「遺棄してしまったお母さんの気持ちも分かる」望まない妊娠、複雑な家庭環境、貧困…出産後、子どもを手放さざるを得ない“特定妊婦”
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 この冬に相次いで報じられた、母親と新生児をめぐる悲しい事件の数々。

 去年11月には就職活動で上京した女が羽田空港のトイレで赤ちゃんを出産、港区の公園に埋めて遺棄した事件、12月には栃木県で女子高校生(17)がショッピングモールのトイレで産んだ男児を殺害した事件。今年に入ってからも、大阪市にある産婦人科の敷地内に、生後間もない男の子が置き去りにされた事件が報じられている。

・【映像】産む前から子どもを手放す決意 望まない妊娠と特別養子縁組 必要な支援と現実

「遺棄してしまったお母さんの気持ちも分かる」望まない妊娠、複雑な家庭環境、貧困…出産後、子どもを手放さざるを得ない“特定妊婦”
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 望まない妊娠、複雑な家庭環境、経済状況…。様々な理由から出産・養育が困難な妊婦は「特定妊婦」と呼ばれており、実に130人に1人の割合で存在するとされている。

■「お母さんのことも大事にしなければ」“こうのとりのゆりかご”慈恵病院長

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 行き場のない妊婦と赤ちゃんを救うために設置され、賛否を呼んだのが熊本の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」だ。匿名で預かる、日本で唯一のいわゆる“赤ちゃんポスト”で、これまでに155人の赤ちゃんが預けられてきた。しかし昨年12月、慈恵病院が保護を求めた女性が逮捕されてしまうという事件が起きた。

 マンションで子どもを死産させてしまったという女性は生活が苦しく、両親とも死別し頼れる人もいなかったことから慈恵病院に相談。早急な保護が必要だと判断した病院側が警察に連絡したところ、女性が死体遺棄の疑いで逮捕されてしまったのだ。

 私たちの取材に対し蓮田健院長は「自分一人で出産した赤ちゃんが亡くなってしまって、どうしたらいいのかわからない。しかし警察に相談したら捕まってしまうかもしれない。そうなると、これから自宅で出産した方が赤ちゃんの遺体を隠してしまう、捨ててしまう、ということが起きてくるかもしれない。お腹に入っている赤ちゃんを大事にするのであれば、お母さんのことも大事にしなければならない」と訴えた。

■「他人事とは思えない」コロナ禍で失業、知人男性の家で望まない妊娠をした女性

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 このようなニュースを見る度に「決して他人事だとは思えない」と話すのは、妊娠37週(取材当時)で臨月を迎えていたユウコさんだ。

 水商売で働いていたというユウコさんは昨年3月、コロナの影響で失業。知人男性の家に転がり込んだ末に、望まない妊娠をしてしまう。しかし男性は「俺の子どもじゃない」と話し、LINEもブロック。今は連絡が取れない状況だという。「完璧に逃げられた」。ユウコさんは10万円にも満たない所持金で数カ月にわたりネットカフェで生活。中絶するお金もなく、複雑な家庭事情があり親を頼ることもできず、相談できる相手もいない中、臨月を迎えてしまった。

 「今の自分では、子どもを幸せにはできないなって」。生まれてくる子どもを養子縁組に出すことを決意したユウコさんは、同じような状況にある女性たちを支援してきたNPO法人「Babyぽけっと」のシェルターに身を寄せた。そして番組放送直前の今月5日の夕方、無事に出産したという。

 「産んだばかりなのでもう少し様子を見て、本人の意思が変わらなければ特別養子縁組で進めていく」(Babyぽけっとの岡田卓子代表)

■「うちに来る子は99.9%、特定妊婦」女性のサポートを行う岡田氏

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 「うちに来る子は99.9%、特定妊婦。そして、大半が生活に困窮している」。岡田さんたちのもとには、ユウコさん同様、追い詰められた女性たちからの相談が途絶えることなく届く。私たちが取材をしている時にも、臨月を迎えた女性から、病院にも行っておらず、どうしていいか分からないとの電話が寄せられた。

 「今日、明日にも産まれるかもしれない。でも、親や周りに知られるのを怖れて、私たちが迎えにいき、病院に付き添うと言っても居場所を教えてくれない。自宅出産になってしまうのが最も心配だ」。

 岡田氏によると、特定妊婦は行政への相談を躊躇うケースが多いという。「行政にあまりいい対応をされなかったという情報をネットで見たり、行ったが思うようにいかなかったりということで、私たちのような民間にやってくる。やはり出産費用についても、自分で都合を付けて下さいと言われがちだ。また、行政では自分で育てるように言われてしまったり、乳児院を勧めたりされるので、特別養子縁組を望む方がギリギリまで悩んでうちに来ることもある」。

 Babyぽけっとでは、出産後の女性のサポートも行っている。「産んだ後も帰る家がない場合は一緒に仕事を探したり、行政に繋げたり。ただ、子どもを養子に出してしまうと、なかなかと生活保護を受けることができず、焦った末、手っ取り早く稼げるからと、再び水商売の方に戻ってしまう方もいる。そういうところも含めて、状況を変えていくのが非常に難しい」。

■「岡田さんのところでも、何度も産んでいる方がいる」石井光太氏

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 Babyぽけっとのサポートを受けた女性も含め、様々なケースを取材してきたノンフィクション作家の石井光太氏は、母親のサポートの必要性も強調する。

 「幼少期のネグレクトや学校でのいじめなどで、精神疾患を抱えてしまっている女性、また、軽度の知的障害のある女性もいる。そういう方が夜の商売に入っていくと、やはり他人に利用されてしまうこともある。そういう中で妊娠・出産という状況に直面すると、パニック状態に陥ってしまったりするし、行政での説明や手続きが難しく、注意されたり、詳細を調査された結果、リストカットしてしまう方もいる。行政としてもセーフティネットは用意しているが、やはり一定のルールの中で運用しなければならない。しかし、そこからどうしても抜け落ちてしまう人もいるということだ。だからこそ、行政とは違う受け入れ方をしてくれる、岡田さんたちのような民間が必要だということだ」と説明する。

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 そうした女性の中には、再び岡田さんたちのところに戻ってきてしまうようなケースもあるという。

 「岡田さんのところでも、何度も産んでいる方がいる。赤ちゃんは特別養子縁組によって別の家庭に預けられ、育ててもらうことで救われる。子どもを愛するがゆえに養子として手放し、そして生活保護を受けられないという人もたくさんいる。しかも、そういうお母さん方がそのままになってしまっている。本人が社会と繋がる力が弱かったり、サポートのためのシステムがなかったりするため、ものすごく苦しみ、中にはそういう女性を狙う男性もいて、再び妊娠、ということになってしまう場合もある。

 先日、赤ちゃんが瀕死の状態になるまでネグレクトしてしまったお母さんの話を聞いた。本人も気付いてなかったが、実は発達障害があり、ご飯を作ってあげたいのに夕方6時に始めて終わるのが夜12時になってしまっていたとか、お風呂がないので銭湯につれていくが、聴覚過敏があってパニックになってしまい、そのまま帰ってしまうといったことが続いたという。子どものことは愛しているし、育てたいけど育てられない。そういう方々への支援も必要だということだ」。

■「逃げた男をぶん殴りにいくような制度を」元経産官僚・宇佐美氏

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 なぜ、行政が税金を使って手厚いサポートをすることができないのか。岡田氏たちのような民間に任せきりで良いのだろうか。

 そうした疑問に対し、元経産官僚の宇佐美典也氏は「行政というのは、新しい課題に対して即座に予算を付け、新しい仕組みを作り対応することができない。ただ、民間には現実の問題に突き当たっている人たちの中から岡田さんたちのような活動が出てくるので、それらを吸収していくというサイクルで回っている部分がある。大事なのは、そのサイクルが回っているかどうかだ。加えて、子を持つ父親としての立場から言えば、逃げた男が社会から抹殺されるというか、行政がぶん殴りに行くような制度がなければダメだと思う」と話していた。

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