金魚も人生も“すくう”ポップエンターテインメント『すくってごらん』(3月12日公開)に出演する女優の百田夏菜子には、自分を“すくった”忘れられない言葉と忘れられない出会いがある。中学時代から芸能界の扉を開いた百田がこれまでの長いキャリアを振り返ったときに金言として挙げるのは「そのままでいい」という肯定の言葉。そして女優としてのターニングポイントは“朝ドラ出演”だという。
真面目という評判のある人。話を聞くと実際にそのようだ。「事務所に入ったのは小学校5年生くらいで、お仕事を本格的に始めたのは中学に入ったくらいです。そこからの道のりを振り返ると、挫折や壁は何個かありました。そういうときは徹底的に自分と話し合う。何が原因なのか?どうすれば自分は納得するのか?自分にとっての最大の味方は自分ですから、そんな自分に寄り添うことを大事に、ピンチを乗り越えてきました」と自問自答を心の拠り所にしてきた。
それでも答えが出ないとき。思考を整理するために文字に書き落とすのがルーティンだ。「頭の中にある考えをノートやスマホのメモ帳に書いたりすると、頭の中が整理されます。一度もの凄く悩んだときに色々な言葉や思いをスマホにメモしていて、後々になって読み直して驚いたこともありますが…」と笑う。文字にして視覚化することは、自分自身を客観視できる方法の一つ。ただスマホのメモ帳よりも持ち歩かない日記帳の方が安全そうだ。「海外に行ったときにそのスマホをすられてしまって。今ではどんなことを書いていたのか読み返すことはできないけれど、それは神様からの『もう忘れなさい!』という暗示なのかな?と今では思っています」と肩をすくめる。
常に自分自身と向き合ってきた百田だが、他者からのふとした言葉に救われた経験があるという。それはももいろクローバーZのリーダーに指名されたときに、元メンバーの早見あかりに言われた肯定の言葉だ。「私が思い描くリーダー像はあまりにもしっかりした人だったので、私にその大役ができるわけがないと悩んでいました。それを打ち明けた際に、あかりちゃんが『あなたはそのままでいいんだよ』と言ってくれた。芸能界にいると『~しなければならない』ということが増えるけれど、その中で“自分のままでいい”と肯定してもらえたのはとても大きなこと。その言葉があったからこそ、今でも自分らしくいられるし、そのままの自分を大切に思うことができています」と感謝しきりだ。
近年は女優業も活発。その中でも自身初となる朝ドラ出演作『べっぴんさん』(2016)には格別な思いがあるという。「いまだに大先輩の方々から『良子ちゃんだ!』とか『べっぴんさんだ!』と言われるほどで、それまでにも色々な経験をさせていただきましたが、たった一作で一瞬にして“良子ちゃん”になりました。身を持って朝ドラの影響の大きさを知りましたし、あの時学ばせてもらったことは数えきれないほどあって、すべてが自分の糧になっています」とオーディションで掴んだチャンスに無駄はなかった。
漫画家・大谷紀子による同名コミックを映画化した『すくってごらん』では、実写映画ヒロインに初挑戦。エリート銀行マン(尾上松也)が左遷先の田舎町で美女の悩みと金魚をすくう本作で、百田は和装に身を包んで妖艶に歌い踊るヒロイン・生駒吉乃を演じる。
初挑戦となるピアノの弾き語りでは、持ち前の真面目さを発揮。撮影前の集中トレーニング期間にピアノの基礎を叩きこんだ。「劇中で披露する曲だけをやるのはもったいないと思ったし、それが逆に上達の足かせになるとも思ったので、楽曲をただ覚えるのではなく、ピアノ演奏の基礎を一から学びました。鍵盤に向き合うのは幼稚園のピアニカ以来。劇中で披露する楽曲という目標が見えていたので『やるしかない!』と自分に発破をかけて正しい指使いから学び、徐々に慣れていきました」と鍵盤と奮闘した。
でもそこはやっぱり人間。「頑張らなければと思いつつ、100回以上心の中では『できるかいっ!』とヤサグレていました。撮影中も劇中で披露する課題曲を覚えていたので、寝ても覚めてもずっとピアノの音が頭の中に鳴り響いていました。夢の中でピアノを弾いていることもあって、白と黒のものを見るとすべてがピアノに見えました」と苦笑い。真面目と評判の人は、仲間の言葉と自身の努力に“すくわれて”成長を続けている。
ワンピース/REDValentino
シューズ/RED (V)
ブレスレット、/共にe.m.
スタイリスト:関 志保美
ヘアメイク:チエ(KIND)
写真:You Ishii
テキスト:石井隼人