バサジィ大分のGK・矢澤大夢が高く蹴り上げたボールは会場の天井スレスレまで上がり、そのまま吸い込まれるようにして相手チームのゴールネットを揺らした。
フットサルコートの端から端へ、40mを縦断して決まった得点にネットや中継のコメント欄が騒然となった。
この衝撃ゴールが決まったのは立川・府中アスレティックFC戦との試合終盤。矢澤の所属する大分が6-2とリードしているときのことだった。対戦相手の立川・府中は点差を縮めるべくGKをフィールドプレーヤーにし、ゴールを無人にしたパワープレーを仕掛けていた。
4点差とはいえ時計の針を少しでも進めたいため、矢澤は1秒でもボールを蹴り上げた。本人も恐らくクリアのつもりで蹴ったのだろう。思いがけず入った自身のゴールに苦笑いを浮かべていた。
この試合で実況を務めていた加藤謙太郎氏と、解説を務めた元Fリーガーの中島孝氏も戸惑いながら中継を続けた。
コメント欄の中には「これは狙ったわけじゃないよね(笑)」「ミスキックやろ」という書き込みもされていた。
高さ90mある大分の観光塔「別府タワー」にちなんで“別府タワーシュート”と名付けられたこの超ロングシュートは、ABEMAの番組『アベマ Fリーグダイジェスト』で日本人W杯得点王のナビゲーター・稲葉洸太郎さんによって週間ベスト5ゴールの第3位に選出された。
番組内で稲葉氏も「ここしかないというところに弧を描いた素晴らしいラインでした」と賛辞を送った。
かなり高くに蹴られ、長い距離を経て珍しい形で決まった矢澤の得点だが、無人のゴールに突き刺さる“パワープレー返し”自体はフットサルの試合ではよくあること。ゴールをガラ空きにして数的優位で攻めるパワープレーとそれを耐え凌ぎ、パワープレー返しを狙う守備側の攻防戦は目が離せない。こういった戦術的な駆け引きを見られるのもフットサルの醍醐味の一つだ。
文/舞野隼大
写真/高橋学