「普通に勝つ」から恐ろしい 棋士の間で認識された藤井聡太二冠の凄み「本当に強い人に派手な手は必要ない」
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 最年少でのタイトル獲得、二冠達成、八段昇段と、高校生活最後の年に大きな飛躍を遂げた藤井聡太二冠(18)。将棋界での序列は3位にまでなり、タイトルホルダーが4人いることから「4強」の一角として呼ばれるようにもなった。タイトルを獲得した棋聖戦、王位戦での戦いぶりは、連日各種メディアでも大きく取り上げられ、デビュー直後に巻き起こった「藤井フィーバー」再来とも言われた。「AI超えの一手」などにも注目が集まったが、棋士の間ではある評価が定着しつつある。それが「普通に勝つ」「派手な手はあまりない」ということだ。

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 藤井二冠に対して、高い評価を口にしたのはタイトル経験もある高見泰地七段(27)。10月21日に行われた順位戦B級2組で、藤井二冠と村山慈明七段(36)との対局を解説していた時のことだった。ともに解説をしていた井出隼平四段(29)に「派手な手とか、華麗な手というのは、見ていて『おー!』となるんですけど、本当は何かそこまでに間違えていると思うんです。本当に強い人は、派手な手が必要ないんですよ」と語り出した。

 将棋界には「勝負手」という言葉が存在する。決まれば一気に勝利に近づくという大技だ。ただし、高見七段が言うように、優勢・勝勢にいる棋士がわざわざ勝負手を放つことはない。一発逆転を狙う、と考えるとその棋士が置かれている局面は劣勢・敗勢であるからだ。井出四段も「普通にやって普通に勝つってことですよね。藤井二冠も普通に勝つ」と同調した。

 高見七段は、タイトル戦で話題になった一手についても「あれも受けの手」とし、「すごく派手な手はあまり見ていない」と、勝ち方が劇的でない、安定感に包まれたものが多いとも述べた。実際、藤井二冠は村山七段に対して、天才の閃きといったような手を繰り出したかと言えば、そうでもない。序盤から中盤、終盤にかけて少しずつリードを広げていき、相手に隙が見えたところを一瞬で置き去りにする。だからとても負けにくい。

 AIによる形勢の評価も、それをよく表している。折れ線グラフが大きく上下することはなく、藤井二冠の側に緩い傾斜を描いていく。そして最終盤で一気に勝勢へ。そんなグラフはよく見られる。高見七段は「中盤の入り口まで互角というのも多いんですが、それをものにするのが藤井さん。中盤から終盤にミスをしないから、ちょっと相手がミスをするとそうなる」とも分析した。

 相撲の「横綱相撲」を例とすれば、圧倒的に強い横綱は立ち合いでがっしり受け止め、まわしを引き、じりじりと相手を土俵際に追い詰めていく。そこには派手さも危うさもない。純粋に強いものが当然のように勝つ、といった光景だ。ファンからすれば「やるかやられるか」という斬り合いも楽しみたいところだが、藤井二冠が強くなるほど、その内容は横綱相撲に近づいていく、そんな話だ。

 大活躍の夏を終え、秋に入ってから少し白星のペースが落ちている藤井二冠ではあるが、それも対戦相手が豊島将之竜王(叡王、30)や羽生善治九段(50)といった超トップクラスに負けが続いたもので、その評価が下がるものでもない。むしろ、さらにもう一つ上の段階に進もうとする前触れのようにも見える。超トップクラスでの戦いで「普通に勝つ」ことができた時、藤井二冠は別次元の強さにたどり着く。

ABEMA/将棋チャンネルより)

藤井二冠は順位戦B級2組で5連勝
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