菅総理の目玉政策として注目されている、「デジタル庁」の設置。「2022年4月新設と出ていたが、それより速いペースでやらないと総理の期待には応えられない」と、当初の予定を早め来年度中の設置を目指すことを明らかにしたのが、平井卓也デジタル改革担当大臣だ。就任早々、かなりのスピード感で目標を定めているようだが、これには自民党のIT分野を長年担当してきたことが背景にあった。
「デジタル・ニッポン2020 ~コロナ時代のデジタル田園都市国家構想~」。自民党のデジタル社会推進特別委員会は今年6月、2030年のあるべき社会を示す、およそ190ページにわたる提言をまとめた。舵取り役としてこの議論を進めていたのが、委員長である平井大臣だった。
「普通の提言と違うのは、役所主導で作った提言では全くない。民間の知恵を結集した提言」。平井大臣は、大臣就任前から自身のYouTubeチャンネルで、提言についての情報を発信してきた。2030年の「デジタル・ニッポン」とは。提言の一部を紹介する。
・行政はデジテル化が進み、手続きはマイナンバーカードとスマホで完結。役所に出向く必要がほとんどなくなる。
・IoT、AIなどの活用で工場の国内回帰が進み、地方での雇用を増やしている。
・エンターテインメントはARやVR、5Gといった技術でどこでも楽しめるように。
・医療はオンライン診察などにより混雑が緩和。高齢者が頻繁に通院する必要もなくなっている。
そして、提言では新型コロナウイルスの大流行に伴う社会のデジタル化にも触れている。テレワークやオンライン授業など、住む場所にとらわれない未来を見据えた社会づくりが示されている。
「この新型コロナによって明らかに起こることが、逆都市化。大宰相であられた大平正芳さんが1980年代に提言されていた田園都市国家構想を、デジタル社会推進の中でもう一度見直すべきだという考えに結び付くと考えている」(平井大臣、YouTubeより)
提言のサブタイトルになっている、「コロナ時代のデジタル田園都市国家構想」。大平元総理が掲げた、都市と田園が調和し共存することで心の豊かさを実現するという構想を、デジタル化が進む今もう一度目指そうというものだ。大平元総理が会長を務めた宏池会(現岸田派)に所属する平井大臣が目標とする、現代の田園都市国家構想。
「究極に目指すのは、デジタルを意識しないデジタル社会。24時間365日、行政のサービスがどこにいても受けられる、病院なんかも本人の希望によって診療を自宅で受けられるなど、よりQOL(Quality Of Life)が上がり幸せを感じられる社会をデジタルによって作るということではないか」(平井大臣)
『WIRED』日本版編集長の松島倫明氏は、デジタル庁の設置について「2022年と聞いた時は腰砕けになったが、来年に早めるというスピード感はいいと思う。平井大臣の言葉にもあったように、デジタルは空気のように必須のインフラなので、デジタル庁ができることによって何か新しいものを作るというよりは、民間が有効に活用できる透明性のあるプラットフォームを築くことが急務になっている」との見方を示す。
また、2001年に制定された高度情報通信ネットワーク社会形勢基本法(IT基本法)を引き合いに、日本の対応の遅さを指摘。「今回のコロナで、いかに日本の情報化が遅れているかが改めて浮き彫りになった。例えば台湾では、IT担当大臣のオードリー・タンが迅速にコロナ対策の情報プラットフォームを構築したが、日本でそれができなかった。“個人情報保護法 2000個問題”というものがあったように、IT周りの規制1つをとっても各自治体バラバラで、GoogleやLINEなどのプラットフォーム企業が何かサービスを作ろうとした時に、“この自治体ではできるけど隣の自治体は違う法律だからできない”ということが起こる。IT技術や情報が得意な規模のメリットを全く活かしきれなかったのがこの2020年の状況だとすると、そこを整備していくのにスピード感は大切だと思う」と述べた。
では、平井大臣が提言する「デジタル田園都市国家構想」で日本は変わっていくのか。「政府が提言してきた“Society 5.0”を田園都市という視点から具体化したもの。田園都市と聞くと“自然豊かな郊外の住宅地”のようなイメージがあるが、100年以上前に構想された田園都市はものすごいハイテク都市だった。例えば、住宅と自然、鉄道といった運輸、工場のような働く場所がコンパクトにまとまったような田園都市がいくつも生まれていくという構想だった。20世紀は都市化により一極集中が進んだわけだが、もう一度デジタルを使って田園都市を作ろうというのは、テクノロジーによって豊かな自然とライフスタイルが融合した新たな田園都市像を実現するものとして注目している」とした。
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