「打撃が苦手」な選手と「寝技が苦手」な選手の一戦は、一見すると“大味”な試合展開。にもかかわらず、ファンからは「今までにない面白さ」「昔の総合格闘技を観ているみたい」といった好意的な反響が寄せられている。
問題の試合は、11月13日に配信されたONE Championshipのシンガポール大会「ONE:INSIDE THE MATRIX III」。ユーリ・シエモス(ブラジル)とファン・ロン(中国)の一戦。ONEデビュー戦となったシエモスはブラジリアン柔術での戦績が86勝21敗。師匠はヒクソン・グレイシー門下の黒帯であるマウリシオ・ミゲール・ペレイラ・マウリサォンだ。
過去の練習相手も超豪華。ミルコ・クロコップ、ファブリシオ・ヴェウドゥム、ジョシュ・バーネット、ハビブ・ヌルマゴメドフ、ジェイク・シールズと、やや盛り気味にも思えるような錚々たるビッグネームが並ぶ。さらにパンツのお尻の部分に大きく書かれた「NEWAZA(寝技)」の文字も日本人の琴線をくすぐる。
間違いなく柔術ではトップクラスの実績を持つシエモス、対するファンは中国の総合格闘技団体のチャンピオンでKO率92%を誇る経験豊富な選手だ。満を持しての初戦となるシエモスだが、組みでの強さに対して、打撃戦には不安要素も。ABEMAでゲスト解説を務めた松嶋こよみは「シモエスは後ろに重心が乗っている感じなので、パンチが当たると危ない」と話し、懸念を指摘した。とはいえ1ラウンド後半、シエモスはファンをテイクダウンすることに成功すると、効果的なパウンドで削り、強さの片鱗を見せる。
2ラウンド、インターバルでも松嶋が指摘したシエモスの打撃面の穴が、徐々に露呈していく。テイクダウンを狙うものの、力なく崩され寝転んだ状態で蹴られ、スタンドでも足の動きが鈍い失速状態。パンチの打ち合いもやや腰が引け気味になり、数こそ少ないがファンの強烈なパンチを貰うようになる。
「殴るか組むか」
得意分野がクッキリと分かれた両者の戦い。視聴者からも「打撃がダメな選手と寝技がダメな選手の戦いだ…」との声も。
息も絶え絶えのシエモス。パンチを貰いつつ掴もうとして失敗。ゴロリと倒れて蹴られるといったシーンが延々と繰り返されると、解説の大沢ケンジが「昔のPRIDEを観てるみたいですね。柔術家がでてきて"組めばどうにかなるんだけど…”という(試合のようだ)」と話すとファンも反応。「MMA創世記のような試合だな」「マジで昔の柔術家のデビュー戦を観ているみたいだ」といった意見が並ぶ。
3ラウンド、今度はシモエスがタックルを狙うが、あっさりファンに逃げられるシーンが繰り返される。すると大沢は果物にたとえて「(シエモスは)出荷が早かった。熟れていない、もっと打撃を熟成させないと。絶対強くなる選手なので…美味しくできあがる筈なんですよ」とポテンシャルは認めつつも、実戦は時期尚早という見解を示した。
そんな散々な評価のシモエスだが、終了間際残り1分半の場面で、ケージ際で遂にテイクダウンに成功し、最後の見せ場を作る。解説陣も「チャンスだ!」と絶叫、視聴者も「とうとうきた」「イケー」と大盛りあがり。パウンドで仕留めたいシモエスと、ひたすら耐えるだけのファンという構図のまま、試合は残り30秒。上から殴るシモエスが仕留めようと逆十字を狙うが失敗。ファンの反撃に遭い鉄槌を貰いながらタイムアップを迎えた。
判定は打撃戦で圧倒したファンが3-0で圧勝。昔の総合格闘技を彷彿とさせるノスタルジー溢れる戦いに視聴者からも「見どころがわかりやすくていい試合」「今までにない面白さ」との興奮ぎみ。大沢も「こういう試合は面白いですね、(違う)競技同士の戦いみたいな感じがしますね」と満足した様子。一方、ドタバタの試合展開を全力で実況していた西アナウンサーは「私、凄い体力を使ってしまった実況だったんですけど…」と疲労困憊した様子だった。