9月27日のRIZINでの皇治戦を終えたばかりの那須川天心が、すぐさま次戦に臨む。次の舞台は自身がデビューしたホームリング・RISEの大阪大会(11月1日、エディオンアリーナ大阪)。ここで那須川は、3階級制覇を達成した“ミスターRISE”こと裕樹と対戦。裕樹はこれが引退試合となる。
試合間隔は約1カ月と短いが、まったく問題ないと那須川はインタビューで語った。
「試合が終わったら、5日くらい休んであとはずっと練習です。追い込むというか、それが普通なんですよ。試合間隔が短いけど大丈夫かってよく言われるんですけど、やったことがある身からすれば“いや全然いけますよ”って。僕からすればそれが普通」
那須川には「試合がない時期の普通の練習」、「試合に向けた追い込み練習」といった区別がほとんどない。練習は練習であって、どんな時期でも最大限できることをやる。「練習する、格闘技をやるというのが習慣になってるってことでしょうね」と那須川。ただし「それに慣れすぎないようにもしてます。惰性ではやってない。練習内容を変えて、工夫して、別の刺激を入れながらやってますね」。
練習が好きか嫌いかで言ったら「それはやっぱり、好きですよ。5歳で格闘技を始めて、やめたいと思ったことが一度もない。本当に天職だと思います」。
惰性ではいけないという思いは、練習内容だけでなく格闘技そのものに対する姿勢からくる。那須川曰く、格闘技の試合は「異常事態」だ。
「人が殴り合って倒れるところをお金払って見に来るって(笑)。殴られて失神した人を見て“ウォー!”ってなってるし、倒した方は“よっしゃ!”って。街中で同じことが起きたら大変じゃないですか。そこは普通のスポーツとは違うし、そういう非日常の中にいるんだという意識はありますね。格闘技をフィットネスで楽しむこともできるけど、プロはそうじゃない。ケガをするしヘタしたら死ぬ世界なので」
格闘技に対して深い探求心を持っている那須川だが、同時に格闘技を知らない層にもアピールする魅力がある。誰が見ても分かりやすいKO、圧倒的な強さだ。結果、新規ファンが増えれば増えるほど那須川の“深い部分”とはギャップも出てくる。それがRIZINでの皇治戦だった。最初から最後まで試合を支配した那須川だが、結果としては判定勝利。「KOを逃した」、「最後まで立っていた皇治がよく頑張った」という評価へのジレンマを、試合直後には語っていた。
「地上波の中継はテレビをつけてて、たまたま見たっていう人もいるし、最近はYouTubeで僕を知ってくれたという人もいますね。いろんな人がいるから見方もそれぞれ。それはそれでいいのかなって今は思います。“倒せなかった”って言われるのも、僕がずっと倒して勝ってきたからじゃないですか。だからそこは受け入れるしかないし、いろんな反響とか論争もあって一つの試合だなって。そこで僕のコメントとか記事を見て、より深く格闘技を知ってもらえたらそれも嬉しいし」
ファンは派手なKO、華麗な大技を求める。それを理解しながらも、那須川が最も大事にしているのは「勝つか負けるか」だ。その部分で、那須川と皇治には大きな差があった。
「格闘技は勝ち負けが一番だと僕は思います。KO率や倒し方がフォーカスされることが多いんですけど、まず勝たないと次はないしベルトも巻けない。そこは選手次第で、勝っても負けても盛り上がる試合がしたいという人はそれでいいんですけどね。僕は基本、勝ちに徹するタイプです。勝つために自分の動きだけを空気読まずにやろうと思うし。KOも勝つための最善の手段という感覚ですね。だからダウン取っても調子に乗ったりしないし、どんなに相手が弱ってても油断はできない。無理にKOを狙いにいって、逆に倒せなかったこともありますし」
何よりもまず、那須川天心は“勝負師”なのだ。その本質が見えると、彼の試合がさらに面白くなる。
文/橋本宗洋