空前の将棋ブームをテクノロジーが後押し? eスポーツとしての海外展開で棋士たちの懐事情にも変化か
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 今年9月、スポーツ総合誌『Number』(文藝春秋)が将棋を特集。表紙を藤井聡太二冠が飾ったこの号の売上は累計23万部の大ヒットを記録。改めて将棋への関心の高さを伺わせた。

 それだけではない。将棋は学習教材の付録、幼稚園のカリキュラムにも登場。親たちも「将棋は考える力が身につくから教育にいい」「礼に始まり礼に終わる所作は、大人も覚えるべき」と熱い関心を寄せる。

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空前の将棋ブームをテクノロジーが後押し? eスポーツとしての海外展開で棋士たちの懐事情にも変化か

 将棋教室「棋心」(東京都)を主宰する石田克彦氏によると、“将棋の低年齢化”が進んでいるといい、大会を覗いてみると、確かに幼稚園児が何人も参加していた。5月に始めたばかりだという藤本丈磁くん(5)の父親は、スマホを片手に盤面に向き合っていた。将棋は”素人”だったため、将棋ゲームに丈磁くんが打った手を入力。コンピューターが示した一手を再現していた。

 競技人口の増加に伴い、さらなる発展が期待される将棋界だが、課題がないわけではない。

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 将棋の要素を取り入れたニンテンドースイッチの「リアルタイムバトル将棋」を手がけ、先月には日本eスポーツ連合への加盟を発表したシルバースタージャパンの山本成辰氏は「将棋連盟の公表している賞金と対局料のランキングを見ると、去年のトップが豊島将之竜王で7160万円。藤井二冠は全体9位の2100万円だった。Jリーガーの平均年収がおよそ3500万円と言われているので、他のスポーツに比べて棋士の収入が多いとは言えない」と話す。

 棋士の実生活、そして将来の展望は?4日の『ABEMA Prime』では、プロ16年目の遠山雄亮六段と大阪商業大学の古作登准教授を招き、話を聞いた。

■小学生で「奨励会」入りが棋士への一般ルート、「もう少し収入があれば嬉しい(笑)」

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 遠山六段は3歳の頃に両親から本を贈られたのを機に将棋に触れるようになり、小学1年生で地元の小学校将棋大会で優勝。25歳で棋士になった。

 「アマチュアで実績を残すことでプロになるという道もあるが、基本的には幼稚園くらいに将棋を始め、小学生のうちに下部組織である奨励会に入り、20代前半で棋士になる、というのが一般的なルート。奨励会に入るためには必ず師匠を見つける必要があるが、棋士が開いている教室に通い、そのまま師匠になってもらうというのが一般的だ。藤井聡太さんが杉本八段の弟子に入ったのも、そのパターン。とはいえ師匠がつきっきりで…、というようなことはなく、むしろ芸を見て盗む、あるいは兄弟子に教わる、ということの方が多いと思う」。

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 「奨励会制度」について、古作准教授は「1928年(昭和3年)に作られた、将棋界の根幹となっている制度だ。それまでは有力な棋士の弟子などが推薦を受けて段位を認められ、棋士になるという流れがあったが、奨励会という養成機関ができたことによって、実力さえあればプロになるための道が拓けた。もちろん編入試験を受けてプロになるという道もあるが、基本的には奨励会に入り、四段になって初めてプロ、ということになる」と説明した。

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 そんな棋士の日常生活について、遠山六段は「どこかに出勤する必要があるわけでもないので、いわば自営業みたいな生活で、下手すると家に一週間いたな、ということもある。私の場合は年に公式戦が35局くらいあるので、だいたい月に3回。対局は1日のうちで終わるが、長時間に及ぶことも多いので、準備も含めれば1週間くらいは時間が取られる。合間には趣味のテニスを楽しむこともあるが、詰め将棋などは必ず毎日欠かさず解くようにしている。スポーツ選手で言えば、準備運動、ストレッチのようなものだ。一方で、将棋の普及に務めるのも大切な役割なので、講座や本の原稿執筆もしている。その二本柱で生活が成り立っているような感じだ。妻と猫ちゃんとの生活が普通に送れているが、スポーツの世界と比べれば、もう少し収入、賞金があれば嬉しい(笑)」。

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 古作准教授は「江戸時代の将棋は家元制だったが、明治時代以降は新聞社がスポンサーになり、娯楽コンテンツにもなった。昭和初期は、それこそ将棋欄があるかどうかで新聞の売れ行きが左右されることもあった。ただ、当時は将棋だけでは生活が厳しく、師匠がうどん屋を経営し、将来名人になるような弟子が手伝いをしていた、といった話もあるくらいだ。最近では新聞業界が少しずつ厳しくなってきているので、棋戦の契約金は漸減している。それでも基本的には将棋だけで生活ができている人がほとんどだと思うので、かつてに比べれば恵まれているとは思う。もちろん他のスポーツ同様、上位の人に厚くて下位の人には厳しいが、将棋の場合はゴルフのように指導面で人気のある人もいて、トーナメントプロよりはるかに多くの収入を得ている人もいる」と明かした。

■AIが将棋界を大きく変えていく?海外展開の足がかりにも

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 「今夏は成績不振で苦しんだ」と話す遠山六段だが、近年は将棋AIの登場により、棋士が長く活躍できる環境になりつつあるという。

 「かつては“棋士のピークは20代だ”と言われていた時代もあった。しかし羽生善治九段は50歳になっても強いし、いつがピークなのかよく分からなくなっているということが言われるようになった。やはり将棋AIが出てきたことで勉強法が変わったこともあると思う。藤井聡太さんもその一人で、AIを上手く使って強くなっているのは間違いない。その意味では、かつてよりも将棋がロジカルになってきていると思う。ただ、AIが打ってくる手を追っているだけではなく、自分の思考、思いを入れていかなければならない」。

 古作氏は「遠山六段が言われたように、昔は強い人の将棋を目で見て技を盗むという部分があった。しかし最近ではAIがなぜこういう手を打ったのか、それを分析する能力が高い人が早く強くなっている。視聴者にとっても、将棋AIがリアルタイムで算出する勝率を見ることで、状況が分からなくてもどちらが勝ちそうだということが分かりやすい。これは将棋の普及にとっても良かったと思う」とした。

空前の将棋ブームをテクノロジーが後押し? eスポーツとしての海外展開で棋士たちの懐事情にも変化か

 IT企業として将棋を後押しし、「叡王戦」も主催していたドワンゴ社長の夏野剛氏は「今から10年前のことだが、故・米長邦雄会長(永世棋聖)が率先して“受けて立つ”と言ってくれたところから始まった。デンソーさんが手伝ってくれ、駒を盤面に置くハンドロボットだけで“電王戦”というのをやったりもした。当時、一生懸命AIを開発した会社は今や上場している。伝統的なプロの世界は、テクノロジーに対して控え目だが、将棋界にはそれがなかった」と振り返る。

空前の将棋ブームをテクノロジーが後押し? eスポーツとしての海外展開で棋士たちの懐事情にも変化か

 さらに、将棋とテクノロジーの融合により、「eスポーツ」「マインドスポーツ」を通した海外展開も期待されている。

 前出のシルバースタージャパンの山本氏は「将棋の普及のため、ソフトを20年間ずっと作り続けてきた。短時間で勝負をつけることができる将棋を何か考えられないかということで、開発したのが“リアルタイムバトル将棋”だ」と説明。監修に携わった棋士・星野良生五段は「将棋は海外ではまだまだ普及していない。『リアルタイムバトル将棋』が認知されるようになれば、将棋そのものにも興味を持っていただけるのでは」と期待を寄せる。

空前の将棋ブームをテクノロジーが後押し? eスポーツとしての海外展開で棋士たちの懐事情にも変化か

 「リアルタイムバトル将棋」を実演してみせた遠山六段は「将棋の実力もあった方がいいが、完全にゲームなので、反射神経の方が大事で、子どもでもプロに勝てるかもしれない。そういうところが面白いし、将棋を好きになる入り口になってくれれば」とコメント。「海外にもかなりの数の愛好家がいると聞いてはいるが、知名度はまだまだ。それでも海外の企業の方と話をすると、将棋をeスポーツだと言って頂くこともある。こちら側の体制がより整っていけば、今までになかったような形のスポンサードも考えられると思う」とコメント。

空前の将棋ブームをテクノロジーが後押し? eスポーツとしての海外展開で棋士たちの懐事情にも変化か

 また、古作氏は「海外ではあまり偶然性にとらわれないチェスなどはスポーツとみなされていて、サッカーや野球と同じジャンルで扱われている。将棋がマインドスポーツとして扱われるようになって行けば、棋士の収入の面はもちろん、藤井二冠のようなスター選手たちが出てくれば子どもたちの憧れとなり、より認知度も高まる」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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