10.11横浜、11.1大阪で3大トーナメントを開催する立ち技格闘技イベントRISEが、9月20日の新宿FACE大会でもトーナメントをスタートさせた。初代RISE QUEENフライ級王座決定トーナメントだ。4人制トーナメントで、9.20新宿ではセミ、メインで1回戦が組まれた。メインイベントは小林愛三vs KOKOZ。どちらもムエタイ系のベルトを持っており王者対決でもある。
試合は終始、小林が攻めの姿勢を貫いた。ゴング直後から一気に距離を詰め、力のこもったパンチ、キックを繰り出す。いわゆる“乱打”的なところがあり鮮やかな試合ぶりとは言えなかったが、だからこそ気迫が伝わる闘いだった。特に最終3ラウンドは声をあげながら前進。判定勝利をものにして陣内まどかとの決勝戦進出を決めた。
声を出しながらの攻撃について、自然にそうなったと試合後の小林。それだけ気合いが入っていたということだ。その気合いを、本人はこんな言葉で表現している。
「自分は卑怯者なので、考えてしまうと前に行けない。(声を出すのは)自分の中のタガを外して相手を殺しにいくための手段」
物騒と言ってもいいくらいのコメントだが、単に勝ち負けを競っているのではなく「命」のレベルで闘うという覚悟を、彼女は持っている。
「私がやっているのはスポーツではないので。“格闘技”がやりたいという願望が本当の意味で出てきました。前は口だけだったけど、今は練習から変われました」
このトーナメントに向けて「ベルトを獲りたいという思いでひたすら練習しまくった」と言う小林。仲間や関係者への感謝の言葉の中には「格闘家としてやってはいけないことをした自分をリングに上げてもらって」というものもあった。
(トーナメント決勝では小林と陣内が対戦)
昨年7月、小林はミニフライ級王座決定トーナメントにエントリーしたが、計量オーバーで失格になっている。女子選手の減量、コンディション管理は男子とは違う難しさもあると言われるが、誰よりも小林が自分を責めた。計量失敗のトラウマは、試合での動きにも出てしまっていたという。
「計量オーバーしてから、人の顔を殴れなくなってしまって。怖くなってしまったんです。でも前回の試合で殴れるようになって、今回はパンチの重さを相手に伝える攻撃ができるようになりました」
格闘家にとって、精神面はここまで大きな影響を及ぼすものなのだ。今回のトーナメントはトラウマ克服の機会でもあったのだろう。練習に、格闘技にのめり込むのも当然。勝つためにはトラウマを克服する必要がある。トラウマを克服しなければ、ファイター人生そのものが閉ざされてしまう。
相手を「殺すため」に声を出す。やっていることはスポーツではない。厳しい覚悟は、彼女が格闘家として生きるために必要なことなのだ。
「決勝ではバチバチに打ち合って、陣内選手を立てない状態にしたい」
トラウマを克服し、覚悟だけが残った今の小林は強い。大会アンバサダーのレジェンド・神村エリカ曰く、小林は「インタビューも含めて“見たくなる”選手」。決勝で対戦する陣内は小林の闘いに刺激を受け「明日から練習を再開します」と語った。秋のビッグマッチ2連戦では47.6kg(アトム級-ミニフライ級)のトーナメントが行なわれるが、RISE女子戦線は小林のいるフライ級も新たな“軸”になってきそうだ。
文/橋本宗洋
写真/RISE