緊急事態宣言が1カ月延長されることになった東京都の新規感染者数は9日連続で1000人を下回り、一時は2000人を超えていた頃から比べ、減少傾向にある。
ただ、東京都と神奈川県は保健所の業務ひっ迫を受け、感染経路や濃厚接触者の追跡に関する方針を変更。高齢者や基礎疾患がある人に絞るなど、調査の規模を縮小させていることもあり、新規感染者数の推移が感染状況を正しく反映しているのかを疑問視する声も上がっている。
日々刻々と変わるこれらの数字と報道に、私たちはどう向き合えばいいのだろうか。
統計・データサイエンスに詳しいJX通信社の松本健太郎氏は「感染経路不明者に目立った変化が起きていないが、東京も全国も、基本的に積極的疫学調査の対象になっているはずの60歳以上で新規感染者数は減ってきている。仮に追跡が適切に行われているのであれば、全体的な傾向としては“減っている”と考えられるのではないか」と話した上で、次のように指摘する。
「数字を時系列に追っている中で、ある日を境に急に上がったり下がったりすることがあると思う。それをウォッチすることが大切だ。現状で言えば、劇的に上がった下がったみたいなのがないということを踏まえると、一概にデータだけでこうだとは言い切れないのが現状だと思う。身も蓋もないことを言ってしまえば、物事が3つ、4つの指標だけで100%理解できるという発想からは脱したほうがいい。そもそも、数字そのものにも曖昧な部分があり、ファクトの数字と、オピニオンの数字とがあると思う。例えば新規陽性率についても、その日の検査数をその日の感染者数で割っていいのかというと、すごく難しい」。
その上で松本氏は、東京都の発熱相談件数の数字などを定期的にウォッチしていると明かす。
「発熱ですぐに騒ぐ人もそうでない人もいると思うが、移動平均で見てみると1月3日をピークに緩やかに減ってきていて、1カ月ほどかけて3分の1くらいにまでなっている。これは積極的疫学調査で追うのをやめたとしても、ここまでは減らないと思う。全体の傾向としては、市中感染が減ってきているという判断材料の一つになるのではないか」。
また、東京都北区保健所長の前田秀雄医師は、積極的疫学調査の縮小について、「例えば企業の中で陽性の方が出た場合、これまではその方の勤務状況や周りの方との接触状況、感染防止対策の状況などを伺い、内容によっては実際に企業に赴いて座席の配置や換気の状況などをつぶさに検討しながら調査を行っていた。ただ、私たちもこの1年間調査を実施する中で、どういう施設、状況で感染が広がりやすいのかが分かるようになってきた。現在では事前の電話・FAXなどによる調査を踏まえ、感染が広がりにくいと判断したところに関しては、その企業、施設、あるいは学校の担当者の方に一定程度は対策をお任せし、我々はアドバイスするという形になっている」と説明。
また、数字の問題について「“率”というのは曲者で、分母と分子をどう取るかによって結果が変わってしまう。そこをしっかり判断しないといけない。一方で、ある程度同じ形で推移する統計をとっていれば、全体の数字の変化から傾向がわかってくる。保健所への相談について言えば、去年の2~4月の頃と現在では内容が全く違う。当初は“どこでマスクを買えるのか”といったものまで寄せられていたが、今は発熱が続いていることについて、あるいは周囲に感染者が出たといった、かなり正確なものになってきているので、皆さんの心情の変化も反映されてきていると思う。緊急事態宣言についても、営業時短要請でお店が、というよりも、皆さんがこれを受け止めて行動に移したという社会心理的な意味での効果があったと思うし、それによって感染が縮小したということは確かだと思う」と話した。
他方、厚生労働省は5日、感染歴を調べる抗体検査の調査結果を発表。それによると、東京都では抗体保有率が0.91%となっており、“昨年6月の調査時に比べ9倍に増加した”などと報じられている。
この点について松本氏は「厚生労働省の資料では、東京都の数字は0.62%~1.29%の範囲内で見て下さいということになっている。調査対象者はランダムサンプリングではあるが、実際に受けるかどうかは自由意志だし、かなり偏りも出ていると思う。統計的な発想で数字を読んではいけない前提の数字だと思う」と指摘。
前田医師は「都の人口と累計感染者数の比率と単純比較すれば、感染者のうち、約8割については検査で確認ができていたという見方もできると思う。ある意味では検査がかなりいい形で行われていたのではないかなと思ったし、当初は検査が受けられないことに不満の方もおられたと思うが、実はかなり正確に陽性になるべき方が陽性になっていたんだと思う。ただ、感染が拡大してからまだ1年程度なので、抗体については統計的に分かっていない部分も多い。少なくとも半年程度は残っているといわれているので、すぐに再感染することは基本的にはないと考えている」との見方を示した。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「数字というのは“点”で見てもあまり意味がなく、推移を追わなければならないし、その意味でも冷静に立ち止まって考察しなければならないもの。しかしテレビなどでは、なんとなく見ている人が“つまらない”と思っちゃうと困る。だから飛びついてくれるよう、“味付け”をする。そういう中で、おかしくなっていくこともあると思う」とコメント。
改めて前田医師は「マスク、手洗いをしっかりしていただくということと、飲食の場面も含め、ついマスクを外して会話してしまうことを減らしていただきたい。厚労省の会議でも、そのあたりのことが若い人たちにしっかり伝わっていないのではないかという懸念が出ている。新聞やテレビで伝わらない分、インターネットの媒体で、ぜひ若い方に感染予防のことが伝われば」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
この記事の画像一覧







