「シンプルに着たくない」
インターネット上で批判の声が上がったのは、BEAMSのTシャツ。口をふさがれた女性が銃を突き付けられているものと、制服姿の女性とみられる人物がプリントされた2種類だ。このデザインが、性暴力やピンクチラシを連想させるとして、女性蔑視であるとの指摘を受けた。
このTシャツについてBEAMSは、「可愛さと毒々しさが入り混じる印象的なアイテムです」と紹介していた。しかし、批判の声を受け販売中止を決定。商品制作における意図を伝えられておらず、誤解を招いたとして謝罪した。
「弊社ではイラストのモチーフとされた事象へのアンチテーゼがデザインに込められているという解釈のもと、仕入れ販売しておりました。本来であれば、販売過程の商品説明において、バイイングの意図を正確にお伝えすべきでしたが徹底しておりませんでした」
確かに、説明がなければ見る人によって印象が変わるのがTシャツのデザインだ。批判の声の一方で、公共の場でのファッションと表現の自由について、ネット上では「ファッションは自由じゃん」「アートの意図を説明すんのなんて無粋でしかないじゃん」「DVと買春のどこがいいんだ」「何かの風刺には見えなかった」など様々な意見が飛び交っている。
炎上したBEAMSのTシャツのデザインについて、BuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏は「『LOVERAT IS OVER』は“浮気男は終わり”という意味なので、銃を突きつける男のイラストはあるものの、全体としてはDV・暴力の否定とも捉えられる。 “自分自身に嘘をつく必要はない”という言葉があるうえ、手で抑えられた女性の口も苦痛を示すようにへの字に歪んでいて、DVを肯定しているようには読めなかった。一方のテレクラやピンクチラシを風刺したものも、顔の笑顔が逆さまで、心では泣いていると解釈することもできる。両者とも肯定的なメッセージを込めたものではないと思うが、そう考えない人がたまたま目にした結果、炎上につながったのではないか」との見方を示す。
また、Tシャツに“政治的な正しさ”を求める風潮に疑問を呈し、「アートだから許される、芸術性があるからいいんだという擁護の仕方もしない方がいい。今回はたまたまメッセージ性があるのでそういう擁護もできるが、裏を返せば『アートでなければダメだ』ということにもなりかねない。Tシャツにはくだらないものもあれば、悪趣味なものもあり、TPOをわきまえて着ればいいだけだ。ゲバラのTシャツを着ている人が、みんな革命思想の持ち主というわけでもない。Tシャツに思想や良心を求めるのはお門違いだと思う」
一方、フリーアナウンサーの柴田阿弥は「女性蔑視とまでは思わないが、DVや売買春というデリケートな問題へのアンチテーゼだという意味で販売されたことは、BEAMS広報の文面からも伝わった。でも、それが伝わらず批判につながったのかと思う。そこまでTシャツに意味を求めて着る人もいないしもっとひどいメッセージのTシャツはたくさんあると思うが、BEAMSという大きなブランドである以上、社会的な影響も大きかったのではないか」と意見を述べる。
これを受けて神庭氏は、「確かにSNSでの紹介文が不十分で、風刺やメッセージの意図までしっかり説明できていなかった」とした上で、「Tシャツの暴力性や女性の下着が見えていることを問題視する声もあるが、時代劇の合戦で大勢が殺し合うシーンや、国民的アニメのキャラクターがパンツ丸出しなことを批判する人はいない。Tシャツだけを倫理の斧で裁くのは、バランスを欠いているのではないか。明らかなヘイトが込められているようなものは論外だが、そうでなければ着たいものを着ればいい。もう少しおおらかに考えられたらいいなと思う」と述べた。
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