『ぼくたちは/男子たちは 狼なんかじゃない。 少年ジャンプは「エロ」と「性暴力」の違いを区別してください。』

 オンライン署名サイト『change.org』に先月、日本を代表する少年マンガ誌『週刊少年ジャンプ』に対し性表現への配慮を求めたキャンペーンが立ち上がった。

 発起人の男性は「小中学生の時、女子と性的なコミュニケーションを取る漫画をハラハラドキドキしながら読んでいた」「アクシデントで偶然女子のパンツが見えてしまう」「転んだ勢いで女の子の体を触ってしまった」と説明。社会人になった今、当時を顧みて「セクハラをされたらその人の心は傷つくという当たり前のことに気づけなかった」と告白。

・【映像】赤松健さんと考える漫画のエロと規制

 ネット上には「ラッキースケベ、覗き、タッチ。すでにそんなものが面白かった時代は終わっている。目を覚ませ、ジャンプ編集部」「ジャンプの影響力は大きい。男性読者の中には、女性と接点が少なく、漫画から誤った認識を大人になっても持ち続けている方がいる。女性は心を持った人間であって、一方的にエロとして扱っていい存在ではない」「女性がいくら自衛しても、男性側の価値観が大きく変わらなければ、様々な性犯罪は減らないと思う」といった賛意が寄せられ、目標である賛同者4000人を9日間で達成した。

 一方、これまで少年・青年・少女誌の分野で人気作に携わってきた女性漫画家の小林さん(仮名・35)は「あまり気持ちいいことではない」と複雑な心境を明かす。「自分もジャンプなどの漫画を読んで育ったし、幼いながらに初めて“エロコンテンツ”を見た時がいわば“性の目覚め”というか、色々な考えが広がることに繋がったと思う。発想力が増えたり、心が豊かになったりすると思う」。

 また、幼い頃から趣味は漫画・アニメだという高校生の鈴木さん(仮名・17)のは、過激な性表現のある作品がお気に入りで、小学生の頃から自然に楽しんできたという。「よく“性表現が犯罪に繋がる”とか言われるが、人それぞれの趣味じゃないですか。それを非難されて嬉しい気持ちはしない」と訴える。

■漫画家・赤松健氏と元竹書房・竹村氏の見解は…

 キャンペーンでは版元の集英社に対し抗議の意思を表明するとともに、性的表現があるコマには注意書きをすること、性表現レベルを読者に合わせるための性知識アンケートの実施などを求めており、受け取った集英社は取材に対し、「真摯に耳を傾け、よりよいコンテンツ創作・編集に生かしてまいります」と回答している。

 『ラブひな』『魔法先生ネギま!』などの代表作がある漫画家で、日本漫画家協会常務理事も務める赤松健氏は「偶然下着が見えてしまう、転んで女性の体に触れてしまうといった“ラッキースケベ”がどうかという議論だが、20年前の作品でアニメ化などもしている『ラブひな』の場合、いわば丸ごと“ラッキースケベ”みたいな作品だ。やはり作品は読者が喜ぶように描いてはいるので、人気によってそういう場面が増えたり減ったりする。ただ、もちろん出版社には自主規制があるので、あまりにどぎついものは出てこない。少女漫画、特に東京都ではBLなどがやり玉に挙げられることがあるが、基準は時代によって変わってくるものなので、色々な細かい議論を重ねていけばいいと思っている」と話す。

 その上で、読者が“こう思った”とか“こうして欲しい”と言うのは自由だ。我々作家も読者アンケートの結果を作品に反映させているので、むしろ署名もどんどんやって欲しい。その中で、法的に問題があるという根拠や“こういう漫画を読めば必ずこういう犯罪が起きる”といった科学的なエビデンスがあれば、すぐに反映させる。本当に被害が出たりすれば、議員さんに陳情があって立法化されたり、裁判になったりすることもある。その意味では、この署名はあくまでも“こう思ったから、こうして欲しい”という感想なので、“なるほど、今後の参考にします”ということになると思う」とした。

 また、出版社の社員として漫画表現にジャッジを下していた元竹書房統括局長の竹村響氏は「もともと漫画はこの世にないもの、ファンタジーを作品にするところから始まると思う。だからこそ暴力やエロスもある。そもそも出版社としては、作家さんが描きたいものをなるべくそのままの形で出すというのが大原則。集英社さん、少年ジャンプさんとしてもガイドラインを持っていると思う。その上で、“社会ではこうなっているので、こういう表現の方がいいのではないか”という話を作家さんと相談しながら進めていく。今回のような声があるというのは出版社側も把握しているが、それを受け入れてみたり、受け入れてみなかったりと、一回一回の判断をしていく中で、表現活動というのはできていく」と説明する。

 他方、表紙や挿絵に女性キャラクターが描かれた日本の人気ライトノベルが「グローバルコンテンツガイドラインに抵触している」として、米Amazon上で相次いで販売停止になったこともあった。

 竹村氏は「特にAmazonさんは自動的に判定しているところがあり、作品名に“R18”と入っているだけでアダルトのコーナーに分類してしまうこともあるので、それを戻してもらう対応が必要になっている」、赤松氏も「AppleやGoogleも日本の出版社とは違う独自の規制基準で漫画やアプリをリジェクトすることがあるが、詳しいことを説明してくれないし、今までになかった新しい脅威だと思っている」とコメント。

 また、赤松氏は「暴力表現に関して言えば、西部劇を観た後はピストルでバババとやってみたくなるし、『七人の侍』を観た後は雨の中で弓矢を放って観たくなる。そういうふうに我々は作っているから、当たり前のことだ。だからこそ子ども向けにはレイティングなどがあるわけだし、残酷すぎるものはやらないといった自主規制も設けている。私は日本の今のバランスはすごくいいと思っている。むしろ都知事がゲームやアニメのコスプレをする時代だし、それが日本の売りにもなっている。こういう日本の素晴らしさは維持したい」とも話した。

■小島慶子氏「表現に繰り返し触れることでの“内面化”に気づける環境作りを」

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「『アウトサイダー』という本を書いた、コリン・ウィルソンという人が言ったことだが、“自分たちができないことをやってくれる人たち”に魅力を感じる部分があると思うし、そういうコンテンツに道徳を持ち込んでしまうことが、文化の否定に繋がってしまう可能性がある。また、メディアには、テレビのようにボーっと見ていても入ってくるものと、取りにいったり、お金を払ったりしなければ入ってこないものの2種類がある。出版物や映画のように、わざわざお金を払うものまで規制する必要があるのか、という議論もあると指摘する。

 「今となっては信じられない話だが、昭和の時代には保守系の女性団体が中心となった悪書追放運動というものがあり、手塚治虫の『鉄腕アトム』まで対象になった。しかし実際に少年犯罪の件数が増えたかと言えばそんなことはない。問題点を切り分けずに、何となくの“お気持ち”に合わせて文化を否定していくやり方は同意できない」。

 また、エッセイストの小島慶子氏は「“偶然パンツが見えた。ラッキー”と思うこと自体が罪なのではなく、そういう表現に繰り返し触れることで、“いいじゃんパンツくらい見えてしまっても”と、相手の性的な部分を軽く扱ってしまう。その延長上にセクハラが出てくることがあり得るので、そういうことはやめようというのが署名の趣旨だと思う」との見方を示す。

 「振り返ってみると、私も小さい頃は“ラッキースケベ”が面白いと思って読んでいたし、そこに描かれている女の人を自分の中に“内面化”して、そういうふうに振舞わなければならないと思っていた。しかし性的同意とか、女の人を物扱いすることがいかに貶めたり傷つけたりするかということの知識を得ていった今、なんでもないと思ったり、真似したりしていた表現が、実はセクハラや女の人を物扱いするような行動の“ひな型”になっていたなと気が付くことがある。マスコミ業界で働いていた若い頃は、下ネタに積極的にノっていったり、自分から下ネタを振ったりするような“強い女”“話の通じる女”であるべきだとも思っていた。でも、そのことで誰かに嫌な思いをさせてしまう加害者になってしまっていたり、目の前で行われているセクハラを一緒になって笑ってしまう傍観者になってしまっていたことに後で気がついた。子育てをする立場としては、私が“もっと早く知っておきたかった”ということが知れるような環境があるといいなと思う」。

 こうしたコメントを受け、赤松氏は「今、『ラブひな』系のものは、ずばり言ってしまえば古いし、小島さんの言うような意識が出てくれば、内容もアップデートされていくと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

赤松健さんと考える漫画のエロと規制
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