「強い萎縮があらゆるところで進んでいる」「身分証をチェックされることが明らかに増えた」香港在留研究者に聞く“国安法”で変化した社会
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 香港民主化運動の重鎮が11日、香港当局に起訴された。起訴されたのは中国政府に批判的な香港紙「リンゴ日報」の創業者・黎智英(ジミー・ライ)氏。

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 罪状は、外国の勢力と結託し国家の安全に危害を加えたとして、香港国家安全維持法に違反したという内容。中国外務省の華春瑩報道局長は11日、「あなたの言う“報道の自由”への弾圧について、偏見を捨て事実に基づき捉えるべきだ」と述べた。

 中国本土と同様に、反体制的な言動の取り締まりが可能になる国家安全維持法。この法律にはアメリカなど多くの国が非難。日本政府も、当時の菅官房長官が「国際社会や香港市民の強い懸念にも関わらず、同法が制定されたことは遺憾である」と述べていた。

「強い萎縮があらゆるところで進んでいる」「身分証をチェックされることが明らかに増えた」香港在留研究者に聞く“国安法”で変化した社会

 ジミー・ライ氏は去年、アメリカのペンス副大統領と会談するなど、国際的にも発信力のある香港民主派の大物で、中国政府は危険人物だとみなしてきた。国家安全維持法では最高で無期懲役が適用される可能性もある。

 デモの扇動や無許可の集会に参加した罪で、周庭(アグネス・チョウ)氏など民主活動家の収監が相次ぐ香港。今、何が起きているのか。11日の『ABEMA Prime』は、香港中文大学大学院に在籍中の研究者で、香港の抗議活動ではメディアの取材支援を行った石井大智氏に聞いた。

 そもそも、『リンゴ日報』はどのくらいの影響力を持っているのか。石井氏は「香港は日本以上に新聞や既存のメディアから離れている人が多いが、アップルデイリー(リンゴ日報)は紙の新聞からネットにうまく移行することによって、ネットの有料購読者が60万人もいるメディアになっている。元々はタブロイドみたいな週刊誌的な存在だったが、最近は政府に対して屈さずに色んな情報を発信することから、多くの民主派の人々の支持を得ている」と話す。

「強い萎縮があらゆるところで進んでいる」「身分証をチェックされることが明らかに増えた」香港在留研究者に聞く“国安法”で変化した社会

 なぜ中国政府はこのタイミングで国家安全維持法を作ったのか。「国際社会から見ると、一国二制度を語る時に“中国と香港は違う”という二制度の方を重視する。ただ、中央政府からすると二制度の前に一国があるだろうと。つまり、国家分裂や国家に対して強い影響力があるような民主化運動というものは許容できない。一国を重視するからこそ、このタイミングで国安法という法律を施行したと語る人が多い」と説明。一方で、「去年の11月の区議会選挙では、約4割の人たちが親中派と言われる体制派の人々に票を投じている。民主派はそれに対して6割。小選挙区制なので民主派が圧勝しているが、香港社会は大きく分裂していると見ることができる」という。

 日本はこの問題にどう関わるべきなのか、踏み込んでいいものなのか。「日本が踏み込むか踏み込むべきではないかは、何を目的にするかによるので一概には言えない」とした上で、「日本に全く影響がないと言えるわけではない。例えば、中国本土でも日本人の研究者や商社の方で拘束されている人がいる。ごく少数だが、そういうことが今後香港でも起こるかもしれない。そうなった時に、日本政府がどう動くべきなのかということは考えておかないといけないと思う」とした。

「強い萎縮があらゆるところで進んでいる」「身分証をチェックされることが明らかに増えた」香港在留研究者に聞く“国安法”で変化した社会

 香港国家安全維持法では、国家安全に危害を加える4つの罪として「国家分裂」「中央政府転覆」「テロ」「外国勢力と結託」がある。適用対象は今範囲にわたり、香港永住者・企業・団体などのほか、香港永住権を持たない者が香港の外でこの法律を犯しても適用すると規定している。

 石井氏は7月3日の指摘で、「やりすぎれば国際社会から様々な圧力を受ける可能性。国家安全維持法をバンバン適用するのはそれほど簡単ではない」としている。直近の逮捕者の傾向は、「今のところ国安法で直接捕まった人は40人。これを多いとみるか少ないとみるかは難しいところだ。ただ、誰でも彼でも捕まえているわけではない。例えば、香港独立の旗を見せたとか、有名な政治人物の逮捕に今のところ限られている。今のところそれ以上には拡大されていない。最近では、去年の抗議で捕まった人たちが今ごろ起訴されて罪になっている。周庭さんの判決も出たが、そういうものが目立つ」という。

「強い萎縮があらゆるところで進んでいる」「身分証をチェックされることが明らかに増えた」香港在留研究者に聞く“国安法”で変化した社会

 そうした中での民主派の活動については、「路上に出てくる人は極めて減ったと思うが、国安法のせいというよりは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う規制。集合が規制され、集まること自体が罪になってしまうので、基本的にみんなデモに参加しなくなったという感じだ。ただ面白いことに、少人数しか参加しないデモが行われているが、それをライブストリームなどで見ている人は毎回数万人くらいいる。ライブストリームを見ることでデモに参加している意識を持っている人もいる」と説明した。

 香港内で言論統制を実感することはあるのか。石井氏は「国安法そのものの締めつけはまだまだ限定的だと思う。もし本気を出して、この条文通りに最大限に解釈すれば、いくらでも人を逮捕できるわけだ。これが民主派の人々に恐怖をもたらしている。元々、香港人は政治に対してものを言うことが好きだが、後で起訴されるかもしれないという懸念の下で、だんだん黙ってきているというのが今の状況だ。強い萎縮があらゆるところで進んでいるというのが私の印象」との見方を示す。

「強い萎縮があらゆるところで進んでいる」「身分証をチェックされることが明らかに増えた」香港在留研究者に聞く“国安法”で変化した社会

 また、自身も街頭で身分証をチェックされることが明らかに増えたそうで、「私は20代前半だが、20代前半は一番民主派寄りというか、デモなどに肯定的な人も多いので、そういう人たちを取り調べて違法なものがあったら捕まえるような感じだ。『香港独立』と書かれたようなキーホルダーを鞄の中に入れていたら当然違法になる」と明かした。

 石井氏は研究者として、しばらくの間は香港に残りたいとの意思を示す。

 「香港の法の支配というのは、一気に壊れていくのではなく、徐々に壊れていくという感じ。どこまで壊れるか分からないが、研究者としてはやはり現場にいて、裁判などを聞きに行って、どういうふうに法の支配が壊れていくのかというプロセスに非常に関心を持っている。そういうことを記録しないといけないなと思っているので残りたい。(香港を)出ていくと裁判が聞けなくなるので」

ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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