強烈な左フックにアゴを打ち抜かれると、前のめりになって大の字にダウン。辛うじて立ち上がるも、両腕をだらりと下げ、その脚は生まれたての小鹿のように…。女子ムエタイで起こった衝撃のダウン、驚愕のパンチ力に視聴者から「女子の試合じゃない」「女子で前のめりはやばい」など驚きの声が、中には「レフェリー止めないのか…」といった声も寄せられるなど驚きと波紋が広がっている。
2月26日にシンガポールで開催されたONE Championship「ONE:FISTS OF FURY」で、人気急上昇中のワンダーガール・フェアテックス(タイ)がジャッキー・ブンタン(アメリカ)と対戦。試合前まで王者ジャネット・トッドのトレーニング・パートナーという肩書きしかなく、“噛ませ犬”とさえ思われていた無名選手のブンタンに衝撃のダウンを奪われ、ビッグ・アップセットを許した。
ワンダーガールは、妹・スーパーガールとの“強カワ姉妹”として売出し中の22歳。ストロー級で身長168センチと恵まれた体格で、6歳からはじめたムエタイの打撃センスで次々と相手をなぎ倒してきた。前回の試合ではKCカルロス(フィリピン)の鼻を得意の縦ヒジで破壊する衝撃TKO勝利を収め、注目を集めている。
対戦相手のブンタンはフィリピン系アメリカ人選手。貧困家庭で育ちながら11歳で出合ったムエタイでプロを目指した苦労人。ONE女子アトム級キックボクシング王者であるトッドのトレーニング・パートナーという以外は未知数の選手だ。戦前には「ボコボコにされるんじゃないか」といった冷ややかな声さえ聞かれ、ワンダーガール圧勝が大方の予想だ。
試合は序盤からワンダーガールの蹴りにブンタンが強いパンチで応戦する展開。ブンタンの強いパンチに対して、ワンダーガールが驚きの表情を見せる場面も。そんな中、ABEMAで解説を務めた朝陽P.K.センチャイムエタイジムは「きれいなムエタイをやりますね」とブンタンの技術の高さに反応を示すと「(ブンタン選手は)相手が入ってきたところをよく見てパンチを当てて、相手が来そうとなったらフェイントをかけたりしてよけて」と解説。すると、1ラウンド終盤に決定的なシーンが訪れる。前に踏み込んだワンダーガールの左をかわしたブンタンがカウンターで左フックを一閃。まともにアゴを打ち抜かれたワンダーガールが前のめりに崩れ落ちた 。
ダメージが大きいワンダーガールは意識朦朧とした様子でなんとか立ち上がるも、両腕をだらりと下げ、足元がおぼつかない。レフェリーに促されるように力なくファイティングポーズをとったが、視聴者からは「もうダメだ」「KOだ」など、すでに“勝負あり”との声が大勢を占めた。中には「レフェリー止めないのか…」といった意見も。その後も生気のないワンダーガールだったが、ひたすら後退しながら耐え、このラウンドはゴングに救われる。
2ラウンド以降もダメージが残るワンダーガールは、ブンタンとの打ち合いで終始劣勢。一方、勢いに乗るブンタンがフットワークを活かしながら顔面、ボディと器用を打ち分け期待の新星を圧倒。予想外の展開に朝陽は「(パンチが)効いちゃって気持ちが折れかけているかもしれないですね」とワンダーガールの心理状態について言及すると「(ブンタン選手は)出入りが凄いのとフェイントに惑わされているのと、スピードが凄い。タイの選手はお互いその場にいて蹴りあったりするので、免疫がなく面食らっているのかもしれない」とムエタイ選手ならではの視点でワンダーガール苦戦の理由を説明した。
3ラウンドもブンタンのフットワークを使った打撃に全く手がでないワンダーガールは、いつものフレームを活かした迫力ある攻撃は影をひそめ試合終了。3-0のユナニマス判定でブンタンが勝ち名乗りを受けると「ワンダーガール圧勝」を予想していた視聴者からも、「完封だな」「ひょっとして(チャンピオンの)トッドより強くないか?」「こんな強いやつはじめて見た」など伏兵の見事な勝利を驚きを交えて祝福した。
一方、ONEが期待するスター候補であるワンダーガールのまさかの惨敗に、解説の大沢ケンジは「さすがに(主催者は)ワンダーガールを勝たせたかったんじゃないかな。本当にこの選手を連れてきて良かったのか…」とONEの思惑通りにいかない状況について、やや冗談交じりに語っていた。