「マスクは何の効果もないですよ」。これは今年8月、東京・渋谷駅のハチ公前で開催された、マスクを外そうと呼びかけるイベント「クラスターフェス」の様子だ。警視庁公安部によると、5月ごろから毎週末に開催されているということだが、このイベントを巡って18日に逮捕者が出た。
逮捕されたのはアルバイト店員の新妻舞美容疑者(45)で、イベントに参加していた32歳の女性に対して、後ろから体当たりをするなどした疑いがもたれている。新妻容疑者は以前から複数回、このイベントに対する抗議活動をしていて、取り調べに対し「酒を飲んでいて覚えていない」と供述しているという。
一方、新妻容疑者が抗議していたクラスターフェスについては、一部賛同の声はあるものの「ハチ公前にクラスターフェスの集団がいて不愉快でした。進んで迷惑行為出来る神経がわからん」「クラスターフェスやってて、もう渋谷しばらくこないって決めた」などと、マスクを着けない人が集まるクラスターフェスに嫌悪感や怖さを訴える人が多いのが現状だ。
まだ感染が収まっていない中で、多くの人にそんな思いを抱かせる集会に問題はないのか。秋法律事務所の澤井康生弁護士に聞いた。
「基本的には憲法21条で、表現の自由・集会の自由が保障されている。ただ、集会の自由も無制限に認められるわけではなくて、当然、公共の秩序を侵害したり、他人の人権を侵害するような場合には制限することができる。しかし、それはかなり例外的な場合になるので、一般的に集会自体を制限するのは難しい。結局クラスターフェスといっても、やっていることはマスクを着用せずに集まってイベントをやったりフェスをやったりするだけなので、要は“自粛しないでイベントをやりましょう”というものだと思う。もともと自粛自体が法令によって義務付けられているわけではないので、クラスターフェス自体は違法にはできない結論になる」
ただし、この集会が原因でクラスターや感染者が発生した場合には、主催者などが罪に問われる可能性があるという。
「刑事責任の方は、クラスターを発生させて多くの死傷者が出た場合には傷害罪、もしくは傷害の故意までが認められなければ過失傷害罪が成立する可能性がある。民事の方では、新型コロナウイルスに感染させてしまった人に対しては、不法行為による損害賠償責任が問題になる可能性はある」
とはいえ、クラスターフェスに原因があったことを立証することもかなり大変なのではないか。
「新型コロナウイルスは感染のメカニズムがまだ十分に解明されているとはいえないので、クラスターフェスによって感染して被害が生じたという因果関係を立証するのはかなり難しいのではないか。なので、刑事事件として立件するのも、民事で損害賠償請求するのもなかなかハードルが高いのではないかと思う。近づかない方がよいという結論になってしまう」