解説を務めた元フットサル日本代表・稲葉洸太郎さんが思わず実況に確認した。何が起きたのか理解できていない視聴者たちも、数秒後から「あのトラップからの落とし何!? ガリンシャやば」「うわぁぁ」といった感嘆の声を次々に寄せた。うまさを超越したプレーに触れると人はいったん思考停止するのかもしれない。
6日、ABEMAで生中継されたフットサル最高峰のリーグ戦「Fリーグ」の開幕節で、フウガドールすみだのガリンシャが、試合終盤の緊迫した場面で、まるで小野伸二のような神技トラップを披露したのだ。
■8カ月前の悔し涙を晴らすために臨んだ開幕戦
ゴレイロ(フットサルのGK)から相手陣内の右奥へ送られた、およそ30メートルの浮き球のパスを、ガリンシャは、利き足の左でピタリとコントロールしてみせた。まるで強力な接着剤でも塗ってあるかのように、ボールはまったくバウンドすることも、わずかに動くこともなく、彼の左足にきれいに収まった。
現在、Jリーグ・FC琉球に所属する元日本代表・小野伸二が、今年3月にクラブのSNSを通して披露したトラップもまさにそうした神技だった。浮き球のパスを、何の予備動作もなくそのまま歩くように受けると、ボールはピタリとコントロールされる。この究極のトラップを、フットサルで実践する選手がいたのだ。
ガリンシャは、2018年に来日したブラジル人アタッカー。加入当初こそ味方との連係に時間を要したが、チームの攻撃の要として存在感を見せ始めてからは、ゴールやそれをお膳立てするプレーで大きく貢献し、昨シーズンはリーグ戦31試合で33ゴール。紛れもないストライカーとして君臨するようになっていた。
そんな彼が、今年1月の試合終了後に涙した場面があった。
チームは、リーグ戦上位3チームが出場できるプレーオフ出場を最終節で決める“奇跡”を演じたが、リーグ2位・バサジィ大分とのプレーオフ準決勝でわずかに上回れずに敗退した。2試合目を2-0で勝利したにもかかわらず、1試合目を1-3で落としていたからだ。ガリンシャは12本のシュートを放ったが無得点に終わった。
「チームが勝つためにゴールを決めるのが僕の仕事。敗れた悲しさと自分が決められない悔しさがあった」
ピッチで涙を流したガリンシャは、静かにそう話した。と同時に、すぐに気持ちを切り替え、3月に行われるはずだった全日本選手権でのリベンジを誓っていた。しかし──。
新型コロナウイルスの影響で大会は中止となり、昨シーズンは終了。今シーズンのリーグ戦も、3カ月遅れての開幕となった。だからガリンシャは、誰よりもピッチでのプレーを渇望していた。対戦相手は、プレーオフで敗れた大分。燃えないわけがない。ガリンシャはチームの1点目を見事にアシスト。神技トラップのシーンも、とんでもないスキルを使って、圧倒的な決定機を演出してみせた。今年は、ゴールだけじゃない──。
ガリンシャはそんなメッセージをピッチに残した。
試合はまさかの逆転負けに終わり、8カ月前の悔しさを晴らすことはできなかった。だが、ガリンシャの目に涙はない。「今年は絶対に優勝する」。それがチームの合言葉であり、ガリンシャの原動力だ。
ブラジルからやってきたスーパーエース・ガリンシャが、今シーズンはゴールもアシストも量産する──。
文・本田好伸(SAL編集部)
(C)ABEMA