GPSを用いたストーカー行為は「見張り」に当たらず…最高裁の判断に波紋、改正が急がれるストーカー規制法
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 今年7月、最高裁が下した「GPSはストーカー規制法が定める見張りには当たらない」という判断。警察が本腰を入れて取り締まってきた、GPSを用いたストーカー行為が、ここにきて罪に問われなくなってしまう可能性が出てきている。

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 ストーカー規制法は、今から20年前に起きた、女子大生が元交際相手の男らに殺害された「桶川ストーカー殺人事件」を機に議員立法された法律だ。これまで2度の改正がなされ、「SNS」や「メール」にしつこく書き込む行為などは規制の対象とされるようになったが、GPSを明確に規制する文言は盛り込まれていない。そのため、刑法に詳しい甲南大学法科大学院の園田寿教授は「法の不備ではないか。GPSを悪用したケースはすでにあるわけだから、迅速に法改正をすべきだと思う」と指摘する。

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 滋賀県在住の内田八千代さん(52)は13年前、取引先に誹謗中傷のFAXを送りつけられるなど、元交際相手からのストーカー被害を受けていた。ある時、故障した自動車の修理を整備会社に依頼すると、車体からGPS装置が発見された。当時、一日中車に乗って仕事をしていたという内田さん。「わかった時はゾワっとした。気持ちが悪い。当時は友人などからの伝聞だと思っていたが、“最近あの店によく買い物に行くの?”ということを聞かれていた。全て見られていたんだと、つながった感じがした」。今でこそGPSが悪用されるケースは知られているが、当時はまだ珍しかったせいもあってか、相談した警察の反応は極めて鈍かったという。

 ストーカー規制法改正に取り組んできた公明党の山本香苗参議院議員は「内田さんが被害に遭われたのは2007年だが、2012年に起きた逗子ストーカー殺人事件では、加害者が大量のメールを送ってきたが、ストーカー規制法の中の類型に電話・FAXはあったがメールは入っていなかったため、警察が対応しなかった。そこで即座にメールという文言を入れるという形をとったのが1回目の改正だ」と説明する。

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 しかし、その後も内田さんのようなGPSによるストーカー被害のケースは相次いでおり、アイドルに贈られたプレゼントの中や女子高校生の自転車のサドルなど、手口も様々だ。2014年には、元交際相手にGPSで居場所を突き止められた20代女性が射殺される事件も発生している。事態を重く見た警察はGPSを利用したストーカー行為がストーカー規制法の禁じる「見張り」に当たるとして取り締まりを強化。2014年から2020年6月までに59件の摘発事例がある。しかし、それらはあくまでも氷山の一角のようだ。さくら幸子探偵事務所の工藤勝則氏によると、相談の電話が毎月のように入ると明かす。

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 山本議員は「私たちとしても、司法の判断は重く受け止めなくてはならないが、正直言って、ものすごくびっくりした。内田さんがおっしゃったように、GPSによって居場所をウォッチされているというのは、ものすごい恐怖だ。我が党においても、最高裁の判決が出てすぐ、これは手立てを講じないといけないということで、すぐにプロジェクトチームで法改正の議論をスタートさせた。最高裁の判断は“法律上の住居等の付近における見張りには当たらない”と言っているだけであって、GPSで見張りをすること自体がダメだと言っているわけではない。やはり装置がAmazonですぐに買えてしまうし、GPSで見張りをするようなケースも、ストーカー規制法上の規制対象となる“つきまとい”と同様に見なして規制できるようにしたい」と話す。

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 一方、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「テクノロジーの進歩に伴って、SNSなどのバーチャル空間やBluetoothなど、監視や居場所が特定できる機会が増えていると思う。そしてGPSは認知症の高齢者の見守りなどの用途で使うといったことも考えられる。やはりリアル空間、GPSと書き込むだけでは、いずれ対応しきれなくなるケースが出てくると思う」と指摘する。

 山本議員も「追跡アプリのように、スマートフォンにインストールしなければならないものについては、不正アクセス禁止法で本人の同意がなければダメだという形になっている。一方で、なんでもかんでも規制すればいいというわけでもないと思っている。IT技術は適正に使われれば皆にとっても大変に良いものなので、バサッと規制するというよりは、“こういう形で使われることがあるんだ”ということをしっかり使う側に認識してもらわないといけないし、開発されている企業の方々にも、犯罪に使われる可能性もあるということを認識してもらうことも併せて考えていかなければならない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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