「武士は食わねど高楊枝という表現があるように、ツラい時でもあまり仕草を見せずに堂々と構えているのがサムライ。そういった意味で、力士とサムライは繋がっているのかもしれない」
現在公開中の大相撲のドキュメンタリー映画『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』。「武器を持たぬ侍たちのエンターテインメント・ドキュメンタリー」と銘打たれた本作に出演している元大関・豪栄道の武隈親方は、自身が抱いているサムライの印象についてそのように話す。
「まぁ、実際はサムライに会ったことないからわからないけどね」
一転して笑顔を見せた親方はさらに「超人とかサムライというのは、映画を観てくれた人がそういう風に思ってくれたら、力士としてはすごく喜ばしいことだと思う」とも続けた。
親方が語るサムライのイメージは、親方の現役時代の姿とよく重なる。何度も苦境に立たされながらも、静かなる闘志を内に秘めて土俵に立ち続けた。そんな豪栄道のひたむきな姿に、ファンも心からの声援を送ったものだ。
本作品内で「痛いと言わない」「テーピングをしない」といった親方の現役時代の姿勢に話がおよんだが、その理由について本人は「小さいときから人前で痛いとは言わないようにしていた。言っても治るわけでもない。勝負師というのは、相手の弱点を攻めてくるものだと思いますし、勝つためにはなんでもするものだと考えています。わざわざ自分から弱みに付け込まれる部分を見せる必要はない。何より裸で闘うスポーツですから。例えば成績が悪ければ、見ている方は、ここを痛めているから負けているのか? そんな風に思うかもしれない。純粋に弱みを見せるのが嫌なんです」と明かした。
そのうえで「服を着て隠れるスポーツだったら、きっとテーピングを巻いていると思いますよ」と笑いを誘うお茶目な一面も、ファンの心をつかむ親方の魅力だろう。
最高位で大関まで上り詰めた親方は「力士をやっていくことで応援してくれる人が出てくる。自分のためにやっていることが、皆が喜んでいる姿を見て、周りの人のためにもなるという実感があった」と現役時代のことを振り返る。
これからは親方として角界を担う力士を育てていく立場になるが、若い力士たちに対して「もっとコンディションに気を遣うこと。身体の土台がしっかりしていないことが多い。具体的に言うと、筋力がない。筋力がつけば相撲の取り口も増えて楽に勝てるようになる。まず、そこを大事にして欲しい」と自身の経験を踏まえて熱心なアドバイスを送る。
「他の競技にはない稽古やちゃんこ番などの修行や経験を通じて、若い子が一人前になっていく過程を見て欲しい」と本作の魅力を語った武隈親方。親方の指導のもと、一人でも多くの“サムライ”が角界を盛り上げてくれる日が待ち遠しい。