10月、11月のビッグマッチでのトーナメント開催が決まり、RISE女子戦線の注目度も一気に高まった。“伝説の女王”神村エリカがプロデューサーを務めるこのトーナメントが発表されると、多くの選手が出場をアピールしている。
そんな中、8月23日のRISE後楽園ホール大会では女子マッチが3試合組まれた。ホープたちの出世争いとも言えるマッチメイクだ。とりわけ、次世代を担う存在として期待されるのがAKARI。16歳にしてプロ3戦3勝、神村の指導を受ける愛弟子でもある。
今大会では17戦とキャリアで大きく上回る後藤まきと対戦。判定勝ちを収めたが、相手の粘りと圧力に苦しめられる場面も多かった。試合後には涙も魅せている。
「ダメでした……。自分がやりたいことは決まってたけど、試合の中で迷ってしまった。メリハリがなかったし、相手の圧力がうまくさばけなかったです」
AKARIは、そう試合を振り返った。振り返りながら、涙がこぼれそうになっている。よほど悔しかったのだろう。隣で師匠・神村が解説してくれた。
「試合前の練習では調子がよかったんです。過去3試合の時より練習量、トレーニングレベルも上げてましたし、もうちょっとできるかなと思ってました。それだけに……と。ずっと同じ間合い、同じペースで試合をしてしまいましたね。離れたらこう、くっついたらこうという練習をしっかりやっていたんですけど。だから技術的にはできるんです。できるから私も求めている。でも試合中は不安や迷いに邪魔をされてしまう。迷っているのがこっちにも伝わってきました」
自分の動きのパターンを作り、理解して自分で動けるようにならなくてはいけないと神村。試合中のAKARIはセコンドについた神村の「蹴れ!」という声に合わせて蹴り、インターバル中に指示されたコンビネーションをすぐに使っていた。セコンドの声の通りに動けるのは、能力が高い証拠だ。ただ、この師弟はそこでは満足しない。
「もっと臨機応変に対応できるようにならないと、どっかで壁にぶち当たってしまう。もうぶち当たってると思います。ずっと課題は一緒なんです。試合中にうまく切り替えたり、無意識に動けるようにしたい」(AKARI)
「セコンドに言われたことはできてましたけど、言われた時だけ。1回じゃなくそれを続けて、自分で試合を組み立てていってほしい。セコンドの声に従う時も必要だし、あえて聞かないほうがいいこともあるんですよ。今はどっちつかずになっているので」(神村)
(セコンドの指示通りに動く場面も目立ったが……)
神村は今のAKARIと同じ16歳でプロ初戴冠を果たしている。だからこそその言葉には説得力があるし、神村が育てるAKARIへの期待感も大きくなる。キャリア4戦の選手に求めるハードルとしては高すぎるような気もするが、AKARIならできると師匠は見ている。
「プロでは4戦目なだけで、もう彼女は10年くらいキックボクシングやってるので。できないことを求めてるわけではないんです。練習ではできてましたから」
この説得力のある厳しさは、かつて小林聡や前田尚紀、山本真弘といった名選手を育てた“キックの神様”藤原敏男を思わせるものがある。そんな師匠の弟子であること、デビュー4連勝でも内容に満足できず泣いてしまうところが、AKARIの強みだ。
「エリカ先生がトーナメントをやるって言ってくれたことで、女子選手がやる気になってます。みんな出たいって主張するようになって。私はその女子の中でも一番になりたい。(現チャンピオンの寺山)日葵ちゃんを倒すって自分でも言ってるので」
今回の試合には、師匠も弟子も納得していない。しかしその姿から、師弟の志の高さは間違いなく伝わってきた。
文/橋本宗洋
写真/RISE