9月12日に行なわれた記者会見、その冒頭で伊藤隆代表は取材陣を前に書をしたためる。そこに書かれたのは「天心vsRISE」という言葉だった。そこに込められた意味を、伊藤代表はこう語った。
「那須川天心はRISEの枠を超えて格闘技の象徴になっています。しかし那須川天心だけに頼るわけにはいかない。RISEの選手たちには那須川天心を超える選手、スターを目指してほしいですし、今後のRISEを背負う選手に出てきてほしい」
10月11日のぴあアリーナMM大会では-63kg、11月1日のエディオンアリーナ大阪大会では-55kgのトーナメントが開催。-55kgトーナメントは那須川の挑戦者を決めるものだけに、この「天心vsRISE」というテーマは重い。RISEは那須川のホームリングでありデビューしたイベント。那須川天心を倒す最強の挑戦者はRISEから出てきてほしいという思いも、この言葉には込められているようだ。
トーナメント出場選手たちも、伊藤代表が掲げたテーマに敏感に反応している。
「10月はいよいよ俺らが盛り上げる時。決勝はメインですか? 今後のRISEのためにも俺が優勝します。ここまでRISEを大きくしたのは天心。でもそろそろ次の選手がいかなきゃダメ。優勝だけじゃなく誰が魅せれるかの勝負」
そう語ったのは、-63kgトーナメントの優勝候補である白鳥大珠。決勝で白鳥との対戦が期待される原口健飛は「関西でなかなかなかチャンスがない中から上がってきた。やっと自分が代表になる時が来たと思ってます」と言う。
今のRISEにおいて、最も那須川天心戦の権利に近いと言えるのは鈴木真彦だ。-55kgトーナメントに参戦する鈴木は、現在19連勝中。「ずっと打倒・那須川天心でやってきた」という鈴木は「天心vsRISEじゃなく鈴木vs那須川だと思ってます」とも。
別の角度からこのテーマについて語ったのは、同じく那須川へのリベンジを狙う志朗だ。
「天心くんがあとどれくらいキックボクシング業界にいるのか分からない。代わりになる選手が出てこないと」
こうした団体としてのスタンス、選手たちの声に、那須川自身は何を思うのか。ABEMAの独占取材に、彼はこう答えている。
「団体がそういうふうに(天心vsRISEと)言ってくる時点で気合い入ってるなと思いますね。気づいてるなって。危機感があるんだと思います。次があると思ってやってたらダメだと思うんですよ、格闘技って。10月と11月は男子トーナメント2階級と女子トーナメントがありますけど“またトーナメントをやってほしい”っていうような甘いもんじゃない」
団体が打ち出してきたテーマを“危機感”と表現するあたりが那須川のセンス。チャンスは与えられるものではなく掴み取るものだという感覚なのだ。自身の挑戦者を決める-55kgトーナメントについても厳しく見ている。
「率直に面白いとは思う。でもラストチャンスといえばラストチャンスですよね。それを誰が掴むのか。これ掴まなかったらマジでもう(那須川と対戦できる機会は)ない。本当の意味で人生をかけて闘ってほしいです。“人生かけて、すべてかけて闘います”って言う選手は多いですけど、本当にそれをやってる人ってなかなかいないんで。本当に勝ちたければ、闘い方も徹底してくると思うんです。KOを狙うとか打ち合うとかだけじゃなくて、勝つために最善の手段を使っていくところをお客さんも見たいと思う。僕もそこに注目してますね」
優勝した選手とは必然的に対戦するが、大事なのは那須川天心を脅かすポテンシャルをトーナメントで見せられるかどうかだ。
「かたち上は闘いますけど、僕を本気にさせないと。いや本気でやるんですけど(相手次第では)圧倒的な差が出ることになる。“そんなに待ってられないよ”ってことですよね」
実力でも存在感でも那須川天心を脅かし、凌駕する選手は出てくるのか。天心vsRISEというテーマを、那須川は真っ向から受けて立つ。同時にこれは、那須川からの“果たし状”と言ってもいいのではないか。