受刑者に対する暴力、セクハラ・パワハラ行為に及んでしまう刑務官も… 刑務所が本来の役割を全うするためには?
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 “治安のための最後の砦”とも呼ばれる刑務所。日々、そこで受刑者の更生のための指導や規律違反への対応を行うのが刑務官だ。ところが近年、行き過ぎた言動も度々表面化している。

・【映像】暴行やハラスメント…元刑務官が明かす、受刑者との歪な関係性

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 京都刑務所では2019年、刑務官の男が受刑者の胸に熱湯をかけて火傷を負わせるなどしたとして懲戒免職処分になる事件が起きている。刑務所によれば、刑務官は「(受刑者に)甘くみられないようにしたり言うことを聞かせたりするためにやった」などと話したという。その前年には松山刑務所の作業場から脱走、海を泳ぐなどして23日間に及ぶ逃亡劇を繰り広げた受刑者が、逮捕後の調べで「刑務官にいじめられた」という趣旨の供述をしたとされている。

 理想と現実の狭間で揺れ、違法・不当な行動を起こしてしまう刑務官たち。22日の『ABEMA Prime』では、元刑務官を交えて考えた。

■「“こいつら怖いから、なめてはいけない”と思わせなければならない」

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 受刑者に威圧的な態度を取ることができないのはダメな刑務官だ、と捉えるような風潮が組織に根付いていたという一方、親切な刑務官の中には受刑者に付け込まれて精神を病んだり、犯罪に加担してしまったりする場合もあったと話すのは、27年間にわたり刑務官を務めた金谷道範氏だ。

 「規律・秩序を維持するためにも、暴れた受刑者を制圧するのは必要なこと。しかし度が過ぎた暴力も存在していた。私が職員になったばかりの“平成一ケタ”の頃は、例えば喧嘩が起きれば駆けつけ、手錠をかけて連行するとする。そこで制圧に関わっていない職員が後ろから尻を蹴ったり、叩いたりするということがあった。そういう行動を示す刑務官が勇ましい、やる気がある、と捉えられていた現実はあった」。

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 そのため金谷氏自身、初任者の指導時には、あえて受刑者には厳しい態度をとるよう教育していたという。

 「相手はいわゆる犯罪を犯した人、そして、これから更生させる人たちだ。中にはヤクザの親分や、半グレの皆さんもいらっしゃる。たとえば動物園で“かわいいね”と手を出すと噛みついてくる凶暴な動物がいたとする。そういう時に職員を守るためには、“こいつら怖いから、なめてはいけない”と思わせなければならない。刑務官たちにも、そういう教え方をしていた。むしろ18歳の新人刑務官に“この人たちの話をよく聞いて、親切にして、あなたの人間力で更生させる”と言っても、正直なところ難しい。自然と、組織の中に受刑者は“敵対するもの”という考え方が出てくるし、“厳格”の意味を取り違えた行動も出てくる。

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 確かに当時は受刑者の過剰収容で人手が足りず、現場は大変だったと思う。そうなると、反抗させないために威圧するというスタイルが出てくる。その刑務官が行けばピタッと雑談が無くなるといった、“なめられない形”だ。厳しく、そして困った受刑者に対しては親切、というのが一般的な刑務官の理想像だと思うが、現実問題としては、非常ベルが鳴れば急行する。そして危険を顧みず最初に飛び込むと、食堂の食券がもらえたりする、といった世界だった。“厳しい”ということで周りから評価される、あるいは受刑者から恐れられる。“あの人に言ってもしょうがないから、トラブルを起こさないようにしよう”と考える」。

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 金谷氏自身もそんな空気に悩み、最終的には退官してしまう。

 「面接官をやった経験があるが、志があって、というよりは、公務員になれるなら、ということで応募してくる人も少なくない。かくいう私もそうだった。結局、結局、それが“刑務官らしくないと…”という過剰適応、そしてそれを競い合う状況を生んでしまう。それによるストレスで破綻する人もいれば、いじめなどの形で他者に向かうケースが起こるということだ。私もどちらかというと警備よりも作業や教育の仕事を専門にやってきたので、警備の方から見れば楽をしているというか、ゆくゆく所長にするには適性がないのではと見られてしまい、かなり強く叱責、指導されたことがあった。“もういいや”となってしまった」。

■女性受刑者に対するセクハラや体調への無理解も…

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 NPO法人「監獄人権センター」(東京・新宿)には、「“殺される”と思う位のひどい暴行を受け、首、顔、頭にひどい傷害が残っています」など、不当な扱いを受けたと主張する各地の受刑者からの手紙が届くという。2006年の旧監獄法の改正以降、所内には監視カメラの導入が進み、目に見える暴力は減少しているというが、言葉による暴力もあるようだ。「“死ねバカ”と小声で脅迫を受けました」「受刑者に対して刑務官が暴言を言った場合は、誰が裁いてくれるのでしょうか」。

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 そして被害を訴えるのは、男性受刑者だけではない。女性受刑者の場合、男性刑務官からのハラスメントも起きている。徳島刑務所では、男性副看守長が女性刑務所内を1人で巡回、女性収容者が入っていた居室前で複数回「ちち右」「けつ左の右横」「ベリーグッド」などと声掛け、受刑者に恐怖心と不快感を与えたと報じられている。

 前出の「監獄人権センター」には、女性受刑者からのSOSも寄せられる。職員の塩田祐子氏は「女性からの相談で多いのは、体調が悪いときに適切な医療が受けられないというような相談だ。刑務作業ができない状態だと訴えても、“嘘をつくな”と言われ、作業を続けさせられるという」と話す。

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 「更年期を迎えている方の場合、体調が悪い時期が続くことがある。そのような中で刑務作業をしなければならず、作業拒否とみなされて懲罰になった場合、懲罰房で1日中座った姿勢でいなければならない閉居罰を受ける。不調な方にとっては非常に辛い。あるいは妊娠している受刑者が出産することがあるが、国際機関からの指摘を受けてルールが変わるまでは、分娩台に上がるその瞬間まで手錠をかけられていた」。

 背景には、女性刑務官のなり手不足もあるという。「募集をかけてもなかなか人が集まらないので、単純に人手不足を補う目的で女子刑務所でも男性刑務官が働いている」。

■受刑者と刑務官との信頼関係がなければ教育も成立しない

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 今後の刑務所、刑務官のありかたについて金谷氏は「おかげさまで行刑改革会議で議論していただいた結果、外部の目、あるいは各刑務所に有識者による刑事施設視察委員会というのが設置されるようになった。官民連携の刑務所も出てきているので、だんだん刑務所が開かれてきているのは間違いない。しかし、例えば発達障害や知的障害を持った受刑者に対する適切なケアができないために、再び刑務所に帰ってくるケースもある。社会に出た後、いかにして再犯させないようにするかも課題だ」と指摘する。

 「現状では“警備系”と“教育系”の職員がいるが、後者は本省から出されたカリキュラムを集団的にこなす、という形になっている。しかし、もっと個人に寄り添う必要があると思う。そのための職員を増やすべきだし、警備系の職員についても、看守のイメージ以上のことを要求する分、精神的な負担についてはきちんとカウンセリングを受けてもらうことも必要だ。さらに、受刑者に寄り添う外部の人たちが面接をしているが、そういう人たちが増えれば、雰囲気も変わってくると思う」。

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 塩田氏は「2001年に起きた、受刑者を死傷させた名古屋刑務所事件を機に法改正がなされ、受刑者による不服申立て制度が導入された。ところが実際にハラスメント被害の申し立てをしても、ほとんどが“そのような事実はなかった”とされ、却下されてしまう。この、制度は充実しているが運用がなされていない、という点を改善すべきだ」と話す。

 また、「被害者に対し、どのように償っていくのか。また、社会復帰のための準備を集中して行う場所というのが、刑務所だと思うし、受刑者たちはそのために入所している。その意味では、目的を達成する以前に刑務官からのパワハラを受けストレスを抱え、その状態で出所を迎えてしまうというような施設ではあってはならないはずだ。被害者の視点を取り入れた教育が始まったり、心理学のワークを取り入れ刑務官との対話を通じて人生をやり直すきっかけを見つけてもらうプログラムも始まったりしているので、刑務所が変わろうとしていることは間違いない。しかし、そうしたことが成立するためには、受刑者と刑務官との信頼関係がなければ成立しない。その意味でも、刑務官からのハラスメントはなくさなければならない」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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