新型コロナウイルスの感染拡大を受け、4月以降、特例措置として初診でも利用できるようになるなどの規制緩和が行われてきた「オンライン診療」。4月27日時点で9.7%だった医療機関での導入率は7月末には14.6%にまで増えている。
7日の規制改革推進会議で菅総理は「オンライン診療、服薬指導、オンライン教育はデジタル時代において最大限活用を図るべきものだと思う」と述べ、時限的な措置を一般化(恒久化)させる方針を示した。
一方、日本医師会の中川俊男会長は先月24日、「全く診たことのない患者さんを初診で診療して投薬するということは非常にリスクが高い。強い反対意見があった」と明かし、1日にも「(オンライン診療は)一気呵成にえいやっと全部恒久化するというのではなく、できるものから一つ一つ進めていく、そういう方向だと私は認識している」と懸念を示している。
医業経営が専門の川渕孝一・東京医科歯科大学大学院教授は「コロナ禍によって経営が立ち行かなくなりつつある診療所が出てきている。厚労省のデータを見ても、特に小児科や耳鼻咽喉科、眼科は軒並み患者さんが減っている。また、医師の働き方改革も待ったなしだ。そういう中で、必要に迫られてオンライン診療を始めた先生もいる。医師と患者の双方がwin-winという意味でも、選択肢としてありだと思う」と話す。
「導入率が増えたとはいえ、まだ14.6%だが、これにはウラがある。実は高齢者や不要不急の患者さんによる“電話再診”は猛烈に増えていて、先日も千葉の医師会が発表したデータによれば、3月に4000件だったのが、4月には1万8000件と急増している。もちろんレントゲン撮影や手術はオンラインでは無理だし、あらゆる疾患において対面の方がいいという局面はある。一方、精神科などで話しやすくなるなど、オンラインに馴染む局面、オンラインの方がいい局面もある。オンライン診療の研究会をやられている千葉県の小児科の先生の場合、重度の患者さんはお連れするよりもオンラインの方がいいし、本当に必要であれば救急車を呼んでもらうと言っていた。ところが今の診療報酬だと、精神科や小児科は全部適用外になってしまっている」。
一方、“抵抗している”とみなされている医師会の主張について川渕教授は「ぶっちゃけた話、今まで地域医療をやっていた医師たちにとっては、オンラインという訳の分からないものが出てくることで、自分の患者さんをブランド力のある先生に取られるのではないかという一抹の不安があるのだと思う。中川会長も、そういう不安を色んな場所で聞いているのだろう。ただ、全く診てもらったことのない医師のところに患者さんが本当に集まるのだろうか。むしろオンライン診療によって、かかりつけ医がより浸透していくのではないか」と指摘する。
「実際にオンライン診療を始めた医師に聞いてみると、触ったこともないのに“食わず嫌い”している部分があると思う。私たちも大学でオンライン授業をやっているが、“ちょっとやってみよう”とZoomとかTeamsに触れてもらうと、“おお~、こんな楽なのか”と感動する先生もいる。中川会長の話を聞いていても、オンラインそのものには反対しないが、一気呵成にいくのはいかがものか、というスタンスだ。やはり日本は急激な構造改革は好まれないが、“なし崩し”的に進んでいくのではないか」。
政府の規制改革推進会議でタスクフォースのメンバーも務めた慶應義塾大学特別招聘教授でドワンゴ社長の夏野剛氏は「総理が個別のイシューに対してこれだけ強い調子を言っているというのは、これまでの規制改革でなかったこと。これは進めていかざるを得ないと思う」と話す。
「今回の規制緩和で最も効果が大きいのは、いわゆる“オンライン服薬指導”がOKになっていること。つまり、薬局に行かなくてよくなる。処方薬のオンライン化は、薬剤師会と厚生労働省が最後の最後まで反対していた案件。日本は薬局の数がコンビニの数以上にあるというとんでもない国になってしまっていて、“門前薬局”はみんな暇そうにしているのに、行くと時間がかかるという、無駄の象徴になってしまっている部分があるので、ここはぜひ継続させてほしいし、利用者が増えないと続けられないので、ぜひ活用して欲しい」と話す。
その上で「問題は、開業医の方の高齢化率が非常に高く、デジタルデバイスを使えないこと。初診のリスクの議論でも、“電話だけで診療する”というような認識で話していらっしゃる方もいる。だから僕は規制改革会議の中で、電話診療とオンライン診療は分けた方がいいと提案したが、そうすると年齢層の高い開業医からの支持が得られないので無理だと言われた。つまり、話の前提が噛み合っていない部分もある。また、構造的に日本は個人開業医の多い国で、厚労省がとってきた“かかりつけ医政策”もある。今回のコロナ禍でも、個人開業医がPCR検査をできないので大きな医療機関に集中し、病床が足りないというような話になっている。オンラインかそうでないかだけでなく、日本の医療の根本的な問題があぶり出されている状況でもある」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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