新型コロナウイルスの影響で、人と人との距離を取らなければならない日々。大切な人にさえ会えないこんな時期だからこそ、心のつながりを感じたい。そんな思いに賛同した俳優やタレント、クリエイターによる「心の濃厚接触」を描いた8本のオムニバス映画『半径1メートルの君~上を向いて歩こう~』が2月26日から公開する。クリエイターには品川ヒロシ、又吉直樹(ピース)、福徳秀介(ジャルジャル)、粗品(霜降り明星)、福田麻貴(3時のヒロイン)など吉本興業の多彩な面々のほか、劇団ヨーロッパ企画の上田誠、ドラマ『半沢直樹』(TBS系)などで知られる丑尾健太郎など豪華な顔ぶれが大集結した。仕事関係、姉妹、友達、恋人……など、さまざまな人間関係の心の濃厚接触を描いた作品の中で、唯一、初対面の赤の他人とのつながりをテーマにしたのが、脚本・監督、品川ヒロシによる『戦湯~SENTO~』だ。銭湯の中で傍若無人な態度をとる常連客(ロバート・秋山竜次)と、強面で寡黙な男(般若)の前代未聞のラップバトルの様子を描いた同作品。品川と秋山に、作品について語ってもらった。
秋山、ラップに不安も杞憂「文句を言ってるだけの役だった」
――本日はよろしくお願いいたします。銭湯とラップという異色の組み合わせを題材にした『戦湯~SENTO~』、めちゃめちゃ面白かったです。まずは、このテーマを描くことになった経緯を教えてください。
品川ヒロシ(以下、品川):経緯ねえ……。ないんですよね。
――え? ないんですか?
秋山竜次(以下、秋山):いや! あるんですよ。どんなものにも経緯ってあるんですよ。
品川:そうね。なんかもう、面白いかな~ってくらいかな。
秋山:それでいいんですよ。十分ですよ。
品川:「裸の付き合い」という言葉が「ん? 大丈夫?」ってなる世の中ですよね。だから改めて裸の付き合いっていいよねって思ってもらえたらいいかなと。次に裸といえば、般若君は体がバキバキで知られているし、秋山も体ものまねで、裸のイメージがあるじゃないですか。裸という記号があるふたりを戦わせたら面白いんじゃないかという思い付きですね。
――秋山さんはオファーを受けたときいかがでしたか。
秋山:品川さんの作品は絶対面白いって思っているので、オファーがあった時点でうれしかったですね。ただね、ラップはボケでもそんなにやったことがないんですよ。ラップのスキルがないから、般若さんと張り合えるかちょっと心配していました。でも、それは無駄な心配でした。現場に入ってみると、僕はただクレームを言うだけのおっさん。韻も踏まない、文句を言ってるだけの役だったので安心しました。
――ルール無視のめちゃくちゃなおじさんの役でしたよね。女湯であんなひどい人は見たことがありませんが、男湯にはいるんですか。
品川:男湯にもいないですよ。あそこまでイカれた奴はなかなかいないでしょ。
秋山:マウント取りたがる人はいますけどね。
品川:銭湯だけじゃなくて、電車でも飲み屋でも、とにかくマウントを取りたい人っているよね。あの役は、世の中にいる嫌なおじさんの複合体だよね。
秋山:あいつは世界で一番嫌なおじさんですよね。うんこして、ケツを洗わずに風呂に入るって最悪じゃないですか。
品川:そうそう。湯船に入るときには絶対に体を洗わないといけないんです。なのに、体洗わないでそのまま入るやつがたまにいるんです。俺は体全部洗ってから入りますからね。
秋山:俺はデリケートゾーンだけ洗って入っています。最初に泡を使うのはデリケートゾーンだけです。
品川:そうそう、それでいいんだよ。
マッサージ師から大好評の「ちゅるちゅる」な秋山の身体
――秋山さんはほぼ裸で演じられていますよね。普段から裸のイメージはありますが、今回のために体づくりはされたんでしょうか。
秋山:いつもと同じように飯を食い、あまり動かず、体を焼く。それだけですね。
――普段通りの生活をされていたんですね(笑)。でも秋山さんの体って太ってるだけじゃなくて、プロレスラーのようなキレイな体ですよね。普段から本当になにもしてないんですか。
秋山:20代後半くらいにこの体が完成しました。とくに鍛えたりはしてないですが、ヌルっとした感じがするからいいんでしょうか。毛もないし。ああそうだ。今回の役のために特別に椿油を塗りました。よりつややかに見えるようにね。
品川:知らなかったです(笑)。
秋山:役作りというか、皮膚づくりはこだわりました。
――品川さんは秋山さんの裸についてどんな印象をお持ちですか。
品川:秋山の裸はお馴染みだけど、引かない体をしていますよね。
秋山:オモシロ体です。
品川:引く裸と引かない裸ってあるじゃないですか。僕は自分には、女性的な部分があると思うんです。生理的にこの裸は女の人が嫌がる裸だなとかわかるというか。秋山の裸は嫌な感じがしない……。とか言って、この記事を読んでいる人が「嫌な感じするわ!なにが女性的な部分だよ」って思うかもしれないですけど(笑)。
秋山:中国マッサージや韓国マッサージに行くと、マッサージ師の女性から「ちゅるちゅるね~」ってよく褒められていました。「いいんですか。ちゅるちゅるで。男らしくないんじゃないですか」って僕が聞いたら「いいよ、ちゅるちゅるで~っ」ってだいたい好感を持ってもらえていました。
――なるほど。ちなみにちゅるちゅるを保つコツとかあるんですか。
秋山:う~ん、そうですね~。ちゅるちゅるを保つコツは……
品川:ないだろ。「そうですね~」じゃないんだよ(笑)。
秋山:肉とかは好きですよ。脂ギトギトンなラーメンとか。脂分を意識して摂取しています。
品川:秋山はニキビとか出ない体質なんでしょうね。僕なんかは気を抜くと背中にニキビが出ちゃったりするので。って、これさっきからなんのインタビューですか!?(笑)
――失礼しました(笑)。読者はきっと興味があると思います。今回作品の中では秋山さんはウエスタンの役柄をしていましたよね。秋山さんといえばさまざまなキャラクターを変幻自在に演じられますが、ウエスタンを選んだ理由はありますか。
品川:まずは過去の秋山がこれまでやっていないキャラにしたかった。あと、銭湯に入っていくときに西部劇の対決の雰囲気にしたいなって思ったんですよね。あとはウエスタンのおじさんって、現場によくいるよね。
秋山:そうそう。要所要所にウエスタンのおじさんがいるんですよね。記憶のどこかにありますよね。あの現場にもいたな……とか。
――演技プランをふたりで話し合われたりはしましたか。
品川:最初は般若君がフリースタイルをしかけて、秋山がうるせえって言い続ける感じ。それをもとに脚本を書いていった感じですね。とくに話し合ったりはしてないかな。
――演技はおふたりにお任せだったんですか。
秋山:般若さんは困っていましたよね。僕がガチですっぽんぽんの時間が多かったので。リズムが乱れるって言っていました。
――すっぽんぽんって、本当のすっぽんぽんだったんですか。
秋山:最初は前張りしていましたが、風呂入ったら取れちゃうからそのままで演技していました。本物のマイクと僕のマイクで「マイクは2本ですね」と言ったら、衣装さんだったかな。本当に笑ってなかったですね。
――(笑)秋山さん自身は気にならなかったんですか。
秋山:ちょっと戸惑ったのは30秒だけですね。だってここに(股間のそば)にカメラがあるんですよ。自然のマイクとしてすぐに慣れるしかないですよね。
品川:秋山なめの般若というのを撮りたかったんです。クソをしてきったね~ってときに、秋山の尻をなめて、般若君に行くという絵を取りたかったので、タオルを巻きたくなかったんですよ。
品川「バカバカしいけど、なんかかっこいい。そこを楽しんでいただければ」
――今回は、オムニバスでほかの作品もありますが、期待されているものはありますか。
品川:どれも楽しみですけどね。粗品の初監督作品は気になります。又吉の書き下ろしも早く見てみたいです。
秋山:僕は、3時のヒロインの福田麻貴ちゃんがどんな脚本を書くんだろうと気になりますね。これまでにイメージがないから。
――今回の映画もそうですが、よしもとの芸人さんはネタ、バラエティだけでなく、監督、俳優などいろんなジャンルでご活躍されていますね。その辺はどんなふうに感じていますか。
品川:よしもとは大きい会社だし、やりたい人たちに活路を見出すようなチャンスのある事務所で、今後もそうであり続けるといいなと思いますよ。
――秋山さんはいかがですか。
秋山:なんでしたっけ。質問は
――(笑)。芸人さんがいろんなジャンルでご活躍されていますよね。
秋山:そうですね。すごいっすね。本当。いろんなジャンル……。
品川:秋山は興味ないと思います。
秋山:いや、ジャンルっていろんなものがありますからね。
品川:ジャンルの話じゃないんだよ(笑)。
秋山:地球も一つのジャンルですからね。星というジャンルですからね。僕はジャンルにはこだわっていきたいな。人間というジャンル。火星人、地球人というジャンル。僕らは取材を受ける側というジャンル。みなさんは、取材に来ていただいたジャンル。
品川:(他の芸人の活動に)興味がないだろ。
――(笑)ありがとうございます。最後に、映画館に足を運ぶお客さんにメッセージをお願いします。
品川:バカバカしいけど、なんかかっこいい。そういうところを目指して作品を作っているところがあるので、そこを楽しんでいただければと思います。
秋山:ぜひ、家族というジャンルでね。友達というジャンルとかね。恋人というジャンルとかね。視覚、味覚、聴覚、どこ使っても構わない。好きなジャンルを使って確かめてほしいですよね。
品川:味覚はないだろ(笑)。
――(笑)。ありがとうございます! 公開を楽しみにしています。
テキスト:氏家裕子
写真:You Ishii
(c)「半径1メートルの君~上を向いて歩こう~」製作委員会