに加え、感染拡大の影響から歴史の継承活動を行うことが困難な状況になっている。

 被爆者の高齢化と新型コロナウイルスの2つの問題に直面する中、“新しい被爆体験の継承の形”を目指す取り組みがスタートした。

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 今日から期間限定でスタートしたウェブサイト「FUTURE MEMORY」。360度カメラで撮影された「広島平和記念資料館」の館内を、画面を通じて見学することができる。広島県出身の楪望アナウンサーは「画面で見ているとは思えないほどです。実際に行くと、何度行っても本当に胸が痛くなるのですが、パソコンの画面の前でも同じ感覚になります」と話す。

 このサイトを立ち上げたのはアメリカ在住のアーティスト、キャノン・ハーシーさん。キャノンさんはこのプロジェクトに対して、アートの立場から歴史を見つめ直すべきだと話している。

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 「3Dで撮影することで歴史の新たな表現の方法を探っています。私たちの目指すところは、人々が広島の歴史により近づくことができるようにすることです。アートの立場から歴史を見つめ、学びと気づきを生むことです」

 キャノンさんの祖父、ジョン・ハーシーさんは1946年、被爆翌年の広島市を取材。被爆者などの取材をもとにルポ『ヒロシマ』を執筆したことで知られている。

 そんなキャノンさんと今回タッグを組んだのが、日本でアーティストとして活動する藤元明さん。藤元さんはアメリカ人であるハーシーさんがこのプロジェクトの旗振り役を務めることに対し、感慨深い感情があると話す。

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 「アメリカ人にけん引されるという部分は大きかったですね。僕らが思っている原爆という感覚と彼らにとっての核兵器という感覚は、アメリカ人と日本人で全然違うので。かといってアメリカ人がみんな是としているわけではなく、ただ知らないということなんです」

 世界中の人に原爆の歴史を知ってもらいたい――そんな2人の思いから始まったこのプロジェクト。藤元さんはオンラインならではの見どころがあると話す。

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 「一番の特徴はズームして見ることができること。高解像度で撮っているので、例えばキャプションを読むことができるとか、日本語と英語で併記されていますけどこれ(展示)はなんであるかを知ることができる。一つひとつの作品を見ていくという意味では、全部で200何十カ所の視点で撮ってそれを全部つなぎ合わせているので、非常に細かく見ることができるようになっている」(同)

 細部まで見ることができる映像からは、当時の広島の状況を読み取ることができるようになっている。藤元さんは、インターネットの普及によって“歴史との向き合い方”も変化してきていると話す。

 「インターネットでみんなが歴史のエビデンスに触れることができるようになったと思うんです。原爆ということも時代時代によって読み解き方がやはり違って、今の時代だと我々が新たに読み解くのであれば『こういう提案になっていく』みたいな。そういう意味では、他のいろいろな歴史も読み解き方が変わっていくと思う」(同)

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 近い将来、いつか訪れる“被爆者無き時代”。原爆の記憶を風化させないよう、アートに出来ることは何なのか。2人は今も「試行錯誤の連続だ」と話す。

 「修復できない大いなる喪失に対して、人間はどう向き合っていくのか。忘れていくことで歴史が進んできているわけですけど、風化していくという現実に対して矛盾というか、そういう狭間の中でアーティストというのは何ができるのかという興味がある」(藤元さん)

 「被爆者のお話のように、被爆遺物からも多くを学ぶことができます。困難からも生き延びていく力。それは悲しいだけのものではなく、人に気づきを生むものです」(キャノンさん)

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 「FUTURE MEMORY」の取り組みについて、ノンフィクションライターの石戸諭氏は「興味深いプロジェクトだが、見れば見るほど思ってしまうのは、被爆者の高齢化問題。いま語っている方のほとんどが子ども時代の記憶を語っていて、それも直接語ることが困難になっている中で、インターネットの取り組みは非常に有意義だと思う。ただし、僕たちがもう一度確認しないといけないのは、インターネットが現実の完全な代替物になるわけではないということ。やはり体験者の声を聞いていく必然性はあるし、2世3世の方や僕らを含めてどう経験を受け継いで、広島の話を語り継いでいくかを本格的に考えていかなければいけない時代に入っている」と話す。

 記者として過去、被爆者に話を聞いたことがあるという石戸氏。「その時に思ったのは、被爆者に幼少期の体験を聞くことはできるが、(当時の)大人の体験はもう聞くことができないということ。その時の大人の人たちのことは資料でしかわからない。どう語り継いでいくかを考えざるを得なかった」と振り返った。

(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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