以前、メキシコのヘラクルズというサッカークラブが33試合未勝利のため世界各国のトップリーグにおける最長未勝利記録を更新したと紹介されていたことがある。だがリーグ戦で40試合を戦って1勝しか挙げられていないチームがフットサル界には存在する。ボアルース長野だ。
昨シーズンよりF1リーグを主戦場としている長野はF2リーグから昇格後40試合目、実に518日目にして初めて勝利を掴み取った。
■昨季は0勝4分29敗。得点56、失点数は歴代最多の209
試合終了を告げるホイッスルが鳴り響くと、選手たちは歓喜の声をあげ、抱擁し、監督も目に涙を浮かべた。試合後には選手、スタッフがセンターサークルを囲み、全員が肩を組んで勝利のダンスを踊り、勝利を噛み締めた。
長野は昨シーズン、リーグ戦33試合を戦い結果は0勝4分29敗。総得点は56、失点数は歴代最多の209。Fリーグ史上初めてシーズン未勝利に終わってしまった。中には残り0.4秒に同点弾を決められてしまい、あと少しのところで勝利を取りこぼしたこともあった。
ここまでぶっちぎりの最下位で降格しなかったのには理由があった。2シーズン限定で活動していたFリーグ選抜が昨シーズンで最後の年を迎え、さらにヴォスクオーレ仙台がF1ライセンスを失ってしまったことで順位に関わらず降格が決定。幸か不幸か、長野は残留することになった。
プレシーズンには横澤直樹監督の続投も決まった。「いつかはFリーグ史上初のいい成績を歴史に刻みたい」。監督のそんな思いを胸に、各クラブで実力はありながらも出場機会が少なくくすぶっていた選手を何人も補強。
「このメンバーでなら今シーズンは対等に戦えるのではないか」という期待の声を受けながらシーズンが幕を開けた。
しかし気がつけばリーグ戦は6試合が終わり、長野は6連敗。今シーズンから昇格したY.S.C.C.横浜にも敗れ“後輩”にF1初勝利を譲ってしまった。
そんな中で迎えたエスポラーダ北海道戦。相手は前日に千葉県でリーグ戦を行い、その足で長野県に移動した。対する長野はその週、北海道戦のみ。コロナ禍によって起きた変則的な日程が味方した。
しかし内容は互角の戦い。両者一歩も譲らず、第2ピリオド(後半)になってもスコアレスのまま時間が経過。試合終盤、北海道がGKを高い位置まで上げてパワープレーを始めてくる。数的不利になった長野はひたすら耐えるしかなかったが残り46秒、ボールを奪った有江哲平が無人のゴールへと蹴り込み値千金の決勝弾を決めた。
ようやく悲願の初勝利を掴んだ長野。選手、監督が優勝したかのように歓喜するのは無理もない。
ただ水を差すようだが、この勝利は長いリーグ戦の中のたかが1勝。この勝利が本当の価値を見出すのはこの1勝をきっかけに浮上し、常勝軍団になったその時だ。
「このつらい時期を歩んできたから今の長野が強いと言われる日が絶対に来ると思う」
昨シーズン、そう話していた横澤監督。彼の言葉を現実のものにするためにも、この試合をターニングポイントとすることができるだろうか。ボアルース長野の本当の戦いはこれからだ。
文・舞野隼大(SAL編集部)