キャリア8戦全勝のチャンピオンが誕生した。8月30日のキックボクシングイベント・REBELS後楽園ホール大会。そのダブルメインイベント第1試合として行なわれたのは、BLACKルール(ヒジなし)女子46kg級初代王座決定戦だ。
赤コーナーはぱんちゃん璃奈。REBELSとKNOCK OUTを主戦場とする選手で、雑誌のグラビアにも登場するなど注目されてきた。7戦全勝で迎えたこのタイトルマッチでは、シュートボクシングのMISAKIと対戦。J-GIRLSのベルトを巻いたこともあるMISAKIは、ぱんちゃんにとって格上の相手になる。
序盤から、ぱんちゃんはリーチ差、身長差を活かしたスタイルでMISAKIを攻略していく。離れた間合いではジャブと顔面への前蹴り、接近戦を狙うMISAKIが突っ込んでくると捕まえてヒザ。相手の持ち味を殺す闘い方に徹して、ぱんちゃんは判定勝利をものにした。
「まだまだ実力がなくて、勝つだけのワンパターンな試合しかできないですけど、このベルトは絶対に守ります!」
ファンに向けてそう語ったぱんちゃん。バックステージでも「試合内容は点数で言ったら30点くらい」だと言う。理想が高いから勝つだけでは満足できない。内容に納得がいかず、涙を見せることもある。しかし今回に関しては「MISAKI選手に勝てたことだけは100点」とも。初めてのタイトルマッチはキャリア最大の大一番。とにかく勝つことが大事だった。
「もっといろんな技を使うつもりだったんですけど、ジャブとストレートが当たった瞬間に、もうこれと組みだけでいこうって、そこに徹底して。本当にベルトだけが獲りたかったので」
プレッシャーも相当なものだった。ホームリングでは負けられず、なおかつ相手は格上。しかも試合が決まってからの期間が長かった。対戦が発表されたのは2月のこと。当初は4月に闘うはずがコロナ禍で5月に延期、その5月大会も開催されなかった。8.30後楽園まで半年間“格上相手のタイトルマッチ”のプレッシャーと闘ってきた。
「しんどかったです。解放されたかった……」
思い出すだけで涙が出てくるような時期を乗り越え、それでも集中力を切らさずに闘っての戴冠だったのだ。
メディア露出も多いから“人気先行”と見られがちなぱんちゃんだが、基本は体育会系である。むしろ最大の敵はオーバーワーク。逸る気持ちをコントロールすることも陣営にとってはポイントになる。学生時代は陸上に打ち込んだが、ケガで競技を離れた。夢中になれるものを探し、そこで出会ったのがキックボクシング。大げさでなく「私はキックボクシングに救ってもらった」とぱんちゃんは言う。8戦全勝での戴冠、まったくブレることのない作戦の遂行は、人生をかけたチャレンジの結果だった。
めぐってきたチャンスをキッチリものにできるのは実力があるからこそ。ベルトを巻いたことで、新たなチャンスも生まれやすいだろう。「まずは45kgの選手を全員倒したい」とぱんちゃん。これからは“新鋭”ではなくこの階級のトップの一角となる。
そこで期待されるのは、10月、11月に開催されるRISEの女子トーナメント参戦だ。当然、本人も興味はある。ただ懸念されるのは試合間隔の短さ。8月末に試合をして10月からトーナメントというのは精神面でも厳しい。ぱんちゃんが所属するジム・STRUGGLEの鈴木秀明会長はこう語る。
「今回のタイトルマッチは、2度延期になりながらずっと気を張って練習してきたので。トーナメントはいいチャンスなんですけど、今はちょっと休ませたいというのが正直なところですね。本人がどうしてもやりたいというのであれば考えますが、試合までの期間が短いのは気になります」
ぱんちゃん自身は「(RISEで)やるからには絶対に勝ちたい。だからしっかり準備したいです。ルールの違いもあるし、今の私は準備期間があるから勝てているので」。実際のところ、この半年間はベルトのことしか考えられなかった。だから次の闘いについては「あらためてめてしっかり考えます」と言うしかない。
トーナメント出場が有力視される紅絹からも間接的に闘いたいと言われており、女子最強を決める場に“ぱんちゃん待望論”が出てもおかしくはない。といって、焦って不完全な状態で参戦して勝てるほど甘くもないだろう。
陣営の選択が注目されるところだが、ともあれぱんちゃんは女子キック最強争いにおける重要人物の1人となった。そして次の試合がどの舞台であれ、チャンピオンになった彼女は間違いなく今回よりも強くなっている。
文/橋本宗洋