日本中の”核のごみ”を引き受ける覚悟は?選択を迫られる北海道の2つの町「寿都町」と「神恵内村」
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 「高レベル放射性廃棄物“核のごみ”を、どこで処分をするのか」。その議論は、突然動き始めた。北海道の小さな2つの町「寿都町」と「神恵内村」が、核のごみの処分場を選ぶ調査に名乗りを上げた。だが町民からは「NOと言わなければ誰が言うんですか!」や「過疎を取るか核を取るか、それだけだ!」などの声が上がる。

 衰退の一途をたどる2つの町は、一体どこへ向かうのか。日本中の核のごみを引き受けるのかどうか、選択を迫られる町の苦悩と現実を追った。(北海道テレビ放送制作 テレメンタリー過疎を取るか 核を取るか~「核のごみ」処分場に揺れるマチ~』より)

■「ビジネス感覚からすると、最高のチャンスですよ」

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 日本海に面する北海道・寿都町(人口はおよそ2900人)。1年中強い風が吹く町には巨大な風車が立ち並ぶ。基幹産業は、漁業や水産加工業だ。

 2020年8月中旬、「核のごみの処分場を選ぶ調査に応募を検討している」と片岡春雄町長は語った。片岡町長は「(この案件というのは)ビジネス感覚からすると、最高のチャンスですよ。色んなプーイング含めて批判を怖がって、これに手を出さないということは、チャンスを一つ投げ出すということ」と説明する。

 原発の使用済み核燃料を再び燃料として使うための再処理。この時に出る「廃液」をガラスと一緒に溶かし、ステンレス製の容器に入れて固めたのが”核のごみ”だ。

 核のごみは非常に強い放射線を出し、人が近づくとわずか20秒で死に至る。これを分厚い金属や特殊な粘土で覆って、地下深くに埋める計画だが、放射能が安全なレベルに下がるまでおよそ10万年という途方もない年月がかかる。

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 調査応募に前向きな寿都町に、北海道の鈴木直道知事が乗り込んできた。鈴木知事は「文献調査について、私は法律上、意見を申し上げるという機会はないわけですが、概要調査に行かれるという場合については、現状では反対の意見を述べていきたいと」と話す。片岡町長は「今これをやるとか、やらないとかいう議論じゃなくて条例があるのも分かります。だからこれ、皆さんで勉強しましようよ」と呼びかけた。

 最終処分場を選ぶ第1段階は、地質などの資料を調べる2年の「文献調査」。受け入れた市町村には、最大20億円の交付金が渡される。その後、ボーリングなどをする4年の「概要調査」へと進み、ここでは最大70億円が交付される。その後は、実際に地下を掘る14年の「精密調査」を経て、処分場の建設が決まる。次の調査に進むには知事と市町村長の同意が必要で、反対があれば、先に進めない仕組みだ。

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 鈴木知事は「メディアでも一部、『(交付金は)奨学金みたいなもので、学びながら行くんだ』というお話がありましたけども、奨学金を出すのが国だとすれば、学校に行くときにお金を出すときに、中退(調査中止)することを前提として奨学金を出すということにはならない話でもあると思うので…」と投げかけると、片岡町長は「極力、中退にならないように」と答えた。

 また鈴木知事は「ここ(精密調査)まで行っちゃうってことですよ?」と問いかけると、片岡町長は「いやいや、私は行くべきだと思ってますよ。個人的にはね」と答えた。

■都道府県で唯一「核のごみを受け入れがたい」と宣言

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 北海道には「核のごみを受け入れがたい」と宣言する都道府県で唯一の条例がある。そのきっかけは、1980年代に幌延町で持ち上がった、”核のごみ”の貯蔵施設の計画だった。

 地元住民の激しい反対の末、”核のごみ”を持ち込まない研究施設だけを作ることになった。そのころ、原子力政策の中枢にいた官僚や電力会社の幹部たちが、ひそかに議論を重ねていた。

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 元原子力委員会委員は「幌延の最初の時から、試験はするけれども良ければ(核のごみを)そこに置いちゃおうという考え方が、非常に強かったと僕は思うんだ」と振り返る。

 また、元科学技術庁原子力局課長は「始めはこんなにひどい反対はないかも知れないと思って、なんとかうまく行っちゃうんじゃないかと思ったけども、だんだん『反対』というのが非常にはっきりしてきて…。もうここまではっきりしてくるとどこへ持って行っても、今の考え方だったら『よし、俺のところは良い』っていう望みがあまりないような気がしますね」と話す。

 元原子力委員会委員も「青森や北海道で嫌なものはさ、東京や神奈川でやれるわけないしさ」と明かす。いわば、北海道に押し付けるような雰囲気が当時からあった。

■「ああ、貧しい」 毎年、5億円以上の赤字

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 財政基盤が弱い寿都町を長年支えてきたのが、風力発電だった。町の予算はかろうじて黒字を維持してきたが、風力発電の買い取り価格の下落や水産業の衰退の影響で、毎年、5億円以上の赤字になる見通しだ。

 生花店を営む斉藤捷司さんは「おれは35年やっているよ。ああ、貧しいです。なぜかというと人口が減るからでしよう。35年前、約4000人いた。今2700人ぐらいしかいない。私は大賛成です。過疎を取るか、核を取るか。当然、核を取ります。危ないものは金になります」と明言する。

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 しかし、多くの住民にとって、核のごみの話はあまりに突然だった。住民からは「町民を苦しめないでください。このことにより町民を分断しないでください。文献調査を始め、一連の申し込みには断固反対致します」という声や、「息子や娘、孫は故郷に帰らなくなり、まさに寿都町はますます過疎になります」といった嘆きの声や、「原子力発電はトイレのないマンションだと言われていますが、トイレは人が住むところではないと思う。寿都は人が住むところではなくなるんですか?寿都は寿の都じゃないんですか?」などの声が上がった。

 片岡町長は「私は寿都町をトイレにしようといま言っているわけじゃない。処分場が来るんだというのを頭から除いていただきたい」と弁明した。

■「人口策だ」 原発マネー求める神恵内村

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 住民説明会の翌日、片岡町長の表情はなぜか明るかった。片岡町長は「昨日の記事がまず一面に載るだろうなと思って、どんな記事かなと思って新聞を取りに行ったら、『神恵内』って書いてあったから、『ええ!』て驚きました。驚くとともに『やった!』って思いましたね」と話す。

 同じ日本海側の神恵内村でも、「文献調査」応募の動きが浮上したのだ。高橋村長は「議会の決めることですからね、はい」とカメラを前に語った。

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 きっかけは地元商工会が村議会に出した、応募を求める請願だった。

 神恵内村商工会の上田道博会長は「人がいなくなって人口が少なくなるから困る。我々としては、人口策だよ。金じゃねえからな。人口策だ。いかにして人口を増やせるってことだよ。(処分場が)どこ行ってもダメだダメだって言われたら、どうするのよ。道庁の真ん中に埋めとけばいいんだ」と吐露する。

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 神恵内村は泊原発の近くにあり、長年、その恩恵を受けてきた。「原発マネー」とも言われる交付金を、これまで50億円以上受け取ってきた。

 請願を出した地元商工会をはじめ、村には、交付金で建てられた施設が目立つ。それでも、急速な過疎の流れは止められず、 35年前に1800人だった人口は、今や半分以下のおよそ800人となった。

■ 「30年ぐらい手つかず」なユースホステル

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 文献調査に賛成の橋畑敏春さんは「新生児のおぎゃあという声が聞こえないですもの」と話す。

 橋畑さんは「昔はね、郵便局もあったんですよ。だいぶ前にもうなくなりましたんで、もうすべて神恵内村(の中心)に、一カ所に統合されましたから」。また「ここがユースホステルだった。全国からお客さんが来てましたので。30年ぐらい経つんじゃないですかもう辞めてから。手つかずでもうそのままですよ」と語った。

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 かつて子どもたちの声が響き渡った村の祭りや催しも、ほとんど消えてなくなってしまった。橋畑さんは過去のアルバムをめくりながら、「これが珊内という地区のお祭りだったんですよ。みんな子どもたちがね、樽みこしを出して、一軒一軒回ってね。生徒も100人ぐらいいたんです。私の時代はですね。何をやるにしても、賑やかでしたよね」と懐かしむ。

■「顔見知りだから…」影をひそめる反対の声

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 神恵内村の住民説明会で、説明に立ったのは村長ではなく、核のごみの地層処分を担うNUMO(原子力発電環境整備機構)と国の担当者だった。  経済産業省資源エネルギー庁・吉村一元統括調整官は「私どもとしましてもですね、少しでも多くの方々の不安や疑問に答えていきたいということで、頑張って全力を尽くしたいと思います。今日はぜひ宜しくお願い致します」と挨拶した。

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 住民からは「商工会の請願に対しまして、一村民として尊重したいと思います。私たちのこの小さな村でできることや、小さな村だからできることもあると思います」といった声や、「神恵内は今どんどん人口が減っていて、正直、将来がちょっと心配になっています。自分は文献調査に進んでも良いんじゃないかなと思ってます」などの賛成の声が上がった。

 一方で、住民からは「危険なことは何もないと言うような説明だったんです。『本当にそうなんですか?』と疑問です。地震が起きた時には軟弱地盤のところにね、どんどん呼び水になって行って…」と危惧する声も上がったが、ヤジが入れられた。

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 反対の声は、影をひそめていた。橋畑さんは「会場の流れというか、そんなものを肌で感じますよね、みんなね。ああ、みんな賛成しているんだな。そしたら、やっぱり反対の人は言いづらいなっていう。なぜ言えないかというと、神恵内村の820人の人はみんな顔見知りですよ。そんな中でなかなか言えないですよ」と明かす。

■寿都流・生活の知恵「顔を見たら分かります」

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 一方、寿都町の住民説明会では、「はっきりするために住民投票やったらいかがですか?」という声が、住民から上がった。それに対して、片岡町長は「住民投票をするつもりもございませんので」と答えた。

 すると他の住民からは「結局は住民の声は無視して、そんなこと基準にしないで、俺が決めるんだということでしょう」といった声や、「少なくとも、私個人は町民の皆さんの理解は得られているとは感じていません」と、批判の声が上がった。

 片岡町長は「賛成の方って、なかなか表現しにくい。これは溝を作らないための『寿都流・生活の知恵』というかね…。もう、顔を見たら分かりますよ。こっちを向いているか、向いていないか。分からなくなったら終わりだ。町長なんてやっていられません」と語った。

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 寿都町にとって、決断の日が訪れた。応募検討の表明から、2カ月足らずだった。

 片岡町長は「私の判断としてですね、文献調査の応募を本日決意させて頂きました。私の性格を皆さん存じ上げている通り、スピーディーにやっていきたいなと」と、会見の席上で述べ、応募を宣言した日の夜、片岡町長は飛行機に飛び乗った。

■「本音で言うと、過疎も困るけども核も困ります」

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 2020年10月9日の東京、片岡町長は文献調査への応募書を掲げて「これからしっかり対話をするための勉強をしなければならない。それの入学手続きみたいなもんですね」と話し、片岡町長は梶山経済産業大臣と面会した。

 梶山大臣は「最終処分の(場所)を決めていくことが我々世代の大きな課題であると思っております。議論の喚起をしていただいたことを大変うれしく思っておりますし、感謝を申し上げる次第であります」と述べた。

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 文献調査応募の知らせに、住民の心は揺らいでいた。

 生花店を営む斉藤さんは「概要調査まで行くことを望んでいます。そして地質をきちんと調べてもらいましよう。それで不合格っていったら『バンザーイ』でしょ。やはり自分の町には、本音で言うと(核のごみは)欲しくないというところはあります。過疎も困るけども核も困ります。本音で言うとね」と漏らす。

■住民が知らない“内密な”水面下の動き

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 実は、住民が知らない水面下の動きがあった。神恵内村の商工会が出した文献調査への応募を求める請願書を審議する村議会の議員8人のうち、商工会関係者6人が、その会員かその家族で占められていたのだ。

 商工会の上田道博会長も、その一人だ。実はその商工会で最終処分場を誘致する動きが、以前から水面下で進んでいたのだ。中心人物の一人がその重い口を開いた。

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 神恵内村の商工会の会員の米田秀樹さんは「内密にやってた。そういう動きがあるとどうしても冷静な判断ができなくなる。そうしたら、この話が止まってしまうから内密にやっていた」と話す。

 商工会の上田会長ら幹部4人が、13年前から密かに核のごみに関する勉強会を開いていたという。そこには、地層処分の実現を目指すNUMOの職員も招かれていたことが分かった。

■処分場に適さなくても「やんなきゃダメ」

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 これは、NUMOと国が処分場に適した場所を公表した「科学的特性マップ」だ。神恵内村の大部分は、処分場の建設に適さないことを示す黄色で塗られている。建設に適した場所を表す緑色は、村のごくわずかしかなかった。

 米田さんは「狭い範囲だから、それでも(文献調査は)可能かどうかは俺らは全然分からないから、NUMOを呼んで本当にそうなのか確かめた。『それで大丈夫です』と(NUMOから答えられた)。泊原発で恩恵を受けてきて、いろいろな建物とか村の暮らしを守ってきた。どっかでやんなきやダメ。そのためには、どこかで手を挙げて議論をしていかなきやダメ」と話す。

 商工会の請願を後押しする発言はあったのか?私たちの取材にNUMOは「言及は差し控えたい」と答えるのみだった。

■手際よく進む流れに、住民は違和感。

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 寿都町の応募表明の翌日、国が神恵内村に文献調査を行いたいと申し入れた。神恵内村の高橋昌幸村長は「請願に対して、文献調査を受けるという議会の議決ですからね。私はそれから先のことは、今のところは考えておりません」と述べた。

 手際よく進む流れに、住民は違和感を抱き始めていた。橋畑さんは「やっばり村議8人の中には商工業者(商工会関係者)が6人ですよね。その他2人ですから。ですから、議会に請願をすれば採択されるのが目に見えていたわけですよね。そこらへんが出来レースみたいな感じの印象を受けますよね」と述べる。

■「日本全体でなんとかしなきゃならない話」

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 2020年11月17日、国内で初めての文献調査が2つの街で始まった。日本中の核のごみを引き受けるのかどうか…。近い将来、選択を迫られる街に、私たちは目を向けているだろうか。

 寿都町の片岡町長は、蕎麦屋に居た。「ここ、最高にうまいんだ。3食そばでもいいくらい。いやぁだけどね、こんなにモメると思わなかった。日本全体でなんとかしなきゃならない話だから、(町民)みんなそれに対しては、理解してくれるという気はしていましたからね。『みんなで作ろう寿の都』ですので、これからもこのキャッチフレーズに向けて、みんなで町を作っていきましょうという思いで、私はもうひと踏ん張り頑張りたいと思います」と、苦悩をにじませた。(北海道テレビ放送制作 テレメンタリー『過疎を取るか 核を取るか~「核のごみ」処分場に揺れるマチ~』より)

過疎を取るか 核を取るか~「核のごみ」処分場に揺れるマチ~
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