5日のABEMA『NewsBAR橋下』に、立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務める出口治明氏(72)が出演。コロナ禍の大学教育のあり方について議論した。
■「下期からは対面も組み合わせるつもりだ」
大分県別府市にあるAPU。同市は温泉を中心とした観光都市でもあるため、コロナ禍は学生の学業だけでなく、生活をも直撃した。
「学生のアルバイト先は、ほとんどがホテルや飲食店。だから最初に知事や市長にお願いにいった。その結果、県は外国人留学生を優先にした奨学金の枠を特別に広げてくれ、市もアルバイトの仕事を作ってくれた。そして卒業生と教職員有志で『APU Hands』という団体を作り、お米やパスタ、小麦粉を配ったところ、地元紙に大きく取り上げられたら、市民の皆さんから米1トンとか、香川の方から讃岐うどん500食が送られてきた。僕も手伝いに行ったが、6~700人もの学生がやってきて、“これでしばらくご飯を食べられる”と喜んでくれた。立命館全体で25億円の緊急支援、政府からの援助もあり、4億円を配ることができた」(出口氏)。
さらに3000人の外国人留学生を抱えるAPUでは、オンライン授業にも力を入れたという。「外国人留学生のうち、春休みに自分の国に帰った1000人くらいが再入国できない状態になってしまった。そこでAPUは2月の段階でZoomと契約した」(出口氏)。
オンライン教育に関心を寄せる橋下氏は「うちの子のうち2人が大学生で、ずっとオンラインで授業を受けているが、親からすると、授業の質が下がってしまうのではないかという思いがある。それでも授業料は変わらない。報道を見ていても年内は対面での授業はやらないという大学が多いようだが、すでに緊急事態宣言が解除されている以上、大学での授業を再開できるようアイデアを出していくのが“知の拠点”としての意義ではないか」と指摘する。
「僕が番組で疑問をぶつけた大学教授は“その通りなんだけれど、経営陣が及び腰になっている”と言っていた。対面での授業を再開してクラスターが出れば責任問題になるので、経営陣としては“とりあえずオンラインでやってくれ”という考えのようだ。小学校も中学校も高校も登校を始めているのに、なぜ大学だけ登校をさせないのか、という不満がある」。
すると出口氏は「100%、橋下さんの仰る通りだ。APUでも、上期はやむを得ずオンラインでやったが、下期からは対面も組み合わせるつもりだ。立命館全体でもその方向で議論している」とコメント。
「アメリカの大学に引っ張られている部分があるのかもしれないが、僕は“大学とは何をするところなのか”ということに立ち返って考えてみた。やはり勉強は皆が集まることで進むものだと思う。世界から一線級の研究者が集まる、ある海外の学会で“何が気づきになったか”とアンケートを取ったところ、学会で聞いた最先端の講演ではなく、ご飯を食べた時に横に座った人と話をしている中で様々なヒントを得られたという回答が多かったそうだ。ピア・ラーニングというが、先生と学生がキャンパスに集まって無駄話も含めお喋りをする中で気づきを得ていく。それが大学の価値、大学教育の根幹ではないだろうか」。
■オンラインなら、入りやすく卒業しにくい大学も作れる
日本生命保険相互会社を58歳で退職、60歳でライフネット生命保険株式会社を創業した出口氏。
橋下氏は「出口さんのような考えの大学トップは少数派ではないだろうか。加えてお聞きしたいのは、オンラインの有意義な部分を伸ばすことだ。オンラインなら、他大学の授業が聴けるのがメリットだと思う。うちの子は法学を学んでいるが、やっぱり全国各地の有名な教授の授業を聴きたくなると言っていた。でも実現すれば、教授陣はものすごい競争に晒されてしまうことになる。それでも他大学も含めて聴きたい授業を聴いて、そして自分の大学に集って学生同士が気づきを得るというのが新しい学びの形態だと思う」と重ねて質問した。
出口氏も「それも仰る通りで、競争が強化されるのは原則として良いことだと僕は思う。自分も負けないように頑張ろうという、進化のエネルギーになると思うからだ。また、昔から言われてきたことだが、日本の大学は、入試は難しいが合格した後は遊んでいてもいい。一方、海外の大学はどちらかと言えばその逆で、入りやすいが、卒業するためにはものすごく勉強しなければならない後者の方が大学らしいと思う。人数制限のないオンラインを上手に組み合わせれば、希望者は入れるよ、でも、入った後は大変だよという大学の設計も可能なると思う」と応じた。
橋下氏は、「出口さんも色々なところでぶつかっていることと思うが、僕も行政の経験上、大学ほど古く、硬直的な世界はないと感じてきた。文部科学省が教室の数や定員の数など細かなルールを決めていて、違反すれば私学助成金を減らされてしまうこともある。しかし、オンラインなら施設の大きさは関係ない。間口を幅広く取って入学させ、そして絞っていくというのが良いと思う。出口さんはライフネット生命を立ち上げた時に色々な行政の壁を突破されたと思うが、大学行政にも風穴開けていってもらいたいなと思う」と期待を寄せていた。(ABEMA/『NewsBAR橋下』より)
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