「リアルでポジティブな“原発の畳み方”を」原発推進派でも反対派でもない“中間派”の国際大・橘川教授
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 宮城県の女川町と石巻市にまたがる女川原発2号機が、事実上の再稼働に向けて動き出している。

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 13日、宮城県議会の常任委員会は再稼働に賛成する請願を賛成多数で採択。これに先立ち、立地自治体である女川町の須田善明町長も梶山経産大臣と会談、再稼働時の防災インフラ整備など、国からの支援を要請した。

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 東日本大震災によって一度すべてが停止した日本の原発。現在、60基中9基の再稼働が決まり、再び発電が始まっているが、電力の約7割以上を火力発電に頼っているため、大量の二酸化炭素を排出していることから、海外から批判があるのも現実だ。

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 そんな中、10月には高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」の最終処分場の候補地選定で北海道の寿都町などが正式に名乗りを上げるなど、準備も進んでいる。福島第一原発事故から9年あまり。日本の原子力発電の現状と未来について、国際大学の橘川武郎教授に話を聞いた。

■役割はこれからも残る?原発のメリット・デメリット

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 まず、なぜ原発の設置や再稼働が推進されてきたのか。

 橘川教授は「24時間365日運転し続けることでコストが低くなる電源を“ベースロード電源”と呼ぶが、原油価格が16倍に跳ね上がったオイルショックが起きた当時、日本の電源構成の4分の3が石油火力だったため、大変な騒ぎになった。そこから原子力、天然ガス、輸入石炭の3つで“脱石油”を進めてきた。特に90年代の京都議定書あたりからは地球温暖化問題も深刻になってきたので、二酸化炭素を出さない原子力の人気が出てきた。今ではちょっと信じられないが、一時は“原子力ルネサンス”と言われた時代もあったくらいで、福島原発事故の前年には、石油火力の比率は9%まで落ちていた」と説明する。

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 「一部の人は原発再稼働が始まっていくと言うが、現状では原子力発電の比率は6%くらいしかなく、福島第一原発事故の前に廃炉が決まっていた24基のうち3基を除いたとしても、廃炉の時代が始まったと考えるのが自然だと思う。とはいえ、原子力にはメリットは二酸化炭素を出さないというメリットがある。政府の方針では、2050年までに二酸化炭素を80%削減するということになっている。そうなれば、再生エネルギーが主力ではあっても、補完的なものとして原発の役割も残るという考え方が強いのではないか」。

■2万年後も寿都町や神恵内村が地上である保証はない

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 ただ、原発については安全性への懸念はもちろん、発電により生じる「核のゴミ」の処分の問題も横たわる。

 橘川教授は「在職年数と、その間に稼働していた原発の数を考えると、おそらく歴代で最も多くの核のゴミを出したのが小泉元総理だ。その小泉元首相が“原発はトイレのないマンションだ”と言ったのは、全く正しい例えだと思う。フランスの高速増殖炉アストリッドがあるからいいじゃないかと敦賀の高速増殖炉もんじゅを廃炉にしたが、そのアストリッドも中止された。だから核燃料サイクルが回らなくなったことも事実だ。一方、“即時原発ゼロ”を実現したとしても、すでに1万8000トンに上る核のゴミがある。それをどうするのか、具体的な議論をしないと前に進まない」と話す。

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 その上で「これは日本だけの問題ではない。スカンジナビア半島のように地盤が硬い地域では埋めて済ませているが、同じことができる場所はほとんどない。人類として未解決の、日本でも大変な問題だ。北海道の寿都町と神恵内村が手を挙げているが、これによって進むというわけではないと思う。プルトニウムの半減期は2万3000年だが、2万年前の日本列島を考えると、北海道とロシアは繋がっていたし、本州から種子島までが陸続きだった。もし安全に埋められたとしても、2万年後もそこが地上である保証は全くない」と指摘した。

■再生可能エネルギーは課題山積も梶山経産相に期待

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 他方、期待される再生可能エネルギーも課題は山積しているようだ。

 「すでに9%くらいになっているのが水力、次に太陽光、風力、地熱だ。そしてバイオマスの5種類が挙げられる。太陽光と風力は伸びが大きいが、いずれも“お天道様次第”、“風次第”という部分があるので、調整分の電源についてどうするか考えなければならない。太陽光発電については買取価格制度を作ったが、高過ぎたので下げてきている。日本人は戸建て住宅の比率が高いので屋根に載せるパネルの伸び代はあると思うし、発電量が増えたという意味では良かったが、電気料金表を見ていただければわかるが、そのための賦課金が電気代の大体10%を超えてきていて、3兆を超え4兆に迫ろうという勢いだ。いわば消費増税分が吹っ飛んでしまうくらいの負担になっている。また、風力は洋上など、自然の条件が厳しい場所の方が発電に向いているので、逆に言えば送電線がない。その充実の問題もある」。

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 しかし梶山経産相は13日、「我が国のエネルギー政策は今重要な岐路に立たされている」とコメント。翌日に日本経済新聞に掲載されたインタビューでは、「太陽光や風力発電などに予算を重点的に配分する」と話している。

 これについて橘川教授は「私は以前から政府の委員をやっているが、これまでの大臣はいきなり来て、原子力の政策は変えないと言って、そのまま帰ってしまっていた。なんのために僕らは集められたのかと文句を言ったら、その時には大臣はいなかった。それが梶山さんは最後まで残ってメモを取っていたので、ちょっと期待できるかなと思っている。福島第一原発事故の前、原子力の稼働率は62%だったのに比べ、風力はいくら頑張っても30%しか動かない。その点を除けば、今回の梶山さんの発言は全く正しい方向だと思う。いずれにせよ、原子力を主力の電源にしてはダメだ」と話した。

■リアルでポジティブな“原発の畳み方”を考えなければならないタイミングだ

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 さらに今後について、橘川教授は「福島第一原発の事故からまもなく10年になるが、国はこの間、何もやってこなかった。電力とガスの自由化は進んだ一方、原子力政策は何も進んでいない。なぜかといえば、電力やガスの改革は票になるが、原子力の話は票にならないからだ。何度も国政選挙があったが、与党が民主党であろうと自民党であろうと、みんな原子力問題から逃げ回ってきた。それが日本の政治の現実だと思う。また、再稼働に賛成の人も反対の人も、現実に考えないといけない様々なことについて考えないのが日本の原発をめぐる問題だ。アメリカの大統領選挙みたいな感じで、相手の悪口はたくさん言うが、だったらどう解決するんだという話がない。私は最終的には核変換の技術が確立できなければ廃止だという立場だが、“中間派”と呼ばれ、両サイドから叩かれる。阪神ファンで、マゾだからやっていられるが」と苦笑する。

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 「もしゴミの問題で原発を無くすということであれば、原発に支えられてきた福井の嶺南地方のような街が原発なしでもやっていけるようなプランがなければおかしい。私はそれが可能だと思っている。例えば送電線と変電設備は立派なので、発電設備だけを火力に変えていく。併せて廃炉のビジネスで雇用を生む。そして東京や大阪の人が保管料を払う。その3点セットが揃えば、美浜も高浜も敦賀も街づくりができる。そのような、リアルでポジティブな“原発の畳み方”を考えなければならないタイミングだと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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