『週刊少年ジャンプ』で連載され、今年7月に最終回を迎えた漫画『ハイキュー!!』(古舘春一・著)。長身の選手を相手に戦い抜いた烏野高校のエース“小さな巨人”に憧れている少年・日向翔陽を主人公に、バレーボールに青春を捧げる高校生たちを描いている。
展開が予測できないストーリー構成、魅力的なキャラクターたち、描写の細かさから瞬く間に反響を呼び、コミックスの累計発行部数は4000万部を突破。2020年10月2日に放送開始した『ハイキュー!! TO THE TOP』はテレビアニメ第4期第2クールにあたる。
バレーボール日本代表の柳田将洋選手もまた『ハイキュー!!』に魅了された読者の一人。インタビュー後編では、実際に『ハイキュー!!』で繰り広げられたキャラクターたちの技にもフォーカス。プロ選手の視点から改めて『ハイキュー!!』の奥深さを知ることができた。
―― 柳田選手は『ハイキュー!!』の中でどのキャラクターが好きですか?
柳田:すごいたくさんいますよ(笑)。物語の終盤までいるキャラクターはほとんど好きですね。主人公の日向翔陽と影山飛雄はもちろんですが、木兎光太郎(梟谷学園高校)や星海光来(鴎台高校)、佐久早聖臣(井闥山学院)も好きです。
―― アニメでは、これから描かれることが多そうな選手たちですね。ちなみにアニメ『ハイキュー!!』はいかがでしたか?
柳田:アニメも動きがかなりリアルでした。バレーボールのアニメ化って「もしかしたら難しいのかな?」と思っていたのですが、レシーブの形やボールの動きもリアルでしたし、その動きをしながら声優さんのセリフもしっかり入ってくるので、すごくハマりやすかったです。
―― CM前のアイキャッチで、サーブを打っているところのボールの動きや回転があるのも、すごくリアルですよね。
柳田:はい。アニメでも、ボールの見え方をちゃんと研究しているんだろうなと思いました。
【映像】日向&影山の“変人速攻”を見る アニメ『ハイキュー!!』動画一覧
■影山のトスは実際に可能? 烏野高校のようなテンポは「とても大切」
―― 実際にプロのバレーボール選手に聞いてみたかったのですが、影山のトスは実際に可能なのでしょうか?
柳田:かなり難しいとは思います。相当センスが良くて、空間を把握する力がないと難しいです。自分がコートの中のどこにいて、誰がどこに飛んでいるのかというのがはっきり分からないと、あのくらい自信のあるセット(トスアップ)はできないと思うし、目をつぶってやるのは本当に無理だと思います(笑)。
あれにはビックリしましたし、描写を見たときに、そういう“できない技”を繰り出す方向に物語が行くのかなとちょっと思ったんです。でも、ちゃんとリアルに寄って、日向が成長して、影山のセットに合っていく選手に成長していったので、そこもすごく良かったです。
―― ベースはリアルなまま、絶妙な演出があるんですよね。それが惹きつける要素のひとつだと思います。
柳田:漫画としての面白さは残しつつ、キャラクターの人間性をしっかり描いてくれているので、本当に面白いです。
―― テクニック面のお話も少しずつ聞きたいのですが、まず「変人速攻」を実際に実現するのは難しいですか?
柳田:クイックは、だいたいああいうテンポでやっているのでできると思いますが、日向のような160センチ台の人が入って速攻スパイクを打つというのは、なかなかすごいことだと思います。
―― 作品の中ではブロックの描写が細かいですが、実際に天童覚(白鳥沢高校)のような(動きを)読んで止めるのと、月島蛍のようにチームのシステムとして止める方法、どちらが好きとかはありますか?
柳田:僕はあまり身長が高いほうではないので、どちらかというとちゃんとシステムにはめてもらって動けたほうが良いですね。ミドルブロッカーの人と抱き合わせで飛んで、ちゃんと止めたり、ワンタッチできたりするタイプではあります。
―― 柳田選手と言えば強力なジャンプサーブの印象が強いですが、たとえば高校生はサーブとレシーブ、どちらを極めたほうが強いですか?
柳田:もちろん、どちらも極めたほうが良いのですが(笑)。でも、サーブは個人技だから注目されると思いますし、ここ一番という場面で自分に回ってきたときに勝負ができる。サーブを極められたら、すごく強い武器になるんじゃないかなと思います。
―― 全員がスパイクを打てる態勢に入るというシンクロ攻撃は実際のバレーでも有効ですか?
柳田:同時多発位置差攻撃のことですね。あれはとても大切だと思います。全員に攻撃参加意識があるとブロックも絞れなくなるので有効です。それに対抗するために、わざとパイプ(後ろの真ん中からバックアタックを打つこと)の攻撃をつぶすような意識で、サーブとかパスを返してくるチームもあるので、それに対しても攻撃意識を落とさないで(攻撃に)入り続けることは、相手からするとものすごいストレスになるんです。それに、他の選手も活きて、自分も活かせるというのがトータル的なオフェンス力だと思うので、ものすごく重要なことだと思います。
あとは烏野高校もやっていたようにテンポを合わせて入ることが大事で、それによってセッターとのコンビネーションも合いやすくなると思います。たとえばクイックとパイプの速さとレフトの速さが全然ちがっていたら、相手は「レフトはゆっくりだからクイックとパイプに先にシフトしよう」って考えるので、そこのテンポを合わせてあげると、相手もバランスよく守らなければいけなくなるし、そこで駆け引きも生まれることがあります。テンポは大事ですね。
―― 実際、極めることは可能ですか?
柳田:多分できると思います。テンポってフィーリングの部分が強いと思うので、それが合う瞬間を感じるんです。それはセッターが一番感じると思いますが、やっていけば合っていくのではないかと思います。
■古舘先生に感謝「今度は僕がバレーボールの面白さを伝えていきたい」
―― 今年7月に『ハイキュー!!』の原作が完結しました。
柳田:率直に寂しかったですね(笑)。展開的に、このあと終わっちゃうのかなという気持ちはありましたが、実際に完結と言われると、もう続きはないんだなって思うし、すごく寂しいです。約8年半という長い期間、連載をやってくださっていたので、今はロスというか、アニメを楽しみに待っている気持ちです(笑)。
―― 連載を終えた古舘先生に伝えたいことはありますか?
柳田:バレーボールというジャンルの漫画を描いてくださって、本当に多くの方にバレーボールという競技を知っていただけたと感じています。僕も日本代表として、それ(バレーボールを広めること)もひとつの使命としてやっていたので、本当に古舘さんには感謝をしています。あとは単純に、僕が読んでいて面白かったので、そこに対しても感謝したい気持ちです(笑)。
『ハイキュー!!』を通して、多くの方にバレーを知っていただけたと思うので、今度は僕がバレーボールの面白さを、自分がプレーすることによって伝えていけたらといいなと思っています。
―― 最後に、柳田選手の今後の目標を教えてください。
柳田:来年に延期したオリンピックに向けて、プランを立てながらコンディションを整えている状況です。そこに向かっていくことがまずは大事かなと思っています。そして、そこで結果を出すことを目標に、僕たちもがんばっていきたいと思います。10月からVリーグもスタートしますので、ぜひ皆さん観にきてください。
(C)古舘春一/集英社・「ハイキュー!!」製作委員会・MBS
(C)古舘春一/集英社・「ハイキュー!! セカンドシーズン」製作委員会・MBS