元ブラジル代表のレジェンド、ロベルト・カルロスを彷彿とさせる左足シュート力を持っているからこその発言だ。そんな自信たっぷりの選手が見せた、“意外な”頭脳プレーが、大きな話題となっている。
その選手とは、フットサル日本最高峰の舞台『Fリーグ』のバサジィ大分に所属する小門勇太だ。競輪で大活躍した小門洋一氏を父に持つ彼は、その脅威的なフィジカルを武器にフットサル界を席巻している。
ホームにY.S.C.C.横浜を迎えた一戦でも、左足から数々の驚異的なシュートが放たれ、相手に脅威を与え続けた。その一つが、第1ピリオド(前半)8分のプレーだった。ゴールから10メートルほど、正面からやや右の位置で獲得したFKで、キッカーを務めたのはもちろん小門だ。
小門のシュート力を知っているだけに、守る横浜には緊張が走る。笛の合図と同時に小門は、無慈悲に左足を強振。唸るような速さのボールが相手GKの下腹部を直撃した。解説を務めた北原亘氏も「痛いだろうな…」と絶句。プレーを続けていたGKは、ボールが切れたタイミングでたまらず倒れ込んでしまっていた。
このプレーがおそらく伏線となっている。
迎えた第2ピリオド(後半)12分、再び大分が絶好の位置でFKを獲得。ボールをセットしたのはもちろん小門で、ボールを置くと、やや長めの助走を取って、ホイッスルを今か今かと待ちわびていた。
“GK悶絶”のFKが強烈すぎたせいからか、壁に立つ横浜の選手は、アゴと下腹部をしっかりとブロックしながらやや硬直し、震えているようにも見える。無理もない。それほど小門のシュートはヤバイのだ。
レフェリーの笛が鳴ると、小門はゆったりとした助走に入る。守る横浜はインパクトに備えて体が硬直する。すると、これを冷静に視野に入れていた小門が、ゴールのニアサイドの隙間と味方の立ち位置を見ながら、シュートではなく、優しいパスを、素早く味方へと届けたのだ。
虚をつかれた横浜は全く反応できず、どフリーで受けた森洸が冷静にゴールを奪った。
「そっちー!?」「自分でいかんのかい!」「うわーこれ絶対小門がドッカン来ると思ったよね」「小門キャノンのイメージに引っ張られ過ぎた」
と、コメント欄でも、大多数が小門の強烈なシュートを予想して、裏をかかれていた。相手の心理状況、「小門のシュートはヤバイ」という恐怖心を逆手にとった、完璧なデザインプレーだった。
パワーがあるから、テクニックが生きる。ワールドクラスのシュートがあるから、優しいパスが通る。自分の武器をよく知っているから、ピッチで輝ける。小門勇太は、豪快で繊細で、冷静なプレーヤーなのだ。
文・川嶋正隆(SAL編集部)
写真/高橋学