“異色のアスリート”と聞いて思い浮かべる選手は誰がいるだろう?
レスター・シティのジェイミー・ヴァーディーは、医療用の副木を作成する技師として勤務しながらノンリーグ時代を過ごした。そこから驚くようなステップアップを果たして、レスターに加入。日本代表FW岡崎慎司とともに“奇跡”のプレミアリーグ優勝に貢献し、世界を驚かせた。
そんなヴァーディーのような、いやヴァーディー以上の驚くような転身を遂げた人物が、日本のフットサル界に存在する。さらに、そんな稀有な選手がフットサル転身2年目で、トップリーグ初ゴールを挙げたことから一躍脚光を浴びているのだ。
■「迎撃シュート」と早くも人気沸騰
ペスカドーラ町田に所属する彼の名前は、福田亮。24歳。2年前まで北海道で航空自衛隊に所属し、日本の平和を守るため日々訓練に明け暮れていた自衛官だった。
ABEMAの生放送で実況を担当した福田悠氏によると「PAC3(パトリオットミサイル)で、外国から飛んできたミサイルを迎撃する部隊に在籍していて、4年間勤務してきた」ガチの元自衛官。朝の5時に叩き起こされて、急いで迷彩服に着替えて任務に当たるなど過酷な現場を経験してきた。それでついたあだ名は「ジエイ」。
そんなジエイは2年前に「Fリーグに出場する」と一念発起して自衛官を辞め、生まれ育った北海道を出て町田の下部組織に入団。幼い頃からサッカーをしてきて、雪でグラウンドが使えない冬場にフットサルを行ってきたが、競技フットサルの経験に乏しかった。そこから弛まぬ努力で這い上がり、迎えた今シーズンからようやくトップチーム昇格を掴み取ったのだ。
テレビ朝日のバラエティ番組「激レアさんを連れてきた。」で紹介されてもおかしくないエピソードを持つジエイに、ファンやサポーターも興味津々。19日に行われたボルクバレット北九州戦では「すごい!体強そう」、「切り替え速そう」と注目が集まった。
そんなジエイの見せ場は、1点ビハインドで迎えた第1ピリオド12分だった。
自陣右サイドの深い位置で横パスを受けたジエイは、そのまま縦に突破。当然、相手のディフェンスがそれを阻もうとするが、お構いなし。鍛え抜かれた肉体を武器に、左手一本で相手の動きを封じてゴリゴリとドリブルで相手陣内へと侵入。最後は右足を強振すると、放たれたミサイルのようなシュートは、相手GKの股下を正確かつ鋭く射抜きゴールネットを揺らした。
このゴールに視聴者のコメント欄は「ナイスジエイ!」、「迎撃シュート」、「ミサイルシュート」と大盛況。
また、昨年まで町田でプレーし、研鑽に励むジエイを間近で見てきた解説の横江怜氏は「素晴らしいですね!気持ち良いですね!嬉しかったですね!」と大喜びとなった。一方で「せっかくゴールを決めたんで、(正しい)敬礼をして欲しかったですね」と後輩への愛のあるイジりで笑いを誘う。
このゴールで同点として勢いづいた町田は、6-3で勝利し開幕2連勝を達成。試合後の会見で町田のルイス・ベルナット監督が「ジエイがこういう形でゴールできたことは素晴らしいこと。新たな刺激になるだろう」と語るように、“フットサル選手・ジエイ”にとっても大きな一歩となるゴールだった。今後のジエイの活躍とともに、次こそは自衛隊の正しい敬礼パフォーマンスが見られるかにも注目してもらいたい。
文/川嶋正隆(SAL編集部)
写真/高橋学