DDTグループの東京女子プロレスが、旗揚げ7年で団体史上最大のビッグマッチを開催する。11月7日のTDCホール大会だ。
2013年旗揚げ。小さなライブハウスにマットを敷いてのプレ旗揚げ戦から後楽園ホールに進出、その回数を増やし、着実に成長してきた東京女子。その勢いでTDCホールという次のステップに進む。
メインイベントは坂崎ユカvs瑞希のシングル王座戦。瑞希はトーナメント「東京プリンセスカップ」を2連覇し、坂崎への挑戦を決めた。もともと坂崎と瑞希はタッグで活躍、ベルトを巻いたこともある。タッグパートナー対決だからこそ、対戦相手にどう向き合うかが普通の試合以上に重要だ。その中で、自分自身の精神面がより問われることになる。
瑞希はタッグチームとしてデビュー。東京女子参戦後も「伊藤リスペクト軍団」で伊藤麻希を支え、坂崎との「マジカルシュガーラビッツ」でタッグ戦線の頂点に立った。「タッグが得意でシングルは苦手」という意識は、誰よりも本人が持っていた。
「たぶん、自分だけを信じるのが得意じゃなくて。タッグは自分のことを信じてくれるパートナーがいるから強い気持ちでいられる……みたいな。1人だと自分を信じ切れないと思ってたんですけど、でもトーナメントで2連覇できたことで“苦手意識を持ったままでも仕方ないな”って。シングルが苦手っていうのは自分の思い込みだったのかもしれないって思えるようになりました」
坂崎とは対戦が決まってからもチームを組んで試合をすることが多かった。組みながらの前哨戦という異例のパターンだ。「それが自然なことだったので」と瑞希。「でも試合が近づくにつれて焦りが出てきてしまって」。試合中、坂崎に助けられたことで逆に心が乱れ、リング上で涙を見せたこともある。
最後の前哨戦となる10.17新木場大会では6人タッグで対戦、あらためて王者の実力を体感した。
「ユカさんとやると、自分らしさを見失うくらいいっぱいいっぱいになりますね。もっと自分らしく楽しんで試合をしないと、お客さんも楽しくないしユカさんを超えることはできないなって感じました」
自分らしさという意味で大きいのは、前哨戦の中で何度か出した新技だ。走り込んでのクロスボディ(ボディアタック)でぶつかった瞬間に自分の体をクルクルと回転させ、相手の頭に体重をかけながらマットに叩きつける。毎回、観客がどよめくこの新技の動画を“大社長”高木三四郎がツイートすると、5000RT・1.3万いいね以上という女子プロレスでは異例と言ってもいい反響に。高木曰く「バズったのは初めてです。僕も試合を見ていて何が起きたのか分からなかった」。
この反応は瑞希にとっても予想外。最初は「技の名前考えなきゃ~」といった感じだったが、高木のツイート以降は「技の名前考えなきゃ!!」になったそうだ。さまざまな候補の中から決めた技名は「渦飴(Whirling Cnady)」。瑞希らしいポップなネーミングだ。この技自体に、瑞希のレスラーとしての個性が込められてもいる。
「自分の武器は何かと考えた時に、力ではないなって。ユカさんに力で勝つのは厳しいし、もとからそういうタイプではないので。投げ技とかもテコの原理を使ってかけているし、正面からパワーでぶつかっても勝てないというのはずっとずっと感じてきたことなんです」
軽量の瑞希にとって「全身を浴びせることができる」クロスボディは理にかなった技。当たった瞬間に回転することで「相手はビックリするし、ビックリした瞬間というのは一番ダメージがあるなって」。回転してせり上がれば、より高く、上から飛ぶのと同じ効果もあると考えた。「勝つために考えた技」というだけあって、見栄えだけでなく理屈もともなっているのだ。
技を身につけるために、1人で体育館に行きトランポリンを使って「こっそり」練習を重ねた。より高く飛ぶにはどうすればいいか。回転する際の体の使い方も、何度も繰り返して体得するしかない。何しろ他にコツを知っている選手などいないのだ。「回りすぎて三半規管がフラフラになったりしました」。
秘密特訓ですね、と振ると「え~、じゃあ“朝起きたらできるようになってました”ってことにしておいてください(笑)」。
瑞希によると、オリジナル技は「アクアマリン」以来。タイトルマッチでも「渦飴で勝利を引き寄せたいです」。
これまでずっと、瑞希のテーマはひとり立ちだった。ベルトを巻き、シングル戦線のトップに立つことは自分で自分を信じて強くなった証だ。そのために超えなければならないチャンピオンがタッグパートナーの坂崎というのは運命的。そんな大事な試合に向けてオリジナル技、つまり自分だけの技を開発したのもドラマチックだ。
王者も挑戦者もスピーディーかつ奇想天外な動きでは女子プロレス界屈指の存在。2人にしかできない、東京女子プロレスにしかないタイトルマッチが見られるのは確実だ。バズった“技動画”は、その予兆だろう。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング